テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
11
6,144
玄武が死んだ。
大きかったあの背中も、気付いたら曲がり、俺の方が目線が高くなっていた。実の子のように可愛がってくれた恩師が、歳と悪意によって蝕まれ、その儚い灯火を散らしてしまった。
「…帰ろう」
誰が言ったのか分からない。けれど、誰かの言葉で俺たちは動き出した。
「ああ!四神様がお戻りになられたわ!!」
「玄武様はどうされたのでしょうか?」
「まさか、玄武様が…」
「…」
一言も発することなく、それぞれの家に向かう。今はただ、この身に被ってしまった悪意という汚水を洗い流してしまいたかった。
(俺が、あの時早く動けたら…俺が、油断なんかしなければ)
自己嫌悪に苛まれる。洗い流したはずの怨霊たちが、俺を堕とそうと囁いてくるようだ。
「あの二人は、優しいからな…きっと、お前のせいじゃないって、言ってくれるんだろうな」
違う。そんな言葉が欲しいんじゃない。
じゃあ何が欲しい?
(…わからない)
「__…ル!はや___!!」
「おいア__。あんま____」
こえ?くらい…わからない…これはなに?…あたたかい
「___玄武!」
目を開ける。そこには
(…きれい)
美しい紫色が見えた。
「あっ!目開けた!おーい、見えてるー?」
アキラの大声が聞こえたから向かってみると、シャークんが小さな亀を抱いていた。その亀には隠れるように蛇が巻きついてて
「…?」
くりくりとした瞳、小さな体躯、純粋そうな眼差し___どれも前任玄武には似ていないけれど、そこにいるのは確かに、新たに生を授かった玄武だった。
「…」
「ほら、スマイル」
シャークんから玄武を受け取り優しく抱く。すると指に蛇が巻きついてきて、甘えるように頭を擦り付けた。
「あははっ!スマイルもう懐かれてんじゃん!」
アキラにからかわれ、少し恥ずかしくなってきた俺は、シャークんにまた玄武の幼体を返した。
「せっかくの機会だぞ?いいのか?」
「…いい」
「ホントのホントに〜?」
「いいって!」
確かに四神の成長は早い。そもそも、幼い時は人間に馴染めるよう人間体あるいは半獣人の姿で過ごす。そのため、産まれたばかりの神獣姿は激レアだ。
「それより、玄武のお世話係なんだけどさ。順番的に俺なんだけど、いい?」
「ああ、そっか。次アキラだったか」
「…なんで俺の方見るんだよ」
アキラは俺らに確認を取るように見せかけて俺に聞いてきた。なんで俺が世話したがってるように見えるんだ。
「だって、スマイル前任のこと大好きだったじゃん。こんな愛らしい恩師の子供、育てたいんじゃない?」
「…いや、この子はこの子だ。あの人に重ねるべきじゃない」
「まあ、それもそうだな。アキラ、世話よろしくな」
そう言ってシャークんは離れていった。どうやらアキラが忙しくなるため、代わりに告知の準備に向かったようだ。俺も特にいる理由はないし、もう戻ろうか
「うー?」
「あっ!ちょっと玄武?スマイルはもう帰るの。裾離してあげな?」
「あいあい!」
まるで手を振るように蛇が頭を左右に振った。産まれたての赤子特有の拙い口調と一緒に。あの人にもあんな時代があったってことだよな…って、いけないいけない。あの子とあの人は違うんだ。さっき俺がそう言ったばかりじゃないか。
僕が産まれてから少し過ぎ、人間体にも慣れ、ある程度言葉も分かってきた頃、アキラさんに呼ばれた。
「じゃあ今日は、約束通り名前をつけようと思うんだ。で、久しぶりのシャークんとスマイルを呼んだんだけど…」
辺りを見回してもアキラさんしかいない。スマイルさん…あの美しい人にまた会えるなんて。
「んー…おかしいなぁ。時間伝えたはずn」
「朱雀様!青龍様からの言伝に参りました!」
するとバタバタと足音が聞こえてきて、僕は咄嗟にアキラさんの後ろに隠れてしまった。やって来たのはどうやら東の人間のようで、シャークんさんからの伝言を急いで伝えに来たらしい。
「はいはい、落ち着いて。どしたの」
「せ、青龍様白虎様共に街中に現れた妖魔と交戦中!朱雀様に、玄武様を連れて応援にきてほしいと」
「…」
アキラさんは何かを考えた後、おもむろに綺麗な羽を2本抜いた。
「報告ありがとう。俺が直接向かうから、君は民の避難と救助を」
やってきた人間はそれを聞いて一礼した後、またすぐに駆けて行った。扉が閉まると、アキラさんは引き抜いた羽の1本を僕に渡し、もう1本をよく分からないことを呟きながら眺めた。
「…うん。とりあえず、玄武の無事は確保できる。じゃ、行こっか」
外に出てすぐ、アキラさんが巨大な鳥になり、僕を背中に乗せてくれた。
「気持ち悪くなったりしたらその羽握ってねー」
それだけ言って猛スピードで飛んだ。僕は舌を噛まないよう必死に口を閉じ、目に何も入らないよう下を向いた。
「俺の背中見ててもつまんないでしょw大丈夫だから。ほら、目開けて前見て?」
優しく諭され、恐る恐る目を開く。そこには
「わあ…」
「ほい、ちょうど着いた」
徐々にスピードを緩め、空中で止まった。地上を見ると
「きれい」
「よく見てて。これが、君の同僚で先輩の力だよ」
白い虎と、剣を振るシャークんさん。距離が出来たらすぐに虎からスマイルさんの姿になって弓を引き、おぞましい怪物を牽制した。すかさずシャークんさんが一太刀でトドメを刺し、怪物が黒い霧を撒きながら霧散していく。
「おっと、俺の出番だ。悪いけど、しっかり掴まってて」
アキラさんは急降下し、地面スレスレの所で人間の姿になって、扇で霧を払う。僕を片腕に抱きながら。
「幼体にはキツイと思うから、吸わないよう気をつけて」
「アキラ。玄武預かるよ」
「ありがとシャークん」
アキラさんが舞うように霧を払っている間、僕と僕を抱きかかえているシャークんさんは少し離れた場所でそれを眺めていた。
「来たか」
そこに、残党を狩っていたスマイルさんも合流し、三人でアキラさんの舞を眺める。
「久しぶりにみたな」
「ああ。いつものことすぎて、ちゃんと見るのは久々だ」
「あの…」
「どうした?」
僕が話しかけると、二人ともこっちを見てくれた。
「あの、アキラさんから、今日は僕の名前をつけるって聞いたんですけど、何をするんですか?」
「俺のシャークんや、白虎のスマイル、朱雀のアキラみたいな、俺ら同士で呼ぶ名前を決めるんだよ。まあ、歴代四神の石碑に刻まれる名前でもあるけど」
シャークんさんがボソッとすごいことを言った気がする。
すると薄くなった霧からアキラさんが出てきた。
「はー終わった終わった!二人とも、玄武ありがとね。じゃー帰って名前を決めよっか」
帰りはまたアキラさんの背に乗せてもらい、スマイルさんは龍の姿になったシャークんさんに器用に掴まっていた。
「到着〜。さ、定位置に着こっか」
三人それぞれが座り、僕は残った椅子に腰掛ける。
「じゃ、新玄武の名前を決める会始めるか」
「なんかダサくてやなんだけどw」
「そんなんどうでもいいだろ。玄武、好きな文字はあるか?音でも、形でもいい」
そう聞かれた僕は、少し考えた。文字に、好きも嫌いもない。強いていえば…
「や、ですかね…あと、ピアノっていう言葉の並びも好きです」
「じゃあ〜やあの?」
「音キッショw」
「いやいや。母音を合わせてピヤノだろ」
スマイルさんがそう提案する。ぴやの…ピヤノ。
「僕、それがいいです!」
「おっ!ピヤノね。おっけー」
「じゃあ、改めてよろしくな。ピヤノ」
「…なんか、俺が名付けの親みたいになったが、よろしく」
三人が貴重な瞬間だと言わんばかりにピヤノと呼びまくる。主にアキラさんがからかいながら。ちょっと鬱陶しくなってきたな。
「ここまでにしとこう。今日はシャークんのとこに手伝い行く約束してるしな」
「あぁ、そうだわ。やっべーまた皆にドヤされる」
シャークんさんとスマイルさんは会話しながら部屋から出ていき、アキラさんと二人になった。
「二人とも挨拶もしないで行っちゃったね。まあいいや」
アキラさんはそう言いながら机の上に本を置き始めた。
「今度は何をするんですか?」
僕が聞いてもアキラさんは適当な返事をするだけで、答えてはくれなかった。
「よし…さあピヤノ!授業の時間でーす!」
「え?」
「ピヤノには、この国の基本的な歴史や常識、責務について完ペキに理解してもらいます!分からないことはすぐ聞くこと!!」
今日から、アキラさんによる授業が毎日続くことになった。
太古の時代、人は目に見えない神を信奉し、恵みを求めた。神は人に応え、神獣を遣わした。
「これが、俺らの始祖とされる麒麟っていう幻獣ね」
「?さっき神獣って言ってませんでした?」
アキラさんはよくぞ聞いてくれたとばかりに扇子をたたみ、僕に向けてきた。
「ピヤノ、いい質問!神獣は今、俺達四神の本来の姿を指す言葉になってるんだ。で、四神ってくらいだから、麒麟はその中に入ってない…それどころか、いるのかどうかすら分からない、まさに幻の獣ってこと」
アキラさんは続きを話すね。と言ってまた扇子を開いた。
麒麟は人の願いをすべて叶えられるよう、さらに4柱の神獣を創り出した。東の青龍には商売や金融、西の白虎には災いから身を守るための武術、南の朱雀には未来予知と祭事の時節、北の玄武には病に対抗するための知識をそれぞれの責務とし、各権能を以て人を助けよ
「あの…もう少し分かりやすく…」
「まあ要するに、シャークんが皆の食べ物とか、服とか、お金に関することの仕事をしてー」
僕は渡されたノートに、シャークんさんはお金に関するお仕事とメモをした。
「スマイルが妖魔を倒したり、泥棒を捕まえたりする仕事してー」
スマイルさんは悪者と戦う…意外だなぁ。ここは逆な気がするのに。
「俺が占いで国の未来を見たり、お祭りのタイミングを決めたりー」
アキラさんは
「占い???」
「え?イメージない?俺これでも歴代朱雀でもっとも優れた卜者なんだけど」
アキラさんは占い師?とメモしておいた。
「で、最後にピヤノは、今の時代はどちらかというと妖魔の研究だね」
「研究…賢くないとダメそうですね」
僕の仕事は研究←いっぱい勉強をするᕙ( ˙꒳˙ )ᕗ
「とりあえず今日は歴史だけでいいや。何か質問ある?」
「ずっと気になってたんですけど、どうしてアキラさんは扇子を持ってるんですか?武器も扇だし…」
「…」
アキラさんは扇子をたたみ、膝の上に置き、僕に向き合った。
「朱雀の心得その一。常に美しく、優美であれ」
「アキラさん?」
「その二。感情を揺らがせるな。また、相手に悟らせるな」
アキラさんは一息ついた後
「ピヤノは、俺の神獣姿や舞を見て、どう思った?」
「え?えっと…人間体では活発で太陽のような方なのに、落ち着き払って…まるで、月のように美しかったです」
「俺…というより朱雀は、他の四神とは違う価値観を持ってるんだ」
アキラさんは閉じた扇子を口元に寄せ、悩ましげな吐息を吐いて
「皆は人や四神の生死が何よりも重要だと思う。でも俺は…美しさが最も大切で
、重要なんだ」
もちろん、生者の美醜のことじゃないよ!と慌てて付け足された。
「ピヤノにはまだ難しいよね。まあ価値観は違っても、亡くなった者の葬儀を執り行うのは俺だから。ただ…それを少しでも美しくしたいんだ」
「じゃあ、美しさのために扇子を持ってるんですか?」
「そーそー。優雅さ?的な。俺がまだ幼かった頃、元老院の古狸達によく言われたよ。ちょこまかと動いて落ち着きがなく、美しさの欠片もない、って」
「それは今でもそうじゃ」
僕が言いかけるとアキラさんは扇子で頭を軽く叩いてきた。
「こーら!俺もちゃんとした場なら静かだよ。そんな機会が滅多にないだけで…」
最後はゴニョゴニョと言い訳がましく何か言っていた。まあ、あの舞を見れば確かにそうかもしれない。アキラさんならおちゃらけそうなのに、人を助けるのは大真面目にやっていた。
「アキラさんってなんだかんだ真面目ですよね」
「なんだそれwほらほら。質問ないならもう終わり!明日もこれくらいの時間にここ来て」
「はい。ありがとうございました」
僕はアキラさんに一礼し、北にある自分の家に戻ることにした。
(あ、もう暗い…)
話に夢中になりすぎたかもしれない。こんな遅くに一人で外を歩くなんて初めてで、少し怖い。
「よォガキ。なんかいいご身分そうな服着てンなァ?」
「俺らにちょいと恵んでくれよ」
「もしかして、お前がウワサの玄武サマってやつか?」
目の前から大きな男が現れて、道を塞いできた。さらに後ろからも来て、僕は完全に囲まれた。
「大人しくついてきてくれンなら、痛いことはしないぜ?」
「え、えっと…」
こんな時、一体どうすればいいのか分からない。神獣姿になって甲羅に篭れば傷つけられることはないけど、100%連れて行かれる。自衛の術なんて何もないため逃げることもできない。
「四神の幼体ってのは、ホントにいいターゲットだぜ…そうだ!ボクにちょっとしたお話を教えてやろう。俺の先祖はな?何代か前の青龍を捕まえて、不老の鱗っつー名前の薬を売ってたんだ。ま、毟った青龍の鱗のことだけどなw」
「そんな話もあったなァw」
「こいつはどうする?w目とか物好きなコレクターに好評なんじゃないか?」
「そうだなwあの鳥野郎には劣るが、全員綺麗な色してるしな」
確かにアキラさんは、未来を見る目というだけあって綺麗だけど吸い込まれそうな不思議な色の瞳を持っている。
「それでいうと青龍もな。なんでも、白目が黒になる珍しい瞳なんだとか」
「あとは白虎か?あいつは」
「おう。呼んだか」
突然上から聞こえてきた声に、そこに居た全員が驚いた。上を見ると、建物の屋上からこちらを見る紫色が見えた。その色は月を背景にして___
「ぐわぁぁ??!」
「びゃ、白虎?!」
「様をつけろって習わなかったのか」
飛び降りてきたスマイルさんが一人に蹴りをお見舞いし、その隣にいた男に当てて同時に倒し、殴りかかってきた別の男を躱して気絶させた。
(すごい…まだ1分。いや、30秒だって経ってないのに)
スマイルさんはなんともないような顔をして男達を縄で縛り上げていた。
「こいつら俺の拷問部屋に入れといて」
「はっ!白虎様!」
いつの間にかいた西の人間達が、僕を襲った男達を連れていく。
「大丈夫だったか?」
スマイルさんが心配しながら手を差し伸べてくれた。それに甘えて立たせてもらい、スマイルさんの綺麗な紫色を見る。
「…今日はもう遅い。家まで送るわ」
「え、いいんですか?」
スマイルさんは何故か僕の手を握ったまま、僕の家である研究所に隣接された小屋に送ってくれた。自分で思っていた以上に歩いていたようで、スマイルさんとの時間はあっという間に終わった。
「じゃあ、これで。…もう休んだ方がいい」
「はい、ありがとうございました!おやすみなさい!」
僕がそう言うと、スマイルさんは少し柔らかく笑って
「ああ。おやすみ。ピヤノ」
コメント
3件
うわあああ新玄武ちゃん生まれた!!🥺💕 前の玄武さんが亡くなってからの流れ、すごく切なくて胸がぎゅってなったけど、ピヤノがスマイルたちに名前もらって、みんなで迎える感じがめっちゃあったかくて泣ける😭✨ スマイルが襲われたピヤノ助けて「おやすみ、ピヤノ」って優しく笑うとこ、マジでエモすぎて何度も見返した…!アキラの「美しさが最も大切」って価値観もすごく印象的で、続きめっちゃ気になる!!新作の投稿ありがとうございます、これからも応援してます🌸💕