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「く、うっ……」
痛恨の表情となった灰色の少女。突然縛られて事で、咄嗟に逃げる為に片足が上がってしまい、足を大きく開いた状態で固定されてしまったのだ。
元々ボディラインがくっきり見える服を着ているせいもあり、少女が身じろぐだけで、蔦が色々な所に食い込んでいく。
見た目はミューゼと同じくらいか、少し上程度の年齢と思われる美少女で、それなりに肉付きも良い。大人達が興奮するには、十分な条件である。
「はーなーしーてっ! このままいやらしい事するつもりでしょ! お父さんが読んでる本みたいに! お父さんが読んでる本みたいに!」
首をブンブン振りながら肉親の尊厳を著しく損なわせる発言をし、少女は近くのシーカー達を睨みつけた。
睨まれたシーカー達は男女合わせて6名。その全員だけでなく、その周囲の者も含めて雷に打たれたような衝撃の顔になり、のけぞった。そして、深刻な顔に手を当て、息を吐く。なんとか平静を取り戻し、同時に口を開いた。
『そうか! その手があっ──』
「ってたまるかああああああ!!」
バルドルが全力で叫び、シーカー達の言葉を遮った。
「犯罪者はもれなくクビにするからな! 勢いに任せて、変な事するなよ!?」
「くっ……」
「女同士であれば問題──」
「あるわっ!!」
心底悔しそうにする野獣たちを目の当たりにし、この組織本当に大丈夫かと、心配になる組合長であった。
少女はそんなやり取りを見て、怪訝そうな顔をした。
「えっしないの? こんなに可愛いクォンがいるのに、手を出してこないとか、もしかしてヘタレなの?」
「ほら組合長! 同意は得ました!」
「こらそこの! 無駄に挑発すんな! お前らも元気になるな!」
少女の言葉に喜ぶシーカー達。一斉に顔を上げると、少女の顔が嫌悪感丸出しになった。
「やだ気持ち悪っ! こっち来ないでっ! 犯されるーっ!」
「え゛っ」
さっきと言っている事が違うと、シーカー達がショックを受ける。傍観しているパフィ達も、呆れている。
「手出されないのか、出されたくないのか、どっちなのよ……」
「う~ん……」
(うわ~、なんか薄い本みたいな展開だ……服も水着みたいでファンタジー感あるなぁ。ぴあーにゃには、まだ早いかも?)
「……ちょっとアリエッタ。なんでわちのメをかくす?」
その間もバルドルとシーカー達が言い合っていたが、少女が突然決意したような顔になった。そしてバルドルに向かって言い放つ
「アンタがこの怪しい連中の親玉ね。クォンをこんな所に連れてきてどうしたいのかは知らないけど、大人しく捕まる訳にはいかないわ」
「いやお前何言ってんだ?」
いきなり意味不明な冤罪を被せられたバルドルが困惑。少女はなおも言葉を続ける。
「ヒトの言葉を使っているから安心してたけど、見た事の無い色の生物だし、こんな草を操るなんて。今まで空想のモノだとばかり思ってたけど、人の姿をしたモンスターってのは本当にいたのね」
「モンスターってオレ達か?」
「だったら、貴方達全員倒して、無事に帰れば、クォンは英雄ってわけね。ふっふっふ」
「おーい……1人で何盛り上がってんだー?」
「はっ、もしかしてここは、地の底にある魔界ってやつ? そういえば落ちてきたって言ってたし……」
(あ、駄目だ。これ人の話聞かないやつだ)
周囲を無視してブツブツ言い始めた少女を見て、バルドルは視線でミューゼ達に助けを求めた。実際今捕獲しているのがミューゼだという事もあるが、他のシーカーに任せたらいかがわしい事をやらかしそうで、怖いのである。
元々ピアーニャに指名もされているので、ミューゼ、パフィ、ムームーもそれなりにやる気ではある。何より、このまま引き続きアリエッタに格好良い所を見せたいようだ。
「とりあえず恰好がアレだから、生地で包んじゃうのよ?」
「うん、確かにアレは変態に狙われちゃうね」
(後で服ごとパンにならなきゃいいけど。見た感じ、替えの服とか無さそうだし)
ミューゼは先日犠牲となったパンツの事があり、ちょっと心配になっていた。
パフィが小麦粉を取り出し、ミューゼに水を貰った。手の中で一瞬にして生地が出来上がる。そのまま少女に向かって伸ばす為に構えたその時、丁度少女も動き出した。
「モンスターども! これ以上アンタたちの好きにはさせないわ! 世界征服なんて、このクォンが絶対に阻止してみせるから!」
「誰もそんな事言ってねぇよ……」
どうやら自分の中で妄想をつけ足して、情報を整理し終えた様子。間近で対応に困っていたバルドルが、ただただ呆れている。
なんだか色んな意味で可哀想になったパフィは、早く人の目から隠してあげようと、生地を操り、少女に向けて伸ばした。
「よいしょ、【コロネバインド】っと」
太く伸ばした生地が対象に巻き付き、動きを封じる技である。足先から首までを隠すように、優しく包み込んでいく。少女を見ていたシーカー達が残念そうにしているが、存在ごと完全に無視されている。
そして少女は……慌てる事なく、吠えた。
「悪い奴はクォンがみんなやっつけてやるわ! 【アーマメント】!」
次の瞬間、生地が光りながら倍以上に膨れ上がった。パフィが目を見開き、バルドルが慌ててその場から退避する。
生地が一瞬茶色に変化した直後、生地の表面に光が走り、通った場所を真っ黒に焦がす。そして、
バァン!
生地と蔦が弾け飛んだ。アリエッタがビクッと震える。
「む、やるな」
「私のパンを焦がしたのよ」
「ええっと……えっと」
抵抗されても冷静なピアーニャ。冷静なフリをして適当に呟くパフィ。ミューゼは蔦を破られ焦っている。経験の差が如実に態度に出ている。
後ろでは、見ているだけのラッチとアリエッタが慌てている。ミューゼの魔法は無敵だと信じていたので、目の前で起こった事が信じられないようだ。
パン生地が弾けた場所では、少女が着地し、バルドルを睨みつけていた。しかし、先程とはその姿が違っていた。
耳のある場所には、長い金属と思われるものが被さっており、両肩の後ろには金属の翼のような物が広がっている。腕には無骨なガントレットが、足には太腿から下を包み込むように、厳つい鎧の足の部分が装着されている。
「なんだあれは……」
「変わった鎧ですね」
当然、知らないリージョンの知らない技術なので、ピアーニャ達は警戒しながら観察する。
しかし、1人だけ目を輝かせる者がいた。
「おお……おおおおお!!」
「んえっ!? どうしたのアリエッタちゃん!」
「え、なに? どうした?」
1人声を上げたのは、ピアーニャを抱きしめて守ろうとしているアリエッタ。変身した少女を見て、一気に興奮し始めたのだ。
「すごいっすごいっ!」(メカ少女だ! すっげええええ! しかも変身系だ! 滅茶苦茶カッコイイ!!)
前世にあった空想の存在。それが目の前にいる。
思わずピアーニャから手を離し、目をキラキラさせながら飛び跳ねた。
そんな熱狂的な視線を浴びた少女は、一瞬何事かとたじろぐも、その視線の主を見て、頬を染めた。
「え、何あの子。可愛すぎない? あの子もモンスターなの? 肌も変な色だし、でも可愛い……」
少女の肌は灰色。どうやらそれが標準の色のようで、ベージュの肌色を持つアリエッタやミューゼ達を、変わった者として見ている。
リージョンによって肌の色が違うのは、転移が出来る今では常識となっているが、新しく発見したリージョンにいけば、こういう問題が起こるのはほぼ必然である。なので、シーカーの誰もが、その反応を当然の事として受け止められるのだ。
「僕もシーカーになってから色々行ったから、その気持ち分かるなぁ」
「私は小さい頃にシャダルデルク人を見て、泣いちゃった事あったわ」
「うんうん、懐かしいな」
しみじみとした空気が辺りを支配する。興奮した様子のアリエッタを見て悶える者もいる。
ただ、その中でも2人だけが、これ以上ないくらいの衝撃を受けて、動きを止めていた。そして、少女を射殺す勢いで睨みつけた。
「アリエッタからあんな目を向けられるなんて……」
「生かしてはおけないのよ」
「ひっ!? なにこのプレッシャー!」
犯人は当然、ミューゼとパフィである。アリエッタの大好きな魔法を使っているというのに、その魔法を撃ち破って、さらにアリエッタから羨望に満ち溢れた笑顔を向けられたのだ。少女の姿の何がアリエッタの琴線に触れたのかは理解出来ないが、いきなり現れたセクシーな格好をした相手が、自分達より良い目で見られるのは我慢出来ないと、敵意を漲らせて立ちはだかるのだった。要するに、度を超えた嫉妬である。
「……ムームー。2人より先になんとかしてくれ」
「そんな無茶な!」
アリエッタが関わるミューゼとパフィは、誰よりも恐ろしいと評判である。特に王城で。
そんな2人を止めるのは、ピアーニャでも難しい。ならば標的を掠めとるしかないと、ムームーに丸投げした。ピアーニャはミューゼ達に捕縛を任せた手前、アリエッタを護らなければいけない立場にあって離れられない……という事を言い訳にしたのだ。
ムームーもそれが分かっているので、拒否は出来ない。とりあえず、ミューゼ達と直接対立しないように、奪い取るしかない。
「なるほど、あの2人が本当の魔王ね。なんか頭の周りに変な玉浮いてるし、只者じゃないわね。でも、負けるわけにはいかないわ」
少女はおかしな妄想を続けたまま、ミューゼ達と対峙する事にした。
周囲のシーカーは、ミューゼ達の殺気に巻き込まれるが怖くて、近づくのを止めていた。決着がついたら行動を起こすつもりである。開き直って、観戦用の飲み物を用意し始める者もいたりする。
「はぁ、帰りてぇ……」
事態の変化に、ついに屈強なバルドルが弱音を吐くのだった。
バルドルの弱音を合図に、少女が横に跳んだ。そのまま空中で旋回し、側面からパフィに接近。金属で覆った拳を光らせながら、飛びかかった。
(バーニアはチャージ中で帰る為には無暗に使えない。使えるのはアーマーのエーテルだけ。やってやろうじゃないの)
光った拳をパフィに叩き込む。もちろんパフィもただ立っていたわけでは無い。フォークを使って拳を防いだ。
動きが止まった少女の下から木が生え、少女を捕えようと包み込む。しかし、少女は予備動作無しでいきなり横に動き、木から逃れた。
観戦しているピアーニャは、少女の動きに驚愕するでもなく、素直に感心していた。
「ほー、あのアシで、キドウをかえているのか? みたことのないギジュツ──」
「すごい! ぴあーにゃ! すごい! キャー!」(いやああああしゅごいいいい!! みんなかっこいいいいいい!!)
「ああもう、うるさいな!」
「きゃー! きゃー!」
興奮のあまり、幼い感情に歯止めが効かなくなったアリエッタに振り回されながら。