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パフィから弾かれるように離れた少女は、空中で回転し、体勢を立て直して着地。
武装した掌を上に向け、何かをしようとしているのを見て、パフィがミューゼに指示を出した。
「ミューゼ、阻害するのよ」
「うん、【禍林樺】!」
素早い動物と戦う為の作戦は、前々から立てていたので、ミューゼもすぐに最適な魔法を選択していた。後は危険と判断したタイミング、もしくはパフィの指示で発動するのみだったのだ。
ずもっ
「わっ!?」
発動した魔法によって、辺り一帯に細い木が沢山生えた。しかも、かなり高い木で、枝も多い。
足場や壁になっている木から生えた木は、それなりに広範囲に広がった。少女だけでなく、遠くからのんびり観戦していたシーカー達も、木に囲まれて驚いている。むしろ呑気に座っていたので、枝に引っかかって騒いでいる。
「おおう、なんか凄い事になったよ……」
魔法を使った本人も驚いていた。ネマーチェオンにいる事で、植物魔法が増幅されているのだが、その事を忘れて全力で魔法を使ったのだ。想定より大幅に木が増えてしまった。
しかし範囲と長さが拡張しただけで、近くにいるパフィから見れば、いつもと変わらない。すぐさま少女がいる方向へと駆け出した。
「もう! ジャマ!」
少女が地面を滑るように現れた。接近したパフィと目が合うと、慌てて攻撃態勢に移る。
「このっ」
「はやっ、いのよっ」
ガキン
パフィは相手を仕留めず捕獲前提で動いているので、フォークだけを使って、少女の回し蹴りを受け止めた。
受け止めている間に、右手を腰のポーチに入れてゴソゴソと探る。
(変わった武装ね。魔界には何があるか分かったもんじゃないわ)
武器としてカトラリーを使うのは、ラスィーテ人くらいなものである。見知らぬリージョンからやってきた少女にとって、未知の相手となっている。
しかしシーカーにとっては、未知の生物や武器など日常の事。周囲のベテランシーカー達はもちろん、まだ若手のパフィも、相手の事を短時間で見極めようとする観察力は身についている。
「【ラザニア】!」
まずは小手調べとばかりに、生地で包みこんでみた。動きの速い相手は、まずその動きに制限をかけていくのが大事なのだ。先程のミューゼの広範囲魔法もその一環である。
突然目の前に広がった生地を、少女は回避する事が出来なかった。なんとか軌道をずらしたが、足を引っかけてバランスを崩してしまう。
「【フルスタ・ディ──」
「くっのぉっ」
連続して捕らえようと、パフィが餅を取り出したが、少女が勢いよく回転し、生地から逃れた。そのまま近くにある木に足をつけ、垂直に張り付く。そのまま油断無くパフィを睨みつけた。
「【縛蔦網】!」
そこへ、ミューゼからの蔦が襲い掛かる。少女は慌てて距離を取った。
「うぅ……近づきにくいし、近づいたら攻撃が途切れないし、なんなのぉ……」
弱音を吐きつつも、諦めずに2人に向かって跳んでいくのだった。
突然生えてきた木に驚いたシーカー達だったが、気を取り直して、のんびりとミューゼ達の戦闘を観ていた。飲み物と野菜チップスを抱え、楽しそうである。お菓子の材料は勿論キュロゼーラ。
「いい動きするなぁ。今度手合わせ願いてぇな」
「とか言って、戦いながらあのコを撫で回しまくるつもりですね、組合長」
「お前らと一緒にすんなっ」
『えっ、撫で回したくないんですか?』
「なんで全員で『何言ってんだコイツ』みたいな顔して、オレを見るんだよ。牢にぶち込むぞコラ」
バルドルは組合長だが、部屋に入ってきたシーカーにいきなり襲い掛かって、抜き打ち対戦をするくらいに脳筋である。しかし、それ以外では常識人なので、変態達に対しては人並みの対応になるのだ。でなければ、ロンデルにもピアーニャにも組合長として認められていないだろう。
「あー、ミューゼちゃんの触手であの子の──」
「お前らもう黙って見てろ。静かにしねぇやつはぶん殴る」
バルドルの説得?で、全員が大人しくなった。そのまま改めて観戦に戻る。
ミューゼの太い蔓が少女を襲い、少女がそれを難なく回避する。しかし動いた先にパフィが先回りし、フォークで叩く。少女の踵が光ったと思ったら、そのまま蹴りを繰り出し、フォークを防いだ。
「すげぇ。体勢を崩した状態から、ノーモーションで蹴りを出せるのか。あの光が何かやってるのか?」
少女の足鎧から出ている光に注目するバルドル。しかし、光が出るのは足からだけではなかった。
翼のような部分の先端からも光が噴き出し、逆さまの状態から飛び、パフィから少し離れる。
そこへミューゼの蔓が伸びてきた。慌てた少女は足の光を強め、思いっきり跳んだ。だが、バランスを崩し、蔓の上に転がり落ちる。
「おぉ、あの連携を避けきるとはな。でも流石にギリギリだったか」
バルドルが感心する。声にまで出ているのは、横のシーカー達の存在を気にしないようにする為である。
なにしろ、シーカー達は「よっしゃ良い開脚」だの、「違うんだ、餅で服を引っ張れパフィちゃん」だの、コソコソと呟いているのだ。真面目な上司としては現実逃避したいのだろう。
注目されている少女は、のたうつ蔓の上で身を起こし、状況を把握する為に辺りを見渡し、上を見上げた。すると、驚愕の顔になった。
シーカー達も一気に騒めき、立ち上がってその場所に注目した。
「なんでアンタが捕まってんの!?」
少女の視線の先には、脚に蔓が巻き付き、逆さまにぶら下がっているパフィがいた。ちょっと恥ずかしそうにスカートを押さえている。
「……捕まってないのよ?」
「いやどう見ても吊り下げられてるじゃん!」
何故かとぼけるパフィ。まさかうっかりミューゼに掴まって、ここからどうしよう…と考えていたとは言えない様子。
蔓の根元では、ミューゼも目を点にして固まっていた。捕まえる相手を間違えたようだ。
「なんか可愛い下着見えたし……魔界じゃそーゆーのが流行ってんの?」
「いいのよー? これはアリエッタが考えたのよ。あげないのよ」
「…………別に欲しくないもん」
それが欲しいというのが、態度で丸わかりである。
パフィは今のうちに、次の行動を考えた。失敗を誤魔化す為に、必死で考えた。その結果、
「ミューゼ! 私を使うのよーっ!」
「!」
ミューゼは新人シーカーでもあるので、戦闘に関しては仲の良い先輩であるパフィの指示に、極力従うようにしている。
例えそれが、どんな無茶であっても、パフィの能力でなんとかすると信じて。
「え……?」
そう、パフィの選択は、パフィ自身を武器にする事だったのだ。
まさか仲間がいるのに、そのまま動くとは思っていない少女は、言葉の意味を理解出来ず、眉をひそめて様子をみてしまった。
「【コロネ──」
パフィが小麦粉生地を頭から渦巻き状に纏い、硬く焼き、
「─ヴァイン─」
ミューゼが杖を振り上げ蔓を操り、
『──ハンマァァァァァ】!!』
思いっきり叩きつけた!
「きゃああああ!?」
まさかの攻撃に驚愕する少女は、なんとか逃げようと体をひねる。しかし驚きが勝ってなかなか動けない。かろうじて片足から光を出した所で、パフィを包んだパンがすぐそこまで迫っていた。
ばきゃおおおおおん!
「ほぎゃあっ!」
かろうじて直撃を避ける事は出来たが、衝撃で吹き飛んでしまう。蔓の上で数回転がり、なんとか蔓を掴んで止まった。そのままゆっくり身を起こすと、パンごと突っ込んできたパフィが目を回して倒れていた。
「えぇ……」
敵対していたが、あまりに間抜けな自爆行為に、反撃する気にもなれない様子。
少し茫然としていると、背後から人影が飛びかかってきた。
「パフィのかたきいいいい!」
「ちょっええええ!?」
杖から蔓を数本伸ばしたミューゼである。今度は蔓を鞭のように使い、長リーチの接近戦を仕掛けた。
しかし、少し冷静になった少女が手の部分を光らせ、薙ぎ払う。明らかに手が届いていない距離だったが、蔓が切断された。
「いやいや、アンタがやったんでしょーがっ!」
反論するが、ミューゼはたじろぐ事もなく、真剣な顔で蔓を復元、伸ばしなおす。そして吠えた。
「うるさーい! この逆恨み、はらさでおくべきか!」
「自覚してる!? っていうか何言ってんの!? 魔王ってこんなに話が通じないものなのね」
今度は上段から杖を振り、蔓を一斉に伸ばした。複数の蔓が少女に向かって伸びていく。
少女は蔓を撃墜するため、立ち上がりかけた状態で再び手の部分を光らせる。
意味の無い逆恨みと勘違いが、物理的に衝突しようとしていた。
「……やれ」
合図の直後、ミューゼと少女の間を、人影が通過した。
『えっ』
気づいた時には、辺りに糸が張り巡らされていた。慌ててそれを処理するために、2人が動き出そうとした瞬間、通過した者が糸を掴み、一気に引っ張った。
すると、ミューゼと少女、そしてパフィの全身に糸が絡みつき、動きを封じた。
『っしゃあー!』
観ていたシーカー達が、拳を握りしめながら、一斉に嬉しそうな歓声をあげた。
「あ、しまった。これはまずかったか……っていうかなんでそんな変なポーズになってるの……」
やったのはムームーである。パフィが倒れた事で、捕獲しやすくなったのを見計らい、ピアーニャが指示を出したのだ。
3人の美女、美少女を、なんだか色々問題ありそうな体勢で縛ってしまった為、慌てて部分的に隠しにかかる。すると、遠くで喜んでいたシーカー達が少し静かになった。
いきなりで驚いたミューゼは、なんとか魔法を使って抜け出そうとするが、アリエッタに手を繋がれて歩いてきたピアーニャに睨まれ、おとなしくなった。
一方少女も抜け出そうとするが……
「ごめんね。変な事はしないから、今だけ我慢してくれるかな?」
「えっ……あっ……」
声をかけたムームーの顔を見て、一気におとなしくなった。しかも顔が赤い。
「この後ちゃんと説明するからね。キミには信じられない事ばかりだと思うけど」
「ひゃいっ!」
ムームーの言う事をおとなしく聞いている少女を見て、またなんかややこしい事になりそうだと、ジト目になるピアーニャであった。