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#料理男子
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「紗矢―」
「あの……その」
不思議そうな顔をして彼が出てきたので、私はバックで彼の甘い言葉や雰囲気をガードしつつ、尋ねた。
「今日は、沢山一緒に居られるでしょうか」
「まあ、そうだな。緊急オペや救急車が四台一斉に来たりはしなければ」
つまり今は休みではなく、自宅待機日なんだ。
でも、言わなければ。
お弁当のこと?
一緒に居たいこと?
仕事が忙しいのに料理を無理してないかなってこと?
聞きたいこと、言いたいことが沢山あるのに、彼の優しい笑顔を見たら上手く言えなくて慌ててしまう。
「その……私たち、新婚じゃないですか」
「そうだな」
「でも、喬一さん、ソファで寝るぐらい忙しいじゃないですか」
「学会前だったから。でも準備は終わったよ」
近づいてくる彼が、ガードしていたカバンを強引に奪うと私の顔を見て、ククッと笑う。
「そんな顔しないで。我慢できなくなるだろ」
「どんな顔ですか」
熱い。頬に体中の熱が全て集まってくるぐらい熱い。
このまま顔から爆発してしまいそう。
「もっと甘えさせてッて言ってる」
「……正解です。その……仕事が忙しい喬一さんにこんなことを言うのはあれですが」
「うん。言って」
「朝、喬一さんのいないベットは寂しいというか、だから、その無理ならお弁--」
言い終わらないうちに抱きしめられて、抱きかかえられてしまった。
「まだ言い終わってません」
「いやあ、今日は沢山寝たし。確かに新婚なのにイチャイチャが足りないなと俺も我慢の限界でさ」
そのまま優しくベットに下ろされると、彼が私のコートを脱がして、ベットサイドにかけた。
「手が冷たい」
「……イチャイチャするなら、お風呂に入ってきてもいいですか?」
この雰囲気に私も気づいて、立ち上がろうとしたら彼が覆いかぶさってきた。
「だめ」
「だめのだめです。喬一さんはシャワー使ってる!」
「我慢できないんだ。ごめん」
覆いかぶさっていた彼が豪快に上のシャツを脱ぐと、私を見降ろしながら楽しそうに笑う。
「可愛い紗矢が悪いから、諦めて」
「だ――だめ。お布団が汚れる!」
「脱いじゃうから大丈夫だって。ほらほら、あんな可愛いことばっか言ってたら、キスで塞ぐよ」
短く触れた唇に、私の心臓が一瞬止まった気がする。
いや、絶対に止まった。止まっていた。
普段優しい彼が、早急に私の服を脱がそうとしている姿は、ギャップがあって私の背中もじわりと期待で甘く疼く。
見下ろされる彼の目が鋭利な刃物のように鋭いのに、私の胸に甘く降り注ぐ。
彼が私を見ている。それだけで力が抜けてしまう。
彼の指か絡まって、一緒にベットのシーツに沈んでいく。
貴方がこうして触れてくれなかったら、私はゲームの向こうのキャラの、決められた台詞にキャーキャー騒ぐだけで満足する人生だった。
貴方が私を最高に甘やかしてくれるから、私は朝も夜も仕事中も、貴方を思い出してしまう。
私を幸せにしてくれる貴方が、ちゃんと幸せなのか無理してるのか、心配になるんだ。
深いキスを合図に脱がされながら、私は悩んでいたことを口に出す。
「あの、私がキッチンを使うのは問題ないですか?」
なし崩しに脱がされる前に、なんとか話を終わらせたい。
きっと体の奥を触られたら、私はズブズブで思考回路が停止してしまうのだから。
「もちろん。この家は二人のものだから、キッチンも好きに使っていいよ。危ない包丁は、鍵をかけた引き出しに入れてるし」
「その……」
私が作った料理は食べてくれますか?
そういうと、彼は趣味を奪うなと怒るのかな。悲しむのかな。
理解してくれると思ったのに、と悲しむのかな。
「疲れている時は、無理に料理してほしくなくて、食べたくないわけじゃなくて、どっちかというと、めちゃくちゃ食べたくて、でも」
「うん」
「でももっとイチャイチャしたいから、喬一さんが忙しいときは私もご飯を作りたい、です」
私のまとまらない言葉を聞いて、脱がしていた手を止めてくれた喬一さんは、ふむ、と小さく考えるようにうねった。
「確かに、俺の料理を食べた後にご飯を作ってくれる人はいなかったな」
「凝ったものは無理だけど、栄養があるものを頑張って作るんで」
「紗矢が嫌じゃないならお願いしようかな」
でも今日はデザートから食べちゃおう。
彼が体をこすり合わせてきて、当ててきた熱に体が緊張してしまった。
それなのに。
「……」
テーブルに置かれた携帯が鳴る。この音は呼び出し用の音。
そして聞こえてくる救急車のサイレン。