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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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第1話

近頃、巷ではある噂が流れている。

自分が困った時、極端に言えば命の危機がある時、一人の青年が助けてくれるというもの。

信憑性は極めて低いが、いつからか語られるようになった話。

所謂、都市伝説と言うやつだ。


彼に助けてもらうには合言葉が必要であり、呟くだけでいいのだとか。

その合言葉こそ―――


「10or11」

――シーン……。

辺りを静寂が包む。

「なんもなんないじゃなん!!」

「なんだあ、やっぱり嘘じゃないか」

「噂は噂ってことかな」

「まあまあ、たまたまかもしんないし」

夜が更けた頃、コンビニの明かりの下に集まった4人の少年たちは、こぞって不満を漏らしていた。彼らの目の前には、先程隣のコンビニで購入したオカルト雑誌が開かれている。そのページには、大きな見出しでこう書かれていた。


『巷に現れた救世主!!呟くだけで現れる!?』

と。


「呟いただけで解決って。Twitterじゃないんだから」

「その呟くじゃないでしょ」

「でも読み方合ってるよね?『テン・オア・イレブン』」

「うーん。せっかく買ったのにこれじゃあなあ」

「噂は噂だからこそいいんじゃない?」

「でも単なる噂だったら雑誌に載らないんじゃないかな?」

「そうかなあ」

「だってホラここに書いてるじゃんか。『目撃者、助けて貰った人多数』って」

「あ、ホントだ」

「じゃあ本物なのかな」

「でもさあ、雑誌って盛るじゃんか」

「まあ、そんなもんじゃない?」


少年たちの会話が佳境に入ろうとした時、携帯電話の通知が鳴り響いた。

「げっ!!」

「どしたの?」

「ママからだ。『ジュース買いに行く割に遅いんじゃない?もう10時だけど』だって!やっべ!」

「マジ!?10時!?」

「補導の対象になるかもな」

「お前冷静すぎだろ!補導はヤバいって」

「土日はさむとしても月曜絶対なんか言われるなあ」

「主任怖いんだから!!早く帰ろうぜ!!」

「そうだな!!じゃあまたな!!」

4人の少年たちは足早にその場を後にし、金曜の人混みの中に消えていった。



街灯の灯りを頼りに、人通りのない道を走る少年。

母親から早く帰ってくるよう催促のあった、あの少年だ。

手には先程の雑誌が握られている。

(もう10時だったのかよお。この雑誌に夢中になったせいだな)

そんなことを考えながら、家へと急いでいる。

が、そろそろ体力が限界を迎えようとしていた。

「はっ……はあ。くそっ。疲れたあ。」

減速し、ついに歩き始めた少年。どうやら体力が底をついたようだ。かなり遠い所から慌てて走ったせいなのだ。無理もないだろう。

(それにしても、なんも起こんなかったなあ)

先程のことを思い出し、落胆しながら歩を進める。

(面白くなると思ったのになあ)

(中学のみんなに自慢出来ると思ったのに、うーん)

同じ問いを繰り返しながら歩く少年。

考えながら歩いていたせいだろうか。

その後ろに人影が近づいていることを、彼は知る由もなかった。


後ろの人影が距離を詰め、ついに少年の肩に手をかける。

振り返る少年。

その目の前にはマスクに黒帽子のいかにも怪しい男が立っていた。下に視線を落とすと、手にはカッターが握られている。おそらく通り魔か愉快犯だろう。

この間、わずか3秒。

恐怖で腰を抜かし、声も出せない少年。その拍子に手に持っていた雑誌が落ち、先程皆で眺めていたページが開かれた。

できるのは座ったまま後ずさることのみ。

その時、少年の脳内には死、という文字が浮かんだ。

(え、俺ここで死ぬの?)

(中学生で?)

(まだ少ししか生きてないのに)

(もう?)

(なんで俺なの)

(あの時早く帰っていれば)

(なんで)

(そもそも雑誌なんて買っていなければ)

様々な思いを巡らせながら後ずさる。が、逆に塀に追い詰められてしまった。男は歩を進めてくる。

「助けっ……て」

必死に震えた声を絞り出す。が、それも夜の闇に吸い込まれていった。

(もう……ダメなのか?)

(あれを買っていなかったら……ん?)

遠くに落ちた雑誌。目に飛び込んできたのは、先程のページ。

(確か、合言葉)

(でも)

そう考えているうちに、男がすぐそこに。

(っ…..もうどうにでもなれ!!)

震える手足。きっとまた声も震えるに違いない。

でも――。

少年はダメもとで、しかし助けを求め大きな声で叫んだ。

「10or11!!!」

瞬間、無風だったはずの夜に風が吹き抜けた。

優しい風。

少年は思わず目をつぶった。

「おっ!?うわっ!!」

反対に狼狽えた声。男のものだった。

「なんだお前!!?どこからっ!!!?っあ…..痛っ!!」

男はなおも怯えた声色で話し続けている。

――カラン…….

音を立てて刃物が男の手から滑り落ちた。


(……あれ?なんともない?)

(誰か…….いる?誰と話して…….?)

恐る恐る目を開くと、全身黒ずくめのさっきの男とは別に、目の前にもう1人いるのが分かった。

明るい茶色のベストを着た、白髪の青年。

背を向けているため顔は分からないが、紫の手袋をした手で男の腕を捻りあげている。

「痛たたた!!痛えって言ってんだろ!!」

男がもう片方の腕を振りかぶる。が、その腕も青年によって制されていた。

「痛くしているんだから、当たり前でしょう」

優しい声色。しかし僅かに、ほんの僅かに怒りが込められた声。青年のものだった。

怯える男とは対照的に、青年からは余裕が感じられる。その背中は、とても頼もしく思えた。

少年は直感的に、先程の風が青年なのだと思った。理屈は分からないが、きっとそうなのだろうと。

――ドスッ

青年の拳が男の腹にめり込む。

「うっ!!?」

その場に苦しそうに倒れ込む男。構わず青年は声をかける。

「どうします?警察にでも行きますか?」

「えっ…..?」

「何を驚いているんです。こういう場合はそうでしょう」

この問いには少年も驚いた。この場合、問答無用で警察に差し出すのが普通だと思っていたからだ。

「僕はあくまで彼を助けに来たまで。あなたがどうしようと知ったことではありません」

流石に男も驚いたようだ。

「ってえ……。ってか、お前どこから……何も――」

「では、貴方はどうしたいですか?」

男の問いを遮り、青年は初めて少年の方を振り返った。

真ん中で綺麗に分けた白髪に、手袋と同じすみれ色に似た紫の瞳。はっきりした顔立ちの男。

人間離れしている。

少年はそう思った。

(でも、今時カラコンとか、染めるとか)

などと考えていると、頭上から

「大丈夫ですか?」

と声がかけられた。

「あ……大丈夫です」

「なら良いのですが」

青年の問いに答えなかったために、心配されてしまったようだ。

「それで、この人どうします?」

「…….警察に通報しようと思います」

「そうですね。そうしましょう」

まるで最初から通報するつもりだったかのような口ぶりだった。


その後はとても忙しかった。警察に通報するのも野次馬に囲まれるのも、何もかもが初めてだった少年にしてみれば、あっという間だったかもしれない。

警察に引き渡された男は腹に拳が入ったせいだろうか、終始大人しかった。その後、少年と青年は揃って事情を聞かれた。どうやって助けたのか、など。

青年は「近くを通りかかった際、助けを求める声が聞こえた」と答えていた。

(助けてなんて言ったっけ?)

と思ったが、話がややこしくなりそうだったため、その言葉は飲み込んだ。

それに、あの優しい風こそが青年だと謎の確信があった。



警察が引き上げ、野次馬も去った頃、青年は言った。

「では、握手して頂けますか?」

そう言うと、慣れたようにボタンを外し、手袋を脱ぐ。そこにはとても白い、悪く言うなら血行不良のような色の手があった。

「握手…….ですか?」

「ええ。僕はこれで契約完了としているのです」

「契約…….?」

(もしかして、あの雑誌の話?)

少年は、今に至るまであの話に関して半信半疑だった。しかし、合言葉を叫んだことにより来たというのも事実だろう。となると、あの話は本物だったことになる。

(オカルトがほんとだった…?でも握手なんて書いてなかったような)

未だに現実味を帯びない話。気が動転しすぎて考える間もなかったのだが、落ち着いてくると色々疑問が浮かんでくる。

しかし、助けてもらったのも事実。

少年は言われるがまま手を差し出した。

「では」

―ギュッ

「わっ!?」

思わず声が出てしまった。

手が、とても冷たかったのだ。

今まで冷え症の人の手を触ったことはあるが、その比にならないぐらい、冷たい。

「ああ、申し訳ありません。手がとても冷たいとよく言われるのです。驚かせてしまいましたね」

「っ、そうなんですね。大丈夫です」

少し長めの握手を終え、青年の手が離れた。


「では、僕はこれで」

「っ、あの!!」

夜の闇に消えようとする青年を呼び止める。

聞きたいことは沢山あった。

どこから来たのか。

名前はなんというのか。

本当に雑誌のあの人なのか。

そもそも、なんでここが分かったのか。

しかし、少年は溢れてくる全ての疑問を胸にしまって

「ありがとうございました!!」

とだけ、大きな声で言った。

振り返った青年は、その言葉を聞くと満足そうな笑顔を浮かべて、今度こそ闇の中に消えていった。


――これは、この町に流れている噂の、ほんの序章に過ぎなかった。

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