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[彼女目線]
午前中のシフトが終わって、少しだけ校内を散策していたときだった。
模擬店の呼び込みの声とか、爆音の演劇のBGMとか、文化祭らしい空気が漂っていて、私はちょっと浮かれていた。
──そのとき。
「ねぇねぇ、君何組?」
「お、可愛いじゃん」
知らない他校生達が、突然前に立ちはだかった。
どこか軽いノリで、目は完全に私を品定めしてる。
「良かったら一緒に回らない?」
「ごめん、友達と待ち合わせが……」
そう言って立ち去ろうとするのに、腕をわざと行く手に伸ばす。
「そんな冷たいこと言わなくてもさ〜」
うわぁ……めんどくさい人たちだ。
早くどっか行ってほしいのに。
「なに?彼氏とかいるわけ?」
その瞬間、背筋に“ぞくっ”と何かが走った。
後ろから、よく知る声がした。
「──いるけど?」
トーンは低いのに、どこか笑っている声。
振り返ると、
黒尾鉄朗が、あの余裕たっぷりの笑みを浮かべて立っていた。
「て、てつくん……!?」
「ごめんごめん、遅くなっちゃった? ……で、なにこれ?」
軽い声。
なのに目だけは笑ってない。
他校の男子は一瞬たじろいだ。
「え、えっと……その、別に──」
「うちの彼女に絡んでたよねぇ?」
黒尾は軽く首を傾ける。
その仕草のまま、ゆっくり私の肩に手を置いた。
「うん、ごめんネ?
俺のが可愛いくてさ。
でもさぁ……触っていいのは、俺だけなんだよね」
温度は柔らかいのに、言ってる内容は完全に釘を刺してる。
男子は一瞬で青ざめた。
「す、すみません……!」
勢いよく逃げていく後ろ姿に、つい呆然としてしまった。
「大丈夫だった?」
黒尾は私の頭をぽん、と撫でる。
「……びっくりした」
「だろうねぇ。
でも怖かったら、すぐ“てつくん呼んで”って言えばよかったのに」
「え、どこにいたの?」
「ンー?お姫様がお散歩してたから、気になってちょっとネ?」
にっこり。
……やっぱり、この人には敵わないんだよなぁ。