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三者三様な感じがすごく良く出てる
「水汲み場で初めて彼女に会った時、ダフネ嬢がダフネ・エレノア・ウールウォードと名乗ったので……僕は知り合いにも同じ名前の女性がいる、と話しました……」
セレノがそう告げるなりランディリックが小さく吐息を落とした。
声に出されたわけではないが、言外に『要らぬことを』という言葉が隠れているのがありありとうかがえて、リリアンナとダフネの背景を知ってしまった今となっては、セレノ自身申し訳なさに苛まれずにはいられない。
セレノだってリリアンナのことを憎からず思っている。自分のせいで、リリアンナに害が及ぶようなことは望んでいないのだ。
「殿下がそのようにおっしゃられた時、あの娘はどんな反応をしましたか?」
ランディリックの問いに、セレノは申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「すまない。分からないんだ。ちょうどそこでペイン公に呼ばれて彼女から視線をそらしてしまった……」
セレノの言葉に、ランディリックは友を見る。
「ウィル、キミはあの娘がセレノ殿下に近付いているのを見ていながら不吉の前兆を見逃したってことか?」
非難めいた物言いに、ウィリアムが慌てたように手を振る。
「ちょっと待ってくれ、ランディ。俺は屋敷に着いてすぐ、あの子と殿下がお近づきになっているなんて本当に知らなかったんだ」
ウィリアムの視界からは背の高いセレノの、広い背中しか見えていなかった。
「神に誓う」
誓約するように片手を掲げてみせるウィリアムの姿に、嘘偽りはないように見えた。
「さすがに俺だってその時点でダフネと殿下の接点に気付いていたら手を打ってたさ」
あの時、ダフネはウィリアムの接近に気が付くや否や、「失礼します!」と告げて、慌てたように駆けて行ってしまった。
セレノはその時、領主にサボりがバレてはまずいと、急いで逃げたんだとばかり思っていたが、もしかしたら違ったのかも知れない。
(僕と接点が出来たことを知られたくなかった……とか?)
考えすぎかもしれないと思いながらも、その後のダフネの行動を考えるとあながち間違ってもいない気がしてしまったセレノである。
「殿下?」
そんなセレノの機微をランディリック・グラハム・ライオールという男は敏感に感じ取るらしい。
探るような目で見詰められて、セレノは小さく吐息を落とした。
「もしかしたら彼女は……僕と接点が出来たことをペイン公には知られたくなかったのかも知れないなって思ってね」
セレノの言葉に、ランディリックの眉がピクリと持ち上がる。
「いや、殿下。いくらなんでもそれは考えすぎじゃないですか?」
落ち着かない様子でセレノの言葉を否定するウィリアムとは対照的に、ランディリックは「有り得ないことではないと思います」と静かに肯定する。
「ランディ……!」
「ウィル、人を信じたいというキミの性格は賛辞に値すると思うし、僕にはないもので羨ましくも思う。だけど……あの女に対してだけは捨ててもらいたい」
冷たい物言いだが、それだけランディリックの中でダフネ・エレノア・ウールウォードと言いう女性が警戒すべき対象と言うことなんだろう。
そう思いながら、セレノは仕切り直すようにギュッとこぶしを握り直した。
「……昨夜あったことを、話しても構わないだろうか?」
静寂のヴェールに包まれた室内で、その声音はかすかに怯えを含んで感じられた。
「きっと状況証拠的に……僕に不利なのは分かってる。けど……僕の言い分も聞いて欲しい」