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「今年はハロウィンがやりたいです」


十月に入ったある日の登校中、唐突に真帆がそう口にして、僕は「えっ」と思わず聞き返していた。


昨年までもこの時期はどこぞのハロウィンイベントまで遊びに行ったりしていたのだけれど、今年はハロウィンがやりたい、とはいったいどういう意味だろうか。


「みんなで仮装しましょう! 部室でハロウィン・パーティです!」


「仮装してハロウィン・パーティ?」


思わず聞き返す僕に、真帆こくこく何度も頷いてから、


「そうです、そうです、仮装です。要はコスプレですよ、コ・ス・プ・レ。見たいでしょ? 私のコスプレ」


「いや、まぁ、うん、そうだね」

と僕は少しばかり困惑してから、

「……なんで突然? 去年までみたいに商店街とかモールとか、でなきゃ横河駅のあたりとかでやってるハロウィンイベントとかじゃダメなの? あそこでも仮装してるじゃん? まだ一度も行ったことないし、ダメ?」


「横河って、ゾンビナイトのことですか?」

真帆は眉をひそめて、

「確かに面白そうですけど、わたし、ゾンビは苦手なんですよねぇ。見た目が綺麗じゃないので……」


なんだそりゃ、と僕は思いながら、

「じゃぁ、別の場所でもいいけど……」


それに対して、真帆は一瞬ムッとしたような表情を浮かべる。


「ユウくん、もしかして、そんなにわたしのコスプレが見たくないんですか? 喜んでくれると思ったのに、私、悲しいです――」


しゅんとする真帆に、僕は思わず本気で慌ててしまう。当然、そんなことは全くない。見たいに決まっているじゃないか!


「そ、そういうわけじゃなくて、それはもちろん、真帆のコスプレなら是非見たいって思うよ、本当に」


「そうですか? なら、ちなみにユウくんはどんなコスプレを私にしてほしいですか?」


「えっ、どんな? それは、えっと――」


そう訊ねられて、僕は頭の中で真帆の着せ替えを始めてしまう。


吸血鬼、ゾンビ、悪魔、天使、幽霊、ミイラ――はさすがに包帯グルグル巻きのアラレモナイ姿の真帆を想像してしまって、僕は首をプルプル振って邪な想像を振り払った。あとは、たまにテレビで観る感じだと警察官、ナース、メイドなんかも見てみたいし、真帆ならきっと似合うんじゃないだろうか。いやいや、しかしわざわざコスプレするって言っているのだから、やっぱりここはいつもとは違うもっと大胆で意外な感じの……


「……ユウくんのえっち」


「ええっ!?」僕はドキリとして、「ま、まだ何も言ってないじゃないか!」


「顔がニヤついてますよ。いったいどんなの想像してたんです? 言ったでしょ、みんなで仮装しましょうって。そういうのはふたりっきりのときにしてくださいね」


それはつまり、ふたりっきりのときならコスプレしてくれるってことで良いのだろうか。そんな邪な考えが浮かんだところで、いやいや、そうじゃないだろう、と自分の理性を取り戻す。


「――あっ。じゃあ、魔女は?」


「魔女? 魔女が魔女の恰好をするんですか? わざわざ?」


「だって、真帆たちが魔女らしい姿をしているところなんて、一度も見たことないからさ。例えばほら、黒いローブとか、とんがり帽子だとか、ああいうの」


「……まぁ、確かにそうですね」

それから真帆は眉を寄せて、

「そんなに見たいものですか? わたしたちの魔女の恰好」


「だってほら、一応、本物の魔女だし。こないだ全魔協に行ったときもあまりに事務的な建物すぎたし、職員さんもみんな普通の恰好だったでしょ? 魔女らしい魔女の恰好してる魔女とかいないのはなんで?」


「いないわけではないと思いますよ。ただ、好き好んでローブなんて着ないし、とんがり帽子なんて被らないってだけですよ。機能的なこと以外にも、イメージ的な問題で」


「イメージ? どういうこと?」


「とんがり帽子には宗教的異端者のイメージがあるからですよ。それに、童話に見る悪い魔女って大概とんがり帽子に黒いローブを羽織っているでしょう? そういう良くないイメージがあって、わざわざ自分からそんな恰好をする魔女がいないってだけの話です。だって、自分から“私は悪い魔女です”なんてあんまり言いたくないじゃないですか。もちろん、現代の可愛らしいイメージでとんがり帽子をかぶったりローブを羽織る魔女も少なからずいるので、全くのゼロってわけではないですけれど…… ただ、少なくとも私はあまりかぶろうなんて思いません。特に全魔協なんて、そういうのを嫌っているフシがあるみたいですから……」


「そっか、なら仕方ないね。魔女はやめておこうか」


たまには真帆たちの魔女らしい恰好を見てみたいと思ったのだけれど、そういうことなら強要するわけにもいかないだろう。確かに、魔女のとんがり帽子が異端審問から来るという説も何かの本で読んだ記憶がある。自らを『悪』としてそんな恰好を進んでするなんて、ヤンキーや中学生みたいな思考でもない限り、普通は嫌に決まっている。


ふむふむ、仕方がないな、と僕は納得して頷いたのだけれど、


「……いえ、いいですね、魔女」


真帆がニヤリと口元に笑みを浮かべ、僕は「へっ?」と変な声を漏らしてしまった。


「なに? なんで? イヤなんじゃなかったの?」


訊ねれば、真帆は「イヤとまでは言ってませんよ?」と口にして、

「私は全魔協に反感を抱いていますからね。なので、あえて異端の恰好をしてやるのもなかなか面白いかもしれません。全魔協の会長たる乙守先生に、異端の魔女姿を見せつけてやりましょう」


ふっふっふ、と笑う真帆。


――あぁ、そういえば真帆はこういう人間だった。


僕はそんな真帆に、やれやれと深いため息を吐いてしまったのだった。

魔女と魔法使いの少女たち

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