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ライナー・ホワイトは「究極の自己中心的な求道者であり、人間をモブキャラは見下し、己の所属するアンダー・ジャスティスすら利益になるだけで適当な相手をして陰の実力者になることに特化した人間。
周囲の勘違いやギャグで誤魔化されているが、ライナー・ホワイトは紛れもない狂人。周囲の人間は自分を引き立てる道具扱いしかしていない。全ては舞台装置で、人の信念や行動の理由を己の都合の良いように利用する。
この世に存在する究極の社会悪の一つ『良心なき快楽』。
現世の人を想い、力を与え、怪物から人を守る甘ちゃん時代の聖王と光の帝国は、虚を強化させる魔力を現世に垂れ流すこの世界と、それを阻む『彼』を討たなければならない。
故に。
一歩踏み出す 二度と戻れぬ
三千世界の 血の海へ
◆
その日、世界は激震した。
突如として空へ伸びた青色の光。
それは世界の八割を飲み込み、巨大な城へと姿を変えた。
全てが変わった世界で、聖王は城内の人々に告げた。
「私は聖王。お前達から全てを奪う者だ」
反抗した者は殺された。
異議を唱えたものは殺された。
あるのは聖王を含む聖王十字騎士団による支配だった。
そして、世界は、そういうものとなった。
◆
異世界の少年、ライナー・ホワイトが対聖王反抗組織としてアンダージャスティスを設立して3年が経った。
ライナー・ホワイトは13歳にそしてライナーの姉のジークリンデ・ホワイトが15歳になった。15歳という年齢にはそれなりに意味がある。貴族は15歳になると3年間王都の学校に通うことになる。
しかし王都に出立するその日になって、ジークリンデ・ホワイトが消えた。現在、ホワイト男爵家は大騒ぎになり、アンダージャスティスが動き始めた。
薄暗い地下道を1人の男が歩いていた。
歳は30代半ばをすぎた頃だろう。 鍛えられた体躯に鋭い眼差。灰色の髪をオールバックに纏めている。
彼の足は地下道の突き当たりで止まった。扉が1つ、その脇に2人の兵士がいる。
「ホワイト男爵家の娘はここか?」
「この中です、オリバー様」
問いかけられた兵士はオリバーに敬礼し、扉の鍵を開けた。
「お気をつけ下さい。拘束していますが、非常に反抗的です」
「ふん、この俺を誰だと思っている?」
「っ! し、失礼しました!」
オリバーは扉を開け、部屋の中に入った。
そこは石造りの地下牢だった。壁に固定された魔封の鎖に、1人の少女が繋がれていた。
「ジークリンデ・ホワイトだな」
オリバーの呼びかけに、ジークリンデと呼ばれた少女は顔を上げた。
美しい少女だった。寝ているところを連れ去られたからか、薄いネグリジェ姿で、豊かな胸の膨らみと瑞々しい太ももが覗いている。絹のような黒髪は背中で切りそろえられ、気の強そうな目がオリバーを睨み上げた。
「あなた、誰? 顔は王都で見たことがあるわ。確かオリバー子爵だったかしら?」
「ほう、昔近衛にいたが……。王都大会でか?」
「そうね。アイリスディーナ王女に無様に斬られていたわ」
フフ、とジークリンデは笑った。
「ふん、試合という枠内ならばあれは別格だ。もっとも実戦で負けるつもりはないがね」
「実戦でも変わらないわ。決勝大会一回戦負けのオリバー子爵」
「ほざけ。決勝の舞台に立つことがどれほどの偉業か分からぬ小娘が」
オリバーはジークリンデを睨みつけた。
「私なら後1年で立てる」
「残念だが貴様に後1年はない」
ジークリンデを繋ぐ鎖が鳴った。
直後、オリバーの首筋ギリギリで彼女の歯が噛み合わされた。
ガチン、と。
オリバーが僅かに首を傾けなければ、頸動脈を噛み切られていただろう。
「1年後生きていないのは果たしてあなたか私か。試してみる?」
「試すまでもなく貴様だ、ジークリンデ・ホワイト」
獰猛に笑うジークリンデの顎を、オリバーの拳が打ち抜いた。
ジークリンデはそのまま石壁に叩きつけられ、しかし変わらぬ強い瞳でオリバー見据える。
オリバーは手応えのない拳を下ろした。
「後ろに跳んだか」
ジークリンデは不敵に微笑んだ。
「蠅でもいたかしら」
「ふん、高い魔力に振り回されるだけではないらしいな」
「魔力は量ではなく使い方だと教わったわ」
「いい父を持ったな」
「弟……?」
ジークリンデはいたずらっぽい笑みでそう言った。
「さて、無駄話はこのぐらいにして……」
オリバーは言葉を切ってジークリンデを見据えた。
「ジークリンデ・ホワイト。最近身体の不調はないか? 魔力が扱い辛い、制御が不安定、魔力を扱うと痛みが走る、身体が黒ずみ腐りはじめる、そういった症状は?」
「わざわざ私を連れ去って、やることは医者のまねごと?」
ジークリンデは艶やかな唇の端で笑った。
「私もかつては娘がいた。これ以上手荒な真似はしたくない。素直に答えてくれることがお互いにとって最善だろう」
「それって脅し? 私は脅されると反抗したくなる性質なの。たとえそれが非合理的であったとしても」
「素直に答える気はないと?」
「さて、どうしようかしら」
オリバーとジークリンデはしばらく睨み合った。
静寂を先に破ったのはジークリンデだった。
「いいわ、大したことじゃないし答えましょう。身体と魔力の不調だったかしら? 今は何ともないわ、鎖に繋がれてさえいなければ快適そのものよ」
「今は?」
「ええ、今は。1年ぐらい前かしらね、あなたの言った症状が出ていたのは」
「なに、治ったというのか? 勝手に?」
オリバーの知識の中に『発作』が自然に治ったというケースはない。
「そうね、特に何も……」
「発作の症状が出ていたということは、まず適合者で間違いないか」
「適合者……? どういう意味よ」
「貴様は知る必要のないことだ。どうせすぐ壊れる。ああ、貴様の弟も調査する……」
オリバーがそこまで言った瞬間、彼の鼻骨に衝撃が走った。
「ぐっ!?」
オリバーは扉まで後退し、鼻血を押さえてジークリンデを睨む。
「ジークリンデ・ホワイト、貴様……!」
四肢を鎖で拘束されていたはずの彼女だったが、右手首の鎖だけがどういうわけか外れて、そこから血が流れ出ていた。
「手の肉削いで、指も外したかっ……!?」
彼女を拘束していた鎖はただの鎖ではない、魔封の鎖だ。つまりジークリンデは純粋な筋力だけで、己の手の肉を削ぎ落とし、骨を砕き拘束を外し、オリバーを殴りつけたのだ。
その事実にオリバーは驚愕した。
「あの子に何かあったら、絶対に許さない! お前も、お前の愛する人も、家族も、友人も、全て残らず殺してっ……!?」
オリバーの全力の拳がジークリンデの腹を殴りつけた。魔封の鎖に繋がれている彼女に、魔力で強化されたオリバーの一撃を防ぐ術はない。
「小娘がっ……!」
オリバーは吐き捨て、ジークリンデは崩れ落ちた。
ジークリンデの右手から流れ落ちた血が床に赤黒い染みを作る。
「まあいい。これで分かる……」
オリバーが呟きその血に手を伸ばす。その時、兵士が息を切らせて扉を開けた。
「オリバー様、大変です! 侵入者です!!」
「侵入者だと!? 何者だ!?」
「分かりません! 敵は少数ですが、我々では歯が立ちません!」
「くっ、私が出る! お前たちは守りを固めろ!」
オリバーは舌打ちして踵を返した。
そうして、部屋から人が全て出たところで、眼鏡の男がジークリンデに近づく。
「ハァイ、お嬢さん! 災難でしたね、お家まで案内させて頂きますよ」
「なに、なんで助けるの? 恩を売るつもり?」
「それは言えません。私の任務に支障が出てしまいますからね。しかしどんな組織にもいるものですよ、内通者というものはね」
鎖を外して、扉を開ける。そして守りを固めている人達を背後から青い光で貫いた。
「それ……」
「霊子兵装・神聖滅弓矢を見るのは初めてですか。我々の殲滅者の主兵装ですよ」
「殲滅者……?」
「二割の世界では聞き覚えがないのも無理はありません。我々は常に八割の世界で戦っていますからね」
「貴方、八割の世界から来たの!?」
「ハァイ、その通り!
私は【Ⅳ】の聖数字を賜った光の帝国の星十字騎士団・尖兵狩猟部隊隊長・外交官『キルゲ・シュテルンビルト』となります」