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「……で、結局どうすんの?明日」
バーのカウンターに沈んだ私を覗き込むように、真司が呆れたような視線を向けてくる。
鼻にかかった声と、少しだけ歪んだ口元。
眼鏡の奥にある瞳は、いつも通り皮肉っぽい冷たさを湛えている。
「どうするもこうするも、予定なんてないわよ。仕事も溜まってるし」
私はグラスの氷を指先で弄びながら、わざとらしく溜息をついた。
私の名前は佐藤亜希、29歳のアラサー
真司は企画部の同期で、入社以来の腐れ縁だ。
仕事では何かと競い合い、意見を戦わせてきた仲。
彼になら、自分の惨めな状況を隠さずにいられる。
……本当は、一番知られたくない相手だけど
背に腹はかえられなかった。
「ふうん。あんなに熱心に『来週の記念日は二人で豪華なディナー予約したの』って言ってた、あの幸せそうな亜希ちゃんはどこに行ったんだか」
「……うるさい。蒸し返すな」
胸の奥がキュッと引きつる。
3年付き合った彼氏に
「他に好きな人ができた」なんて理由で別れを告げられたのは、つい数時間前のことだ。
誕生日の前夜
期待して待っていた自分を思い出すだけで、吐き気がする。
「慰めが欲しいなら付き合ってやるけど?」
真司が自分のカクテルを一気に飲み干し、ふっと大人びた表情でこちらを見た。
その目が、いつもよりずっと熱を帯びていることに、酔いのせいか気づくのが遅れた。
「……別に、慰めなんていらない」
「強がっちゃって。……ほら、行くぞ」
店を出てからの記憶は、酷く曖昧だ。
夜風が冷たかったこと、真司の腕の硬さ。
タクシーの中での、いつもより近い距離。
◆◇◆◇
そして翌朝
目が覚めた瞬間に肌に触れた、見覚えのないシーツの感触と、聞き慣れた同期の寝息。
「……っ!?」
私はシーツを胸元まで引き上げ、硬直した。
昨夜、私たちはただ飲んだだけじゃなかった───
そう確信させる身体の重だるさと、甘く痺れるような余韻が、最悪の朝を告げていた。