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弱いと絶望した俺。
そんな俺の足取りは、重たかった。
「……」
無言で空中城塞から家まで歩く。
最強に対して『一人で』どう挑むのか。
俺は、そんな思考で歩みを進める。
「エリスは、俺が守る」
片足の無い彼女を死ぬ気で守る。
俺は右手で握り拳を作り、決心した。
ガチャ
「ただいま」
心配させないように嘘の笑顔を作る。
無理をして作った笑顔。しかし、そんな笑顔は…
『本物』になった。
「ルーデウス!!!おかえりなさい!あのね!あのね!聞いて!」
出産直前の彼女。
お腹の大きい彼女が、すごい速度で俺の胸に飛び込んでくる。
「ルーデウス!ルーデウス!!!」
「分かった、分かりましたから。エリス、激しい動きはダメですよ?どうしたんです……か?」
犬のように甘えてくるエリスに、俺の心が暖まる。
しかし、俺の感情の終着点は『驚き』
俺は、困惑していた。
驚いたのはエリスがすごいスピードを出せたこと。
足を使って、走っていたこと。
「ロキシーって!ルーデウスみたいにすごいの!!!」
彼女の欠損していた左足。
無いはずの左足。
俺は、そんな彼女の左足に向かって手を伸ばした。
「エリス、エリスっ。足っ……」
俺の手に当たる、白い肌。
温かい体温。
モチモチで、スベスベで、すっごく可愛い。
「ちょっ!ルーデウス!?なんで泣いてるのよ!」
「ごめん、なさい。でも、でもっ」
気付けば、俺の視界はぐちゃぐちゃに濡れていた。
両足で立つエリス。
その姿を見た俺は、涙が溢れて止まらない。
エリスは、そんな俺を、ちょっと強めに抱きしめてくれた。
「これで、またルーデウスを守れるわね」
抱きしめてくれるエリス。
そんなエリスを、俺も力いっぱい抱き返す。
そんな行動。
俺たちは二人で、体温を、幸せを分かち合った。
「そしたら、今日は記念日ですね」
「ちょっと、ルーデウス!顔、近いわよっ」
「ふふっ、ごめんなさい。エリスが可愛くて」
「もう、ばかっ」
俺は少し膝を曲げて、エリスと視線を合わせる。
この言葉を放って、彼女の顔をじーっと見つめる。
そんな俺たち。彼女はチラチラと俺を見た後、俺から視線を外して俺の胸に顔を埋めてしまった。
ルーデウスが良い匂いしすぎるのが悪いとか。
偶々ルーデウスを抱きしめたかっただけだとか。
そんな言い訳をしながら、赤い顔で俺に擦り寄ってくるエリス。
エリス、エリス。揺れる赤い髪が印象的で、彼女が生きてるって実感する。
幸せそうな顔をしてくれるエリス。そんな彼女が、赤い顔で、この言葉を置いてくれた。
「ルーデウス。実は私、ルーデウスのこと大好きよ」
「ふふっ、知ってますよ」
幸せな空気を放つ二人。
俺の瞳からは、もう涙は出なかった。
ただ、今ある幸せを噛み締めて、ゆっくりと彼女を抱き締める。
そんな、当たり前だけど当たり前じゃない光景。
この光景を作った張本人。
青い髪は、魔力枯渇した青い顔で、ゆっくりと言葉を放つ。
「ルディ、良かったです……」
ソファにぐったりと眠る彼女。
小さいけど、強くて優しい彼女。
俺にとって、たった一人の存在。
そう。エリスの左足を治してくれたのは、青い髪が特徴的な、俺の師匠だった。
─────────────────────────
─オルステッド視点─
「まさか、たった一年で習得するとはな」
俺がロキシー・ミグルディアに治癒魔術を教えて一年。
奴は、手から暖かい光を放ち、砂漠で傷付いた獣の怪我を聖級治癒魔術で治していた。
「はい、治りましたよ」
茶色の身体に、四本の足と二本の角を持つ獣を治したロキシー・ミグルディア。
そんな奴に治してもらった獣は、困惑した表情を浮かべて走り去っていく。
獣を治した魔術は王級治癒魔術ではない。しかし、奴は使えるようになるだろう。
それほど完璧な治癒魔術。奴の覚悟が、この結果を生んだ。
俺と奴の連絡手段は、こうだ。
奴が聞きたいことがあれば、その場の地面に文字を書き、三百メートル離れる。
そして、奴が離れたのを確認したら、俺が文字を見に行く。
見た後は、答えをその文字の隣に書き示していく。
そんな連絡手段だ。
奴は色々なことを聞いてきた。
中級治癒魔術しか使えないから、一気に王級治癒魔術は使えない。
だから、上級から教えて欲しい。
最初は、そんな質問だった。
これを見た時、俺は覚悟した。
ロキシー・ミグルディアにセンスはあまりない。
最低でも王級会得までに十年は掛かると。
しかし、その考えは違った。
奴の覚悟は想像以上だった。
「私に、寝る時間はない」
そう言っていそうなほど寝る間を惜しみ、治癒魔術に尽力していた。
上級、聖級。奴は、あっという間に習得していく。
王級習得も時間の問題。しかし、ここで問題が起こった。
「欠損の治し方が、分からない」
こんな言葉を文字にして、奴は俺に問いてくる。
確かに、欠損を治すのは難しい。
怪我は治すというイメージが合っているが欠損は別。
欠損は、どちらかというと『治す』ではない。『作る』
人体を一から作るというイメージが必要になる。
それが、ロキシー・ミグルディアには出来なかった。
「無理をするな、ゆっくりでいい」
この文字を俺は奴に残した。
ルイジェルド・スペルディアは長く生きる。
焦る必要はない。
しかし、奴は驚きの行動に出る。
「ゆっくりじゃ、ダメなんです。急がないと」
三日三晩考え込んでいた青い髪。
そんな小さな背中。奴の取った行動は、これだった。
バン!
「ぐあっ……」
「何を、している」
奴が放ったのは魔術。
氷の刃を生成し、ぶつけた。
相手は俺じゃない。モンスターでもない。
ぶつけたのは、自らの左腕。
「大量出血。これで治せなかったら、私は死にます」
苦悶の表情をする青い髪。奴は、自らの左腕を『欠損』させた。
自らを追い込み、適応する。
奴の覚悟は、恐ろしいものだった。
「魔術は使いたくなかったが、治すしかないな」
俺は立ち上がり、青い髪に近付く。
しかし、その動きは読まれていた。
「来ないで、ください!!!これは、私が、私の!罪滅ぼしなんです!」
呪いなんてお構いなし。
奴は大きな声を挙げ、左腕からドボドボと血を流し、治癒魔術を唱える。
恐ろしい覚悟。俺は立ち止まった。
俺が立ち止まった理由。
俺は、この時、確かに。奴の覚悟に気圧されていた。
─────────────────────────
数十分後。ロキシー・ミグルディアが顔面蒼白で倒れていた。
真っ白で辛そうな顔。しかし、それは貧血ではない。
無くなったのは血ではない。
「魔力、枯渇してしまいましたね」
詠唱したのは王級治癒魔術。
奴の左腕は綺麗に生えていた。
奴は、王級治癒魔術に成功していた。
「本当に、恐ろしいな」
見たことがないほどの覚悟。
自らを犠牲にする覚悟。
約一年の戦い、その最後に相応しい覚悟だった。
そして、その姿に俺は新たな仮説を立てる。
それは、奴が、ロキシー・ミグルディアがルイジェルド・スペルディアに恋をしているという仮説。
ロキシー・ミグルディアがルイジェルド・スペルディアと結婚する。
もしも、こんな未来があれば俺にとっては不利だ。
しかし、王級治癒魔術を習得したのは奴自身。
俺が横から言えるものではない。
俺がしたことは些細なことだ。
習得は、奴の覚悟が生んだ奇跡だ。
俺は利用しただけだ。何もしていない。
一歩、二歩。俺は、ゆっくりと歩みを進める。
青い髪に向かって、ゆっくりと。
「ご苦労だったな」これだけを言おうとしたのだが。
「うぎゃあ!こ、こわいです……」
瞬間。奴は、この言葉を残して気絶した。
「最後まで締まらんな」
俺は小さく笑いながら呟く。
気絶するロキシー・ミグルディア。
俺は、へにゃっと倒れる青い髪を抱えて、転移遺跡へと移動した。
─────────────────────────
─ロキシー視点─
「んっ」
私は目を覚ましました。
気絶していた私。
そんな私は、いつのまにか転移遺跡の影で寝かされていました。
少し大きい。この上着はオルステッドの物ですね。
その上着が私の肩に掛けられていました。
ここに残る異変。
それは、掛けられていた上着だけではありませんでした。
「これは、手紙ですか?」
私の隣にあったのは手紙。
そこには、こう書いてありました。
『たった一年で貴様は王級を習得した。俺は、もう必要ない。先に行く』
一番上に書かれていた文字。
下に続くのは、注意事項でした。
『上着は近くにあるクローゼットに入れておけ。それでいい。大切なのは、今貴様が居る場所だ。そこは転移遺跡。特殊な詠唱が無ければ出現しない遺跡だ。貴様はそれを知らん。一度でも遺跡から出たらもう入れないと思え』
なるほど。ルディが最速で迷宮に来れたのは、転移してきたからなのですね。
流石はルディです。御見逸れしました。
よし、続きを読みましょう。
『この奥に魔法陣がある。転移先はシャリーア。そこに行きたければ奥に進め。行きたくないなら砂漠に戻ればいい』
魔法陣、すごいですね。私の知らない物ばかりです。
知らない魔術の高み。思わず感嘆してしまいます。
私が行きたいのはルディの所。魔術の高み、転移魔法陣。もちろん、使わせていただきます。
これで終わり。私は、そう思っていたのですが、続きがありました。
『そして、最後、条件だ』
私は、この文字を読んで固唾を飲みました。
条件。もしかしたら、お前の命だ!とか言われるのでしょうか。
『絶対に俺から王級治癒魔術を教わったことは誰にも言うな。言うのにはタイミングがある』
「ん?タイミング?」
私は、この文字に頭を傾げました。
言うことのタイミング。正直、良く分かりません。
しかし、深く詮索するのは辞めておきましょう。
まぁ、この場に龍神は居ないし、居たとしても私は怖くて彼と話せないんですけどね。
そんな龍神、私の恩人。このぐらいの条件は飲むべきでしょう。
「龍神には、本当に感謝ですね」
この言葉と同時。私は大きめの帽子を深く被って、小さく笑いました。
王級治癒魔術を使うこと、魔術を使うことが、これだけ楽しみだなんて。生まれて初めてです。
「よし!行きましょう!」
目指すはルディの所。
強くて逞しい弟子。そんな彼の顔を思い浮かべて、私は少しだけ顔を赤くしてしまいました。
─────────────────────────
─ルーデウス視点─
現在、俺は膝の上に神の頭を乗せている。
魔力枯渇した神を、俺は乗せている。
「師匠は、本当にすごいな」
俺は彼女に膝枕をしていた。
彼女の青い髪を乗せて、俺は柔らかい髪を撫でる。
スヤスヤと心地良く眠るロキシー。
そんな姿。俺の膝の上で寝返りを打つ姿は、見ていて惚れ惚れしてしまうほど美しい。
小さくて、本当に可愛い。
あっという間に過ぎる時間。
見えてくるのは、宝石のように綺麗な瞳。
「んっ、温かい」
「師匠、おはようございます」
「……」
俺の言葉を境に一瞬だけ沈黙が走る。
静かな空間。切り裂いたのは少女の声。
「る、ルディ!?え、私、すみません!ルディの膝の上で寝てしまって」
彼女が目を見開き、バタバタと動く。
俺は、その姿をクスクス笑いながら見つめていた。
この場にシルフィとエリスは居ない。
俺の家族は居ない。
居るのは、ロキシーだけ。
そんな俺の思考。瞬間、ロキシーが息切れをしながら動きを止める。
疲れた彼女は、諦めたように俺の膝に頭を乗せて、言葉を放った。
「純粋なルディは知らないかもしれませんが、これは膝枕というんですよ?膝枕は、恋人同士がするものです。だから、私にやってはダメです」
「そうなんですね。ロキシー師匠は嫌ですか?俺の膝枕」
「嫌じゃ、ありません……って!そういうことじゃないんです!」
慌てる彼女に、俺は、またクスクスと笑ってしまう。
笑う空間。幸せな二人きりの空間。
しかし、これは不倫じゃない。浮気じゃない。
そう断言する理由。それは、この空間は俺のお嫁さんであるシルフィとエリスに提案されて作った物だから。
「ルディ、ロキシーさんの側に居てあげて?」
「ルーデウス。ロキシーなら、まぁ、良いわよ?」
シルフィとエリスの言葉。
俺は、なんでだよとか。何がだよとか。そんなことは言わなかった。
ただ、運命に吸い寄せられるように。
身体が勝手に動いて、俺は首を縦に振っていた。
「ルディ!聞いていますか?膝枕は……」
「師匠、俺は師匠が好きです」
俺は彼女の言葉を遮って、ゆっくりと言葉を放つ。
好きという俺の告白、俺は彼女にしてしまった。
しかし、後悔はない。
王級治癒魔術を会得した彼女。
何事にも積極的な女の子。
俺は、そんな彼女に恋をしてしまった。
「る、ルディ!揶揄わないでください」
「揶揄ってないです、俺は本気です!」
俺は大きな声で彼女に言葉を返した。
この言葉は嘘なんかじゃない。
俺は決めたんだ。この世界では本気を出すって。
三人目の妻が良いとは限らない。でも、それでも、ここで告白しないと俺は絶対に後悔する。
そう、俺は確信していたから。
俺は、ただ真っ直ぐ。なるべく誠実な瞳を作って、彼女を見つめる。
そんな俺の姿を見た彼女。潤んだ瞳で俺を見つめる彼女が、この言葉を、ゆっくりと吐き出していく。
「本気、なんですか?」
「はい」
「私、ルディより弱いですよ?」
「はい、構いません」
「私、五十歳越えていますよ?」
「はい、寧ろ嬉しいです」
「……」
「……」
数秒の沈黙。
俺は少し不安だった。
ロキシーが俺のことを好きなのかという心配があった。
しかし、そんな心配は、もう消えていた。
シルフィに「ロキシーさんの瞳。きっと、あれはルディが大好きな瞳だよ」って言われたこと。
ロキシーが俺のためだけに王級治癒魔術を会得してくれたこと。
それだけのことをしてもらって。やっと俺は自信を待てた。
彼女が、俺に対して好意を寄せてくれていると。大きく自信を持てた。
だから思い切って、この言葉を伝えよう。
「師匠の魔術。授業を、俺は永遠に受けたい」
俺の言葉と同時。宝石のような青い瞳に、青い雫が浮かぶ。
その雫を揺らすような言葉を、俺は甘い空気に溶かしていく。
「ダメダメな弟子ですが、また俺の隣で授業をしてくれませんか?」
俺の言葉。少し、回りくどい言葉。
しかし、彼女は気付いてくれた。
「はい、ルディ。私も永遠に一緒が良いです」
甘い空気を揺らす、ロキシーの言葉。
幸せな空気を揺らす、師匠の言葉。
そんな言葉を聞きながら、俺は、その日…
…ロキシーと、結婚した。
─────────────────────────
ロキシーとの結婚。
この事実に、文句を言う人は少なかった。
「ロキシー!家事とかはボクと決めていこうね!」
「ロキシー姉!家事は良いからさ、学校の教師とかになっちゃいなよ!」
シルフィとアイシャが喜んで。
「ははっ!ルディ、やっぱり俺を越えたな!」
「もう、認めますよ。俺は父さんよりムッツリスケベです」
「いや、ルディは良い奴だからな。女が寄ってくんだよ、気にすんな。あ!でも、ゼニスには殴られるかもな」
「あ、そうですね。母さんはミリス教徒ですもんね」
パウロが笑いながら俺をイジる。
いや、イジるというより真実だな。
でも、幸せだ。
そして、エリスは腕に一つの命を抱えていた。
「や、柔らかくて、少し怖いわね」
「小さくて可愛いですね」
赤い髪が特徴的な小さな命。
元気に産まれてきてくれた、俺たちの赤ちゃん。
「ルーデウスの子供だもの!絶対にすごいわよ!」
「いや、俺に似たらダメだと思いますよ。エリスみたいにならないと」
「何言ってるのよ!ルーデウスは、すっごいんだから!」
赤い髪をフワフワ動かして反論するエリス。
一つの命。小さな赤い髪が特徴的な赤ん坊。
名前は決めてある。
「男の子。まぁ、何はともあれ、元気に育ってくれたら良いなぁ」
そんな願いを込めて、名前を呟く。
ゆっくりと、短く。
「アルス・グレイラット。うん、この名前にしよう」
小さな命の赤い髪が揺れる。
エリスと同じ、赤い髪。
エリスに抱かれて満足そうに笑っている。
あぁ、可愛いな。
俺にとって初めての子供、新しい幸せ。
そんな幸せは、きっと。いや、絶対に。
俺の、忘れられない記憶になるだろう。
─────────────────────────
オルステッドが一人の人間の胸を貫いていた。
そいつは、口から血を吹き出しながら言葉を放つ。
「へへっ、オルステッド、つえぇな。勝てるわけねぇ。そうか、俺はヒトガミに捨て駒にされたのか」
そいつは名もなき暗殺者。
なんの特徴もない暗殺者。
そんな奴が、ナイフを持って龍神に向かっていた。
異様すぎる光景。最強、オルステッドが見逃すはずがない。
「ヒトガミの捨て駒、か。今さら貴様程度の実力で俺に直接攻撃。ヒトガミの考えは分からんな」
オルステッドの言葉。当然のように放った言葉。
しかし、この言葉は的外れ。
息絶える暗殺者。奴は一つだけ言葉を残していく。
「ははっ、勘違いすんな。俺が狙ったのはお前じゃねぇ」
終わりの始まり。
悪寒が龍聖闘気に纏わる、そんな言葉。
「俺が狙ったのはなぁ……」
奴の言葉は、あり得ない言葉。
予想だにしない、出来るはずのない名だった。
「ロキシー・ミグルディアだよ」
小さく放たれた、この言葉。
その瞬間、奴は、暗殺者は、多量の血を吐き絶命した。
絶命するヒトガミの使徒。
オルステッドは、そんな使徒の前で目を見開いたまま。
暫く、動けなかった。
─────────────────────────
「本当にさ、おかしいよね」
白い人間。名はヒトガミ。
奴は歯をギシギシ削りながら、苛つく素振りを見せていた。
「龍神と一緒に居るから、見ようと思っても見えないし。やっと見えたと思ったら、とんでもない治癒魔術習得してるしさぁ。本当におかしいよ」
奴の歯軋りは止まらない。
たった一人の空間で苛立ちを募らせる。
「本当にさ、アイツも結婚するなよ。性欲だけ肥大化させてるクズだよな。本当にさ」
一通りの悪口。
言い終わったヒトガミは、真逆の表情を浮かべる。
「ロキシー、ルーデウス。ふふっ、良いこと思いついちゃった」
苛立ちとは真逆の『笑い』
そう、奴は、笑っていた。
「ルーデウス・グレイラット。全部、君が悪いんだよ」
この呟きと同時、白い空間が歪む。
歪む空間、恐ろしい空間。
しかし、そんな空間以上に…
…奴の笑顔は、歪んでいた。