コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
外れの小さな路地裏にひっそりと佇んでいる
1つの小さな喫茶店
看板には丸文字でこう書かれていた――
「喫茶猫又亭」
古民家を改装したような外観。瓦屋根に風鈴、木製の引き戸には「営業中」の札がゆらりと揺れている。通りすがりの人がふと視線を止めることもあるが、不思議と一見さんが入ることは滅多にない。それでも店は、静かに、そして確かに“まったり”と営業を続けていた。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
そう迎えてくれるのは、ふわふわの耳と尻尾を揺らした、猫又の店主――たまさん。
見た目は二十代そこそこの若い女性だが、
その実齢は……50年以上らしい。もちろん本人は年齢を聞かれるたびに、にやりと笑って「乙女に年齢を訊くなんて」と軽くあしらうのが常だ。
店内は、木の香りと挽きたてのコーヒーの香りが混じり合い、窓辺には陽の光がこぼれ、時折ふっと風がカーテンを揺らす。常連客は人間だけじゃない。河童や妖狐、座敷童など、ちょっと不思議な存在たちが、当たり前のようにこの喫茶店にやってくる。
彼らは、決して“特別な悩み”を持っているわけではない。
ただ誰にも言えない心の引っかかりや、忘れたくても忘れられない昔の記憶。
「どうにもならないことだって、話すだけで少しは軽くなるものよ」
そう言って、たまさんは今日もミルクをたっぷりと注いだカフェラテを出す。
今日もまた、誰かのための一杯が淹れられる。
悩みごとを抱えた妖と人間の物語が、静かに湯気を立てて、始まろうとしていた――。