その夜。
リビングで母と再婚相手がテレビを見ている隣、〇〇はなんとなく落ち着かずにスマホをいじっていた。
ふと視線を感じて顔を上げると、亮がこちらを見てニヤリと笑った。
「なに?」
「いや、今日の昼さいろいろ聞かれてたでしょ?」
「っ……!」
図星を突かれて、〇〇の頬が一気に熱くなる。
「俺と一緒に帰っただけで、あんなに騒がれるなんて。面白かったなぁ」
からかうように笑う亮に、〇〇はむくれて言い返す。
「人ごとだと思って! こっちはすごい恥ずかしかったんだから!」
「だって……」
亮は声を落とし、目を細める。
「○○と帰るの好きだからさ」
心臓が止まりそうになって、慌てて視線を逸らす。
(やめてよ……そんなこと言われたら……)
けれど亮はもう、それ以上は何も言わず、ただ楽しそうに笑った。
その笑顔につられて、結局〇〇も小さく笑ってしまった。
――ほんの少し、二人だけの秘密みたいな空気が生まれた夜だった。
翌日。
教室に入ると、なんとなく女子たちの視線が刺さる気がした。
「ねぇ、亮くんって最近〇〇とよく一緒にいるよね?」
「ほんとそれ! 昨日も一緒に帰ってたし」
「〇〇ちゃんって亮くんのこと好きなの?」
からかい混じりの声に、〇〇は慌てて首を振った。
「ち、ちがうよ! ただ道案内しただけで、」
必死に否定するけれど、笑いながらもどこか探るような女子たちの目。
その奥に、ほんの少しの嫉妬が混ざっているのを感じてしまった。
胸がぎゅっと締めつけられる。
(……やっぱり、目立つのはよくないのに)
視線をそらしたその先で、亮と目が合う。
彼は状況を理解したように一瞬だけ眉をひそめ、
次の瞬間、さりげなく席を立ち、〇〇の隣に来て笑顔を見せた。
「〇〇、昨日の宿題さ。ありがとな」
女子たちの前で、自然に距離を縮めてくる亮。
余計にざわつく空気の中で、〇〇はどうしていいかわからず、ただ顔を赤らめるしかなかった。
(亮……どうして……?)
第4話
〜完〜