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雨朱
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えぬた
789
【優勝決定戦】
最終戦を迎え、闘技場にサラとルシアンが入場する。
これまで以上の歓声が沸き起こる中――。
「ジェフ陛下、お成りです!」
ちょうどその時、VIP席に国王ジェフが姿を現した。
その瞬間、会場にいた者たちが一斉に立ち上がり、国王への敬意を示すように、軽く頭を下げた。
「……おっと」
サラも慌てて周囲に合わせる。
――何しろ、サラにとってジェフは国王というより、おじいちゃんだ。
そのため、つい普段の感覚が抜けてしまったらしく、周囲より一拍遅れて、頭を下げる――。
「それでは、ただいまより――優勝者決定戦を行います!」
御前試合となったことで、先ほどまでの熱狂とは少し違う、張り詰めた空気が闘技場を包む。
「両者、位置についてください」
サラとルシアンが、ゆっくりと所定の位置へ歩いていく。
そして――二人は互いに剣を構えた。
「遠慮はいらんぞ」
「ええ、そのつもりです」
両者初戦なので間合いを読んでいるのか、直ぐには動かない。
ルシアンは高速剣、サラも身体能力を生かした早い攻撃が得意だ。
早ければ数合で決まるが、技量が肉薄していれば、派手な打ち合いが見れる筈だ。
ザッ!
先に動いたのは――サラだった。
キン!
軽く剣を打ち合わせると、すぐさま距離を取る。
そして――ルシアンは追撃してこなかった。
(自分の間合いに入らなければ、攻撃しないのか……)
今はまだ、互いに相手の技量を探り合っている。
(パワー押しなら勝てるかもしれない……)
そしてルシアンは――ひとつの答えを、導き出した――。
「――そこだ!」
ドンッ!
一気に踏み込む。
ガキィィィィン!
「くぅぅぅ……」
凄まじい速度の一撃。だが――サラは受け止めた。
「我が剣を受けただと!」
「うわぁ、最高! あなた、いい剣筋ね!」
サラの口元が嬉しそうに吊り上がる。
「では――」
キンッ! バキャン! ガキン! キン! キン! ギャン!
次の瞬間――。
二人の剣が激しくぶつかり合った。
目で追うことすら難しい連撃。
斬る。弾く。かわす。そして、また斬る。
それはまさに――剣の乱舞。
「……」
観客席から声が消え、誰もが息を呑み、二人の戦の舞に釘付けになっていた。
サラの華奢な身体からは、想像もつかないほどのスタミナ。
そして、ルシアンの高速剣を受け止め続ける驚異的な剣技。
その姿に、ルシアンの口元も自然と緩んでいく――。
「楽しいぞ……楽しいぞ! 剣はこうでなくては!」
一方――サラもまた、笑っていた。
速く、鋭く、これまで戦ってきた誰よりも、剣の技量が高い――。
「ああ、最高!嬉しい、筋肉が悲鳴を上げているわ」
限界。だからこそ――楽しい。
誰もが、体格に勝るルシアンが徐々に有利になると思っていた。
だが――。
サラは、まだ余裕を失っていない。
そしてついに――決戦の時が訪れる。
「……あなたの剣は軽いわ」
サラがポツリと呟いた――。
「……なんだと?」
その瞬間――。
バキャキャキャキャンッ!
「なっ――!」
サラの連撃が、ルシアンの剣を次々と弾き飛ばす。
力任せに押し返しているわけではない。ルシアンの剣が触れる瞬間、その力をわずかに逸らす。
そして――速さを殺さず、その勢いだけを相手へ返す。
高速剣を完全に見切ったサラは、一気に距離を詰めた。
「ガフッ……!」
「楽しかったわ……ありがとう」
切っ先でもない。
柄でもない。
それは――鞘だった。
サラの鞘が、ルシアンの鳩尾へ深々と食い込んでいた――。
「勝者――サラ!」
「うわぉぉぉぉ!」
「凄いぞサラぁぁぁぁぁ」
会場から、割れんばかりの歓声が湧き上がる――。
これまで「狂剣」と呼ばれていたサラに対し、今度は惜しみない称賛の声が送られていた。
だが、そんな大歓声の中――。
グレイスだけは、憎悪に満ちた目でサラを睨みつけていた。
「アイツだけは……生かしておけない、今に見ていろ……サラ」
闘技場を包む大歓声とは裏腹に、グレイスの呟きだけが、静かに響いていた――。
※※※※※※
【王族用・控室】
「どうしたの、ステイシー。浮かない顔して」
剣術大会で見事優勝したにもかかわらず、賞状やトロフィーはテーブルの上に無造作に置かれ、本人はどこか寂しそうな表情を浮かべていた――。
「おじいちゃんがね……なんか、すごく微妙な顔してたの、平民枠なのが……気に入らなかったのかな」
偽装魔法によって、現在のステイシーは一般枠の女生徒――サラとして振る舞っている。
そのため、表彰式でジェフと顔を合わせても、国王と平民という立場で接するしかなかった。
「それは仕方ないよ」
本来なら、孫娘として思い切り褒めてもらえるはずだった。
「まぁ、そうなんだけどさ……」
しかし優勝者として賞金を受け取った時のジェフの反応は、いつもの祖父とは少し違っていた。
いつもなら満面の笑みで迎えてくれて、「よくやった」と褒めてくれる。
だが、自分の失態で、それが叶わなかった。
それが、ステイシーには寂しかったのだ――。
「そもそも、ステイが勉強しなかったのが原因なんだから」
「もう、それ言わないでよ!ちょっと寂しくなっただけなんだから!」
ステイシーは頬を膨らませる。
脳筋娘と言えども、思春期の女の子だ。
色んな思いが交差して、心落ち着かないのだろう――。
「はいはい、RPGで気分転換でもしてみたら」
「そうだね、稼がないとね!」
立ち直りの速さはサラの良い所?
扱いに慣れているアイラはクスッと笑うと、去り行くサラの背中を見詰めていた――。
※※※※※※
【バーチャルルーム】
意気揚々とバーチャルルームを訪れると……。
「へっ?」
ログイン中に襲われる心配のない、カプセル型のバーチャルシステムは満員御礼状態だった。
「げっ……なんでこんなに混んでいるのよ……」
女子を優先しているのにも関わらず、もう既に予約でいっぱいだ。
一年生のサラが優勝したことで、その冷め止まない熱気に煽られ、殺到したのだろう――。
「狂剣は後でいいよね!」
「いやいやいや、お金稼がないと」
優勝したし、金一封も出たし、遠慮しなさいと、いう事だろう。
困っていると、管理者の女性がサラに大きな箱を渡す――。
「貸し出し用がありますので、それを使って下さい」
「ラッキー、じゃお願い!」
喜ぶサラに渡されたのは、1式戦闘機で使うものと同じ、ベッドマウントディスプレイだ。
要するにこれを持ち帰り、ベッドに寝てログインして使えという事だ――。
「くれぐれも、セキュリティーを上げてお使い下さい」
「分かってますって。ログイン中は無防備なんでしょ?」
受け取ったサラは意気揚々と部屋を飛び出す――。
「ククク、絶好の機会が訪れたな」
去り行くサラの後ろ姿を睨むのは、あのグレイスだった。
負けた屈辱を晴らしたい。
完全に逆恨みだが、彼の心は憎悪に塗れていた。
「さて、準備をしないとな」
見境を失ったグレイスは、ログイン中のサラを襲うつもりだ――。
※※※※※※
【E・F専用女子寮・サラの部屋】
サラがバーチャルルームを後にした数十分後。
誰もいないにも関わらず、セキュリティキーの作動を知らせるランプが光る。
ピッピーーカチャリ――
扉のロックが解かれ、静かに開く。
だが、人影は見えない。
代わりにヒタヒタと静かな足音だけが小さく鳴いている――。
コメント
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おっ、決勝戦キター!🔥 サラの「あなたの剣は軽いわ」からの鞘で決める流れ、マジでかっこよすぎたわ。脳筋だからこそルシアンの技量を素直に楽しんでる感じがいいし、筋肉が悲鳴上げてるのに笑顔って最高じゃん?🏆 でも最後のグレイスの影… 次回が怖いけど気になる! お疲れさま、耀聖さん!