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【王族用・控室】
「もう、姫姉様、ここでやるのですか!」
借りてきたバーチャルシステムの準備を、淡々と進めるステイシー。
それを訝しげに眺めるのは、アイラだった――。
「私って敵が多いからねー。ここなら安全でしょ」
「そうですけど……まだログインしないのですか?」
準備はすでに整っている——。
あとはソファーに寝転がり、ヘッドマウントディスプレイを装着してログインするだけだ。
しかし、サラはなかなか動かない。
その時だった――。
ピッ、ピッ!
「ほら、早速誰か私の部屋に入ったよ」
タブレットから、侵入を知らせるアラームが鳴り響く。
サラは最初から、こうなることを見越していた。
というより――。
持ち運ぶ姿をグレイスに見られて、これを予想しない方が、どうかしている。
「えっ?……誰ですの?」
「はぁ~、やっぱグレイスだよね……」
タブレットに映し出された自室の映像を眺めながら、サラは大きくため息をつく。
しかし、画面には人影など映っていない。
「赤外線にも反応しませんね。これは軍用の光学迷彩ですか?」
「ええ、そうよ。でも、トラップには反応したから間違いないわ」
市販のモジュールのステルス機能は、熱を完全に遮断することはできない。
それなのに赤外線にも映らない。
となれば――軍用の高度なステルス装備しか無い。
「でも、トラップなんて見つかるでしょう?」
「普通はね(笑)」
サラが仕掛けたのは、軍人でも見破るのが難しい、極めて単純な罠だった。
触れただけでも切れる糸を張り、余計な装置を使わない。ただそれだけだ。
「踏み込んで捕まえますか?」
「ああ、書き置きしてあるから大丈夫よ(笑)」
そう言って、サラは楽しそうに笑った――。
※※※※※※
【サラの部屋】
光学迷彩服に身を包んでいるのは、もちろん軍事会社の子息――グレイスだった。
透明な彼は、静まり返った部屋の中を、忍び足で進む。
目指すのは、サラがいるはずの寝室だ――。
「ククク……これを使って脳にダメージを与えてやる。証拠も残らない。完璧だ」
グレイスが手にしているのは、軍事用の強力なマイクロ波発生装置。
本来は負傷者の止血などに使用される装置だが、それを悪用してサラの脳に障害を負わせようとしている。
記憶領域か、運動機能に関わる領域か、いずれにせよ、脳に損傷を与えれば何らかの障害が残るだろう――。
「くっそ……ノクトを持ってくればよかった」
セキュリティー対策のため、窓のシャッターは閉じられ、室内は真っ暗だ。
暗視装置があれば楽勝だったが、急いで準備したことが仇となった。
仕方なく、グレイスは最低限の照明を点ける——。
「さぁ……始めようか」
雨朱
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2,375
57
えぬた
789
ベッドの上には、シーツを頭から被った人影がある。
盛り上がりを見て、グレイスはニヤリと口角を上げた。
「見つけたぞ……」
ゆっくりとシーツを掴み――。
バサッ!
「……!」
しかし、そこにサラの姿はなかった——。
ベッドの上に残されていたのは、丸めた毛布だけ。
そして――。
<あらら、残念でした。ストーカーさん(笑)>
毛布の上には、一枚の紙が貼られていた。
「なっ!……」
グレイスは石のように固まってしまう。
まるで、最初から自分がここへ来ることを、知っていたかのようなメッセージ。
怒りより先に、背筋を冷たいものが走った——。
※※※※※※
【グレイスの部屋】
「くっそ!」
部屋に戻ったグレイスは、光学迷彩装置を乱暴にソファーへ投げ捨てる。
表情には、隠しきれない悔しさが滲んでいた——。
<あらら、残念でした。ストーカーさん(笑)>
だが――考えれば考えるほど、先ほどの書き置きが脳裏を過ぎる。
「見られてはいない筈だ……証拠は無い……しかし……」
まるで、最初から自分が部屋へ侵入することを知っていたかのようだった。
「くっそ!」
サラは、何かに気付いている。そうとしか思えない。
姿を見られていなくても、何らかの証拠を掴まれている可能性はある。
だが――直接確かめるわけにもいかない。
問いただせば、自ら部屋に入ったと自白するようなものだ。
解決策が——見つからない。
「……どうすればいい」
証拠があるのか、ないのか、それすら分からない——。
確認することもできず、放置することもできない。
「……」
グレイスは頭を抱え込む——サラから何かをされたわけではない。
それなのに――。
たった一枚の書き置きによって、完全に身動きが取れなくなっていた。
※※※※※※
【翌日・登校時】
いつもの朝を迎え、生徒たちは挨拶を交わす。
「ご機嫌よう」
何事もなかったかのように、学園の日常が始まろうとしていた――。
「……」
一人、黙々と学舎へ向かうのは……グレイスだ。
清々しい朝だというのに、その顔はまるで、マラソンを終えた選手のように疲れ切っている。
原因は――もちろんあの書き置きだった。
「――ッ」
憔悴しきって俯きながら歩いていたグレイスが、ふと顔を上げる。
学舎の入り口で腕を組み、じっとこちらを見つめている赤い髪の女生徒が目に入る。
——サラだ。
「……」
彼女はジッと見つめてくる。
グレイスの胸に、何とも言えない不安が込み上げてくる。
しかし――サラは動かない。
「……」
近づいてくるわけでもなく、口を開くわけでもない。
ただ、じっと見つめているだけだ——。
(俺に、揺さぶりを掛けているつもりなのか……)
「――ッ」
普段なら、無視して通り過ぎるし、そもそも顔も見たくない。
だが――。
何でもいい、あの書き置きの意味を知るための、僅かな糸口が欲しい。
喉の渇きを覚えながら、グレイスはサラに問い詰めたい衝動に駆られ始める。
フフフ——。
そう笑っているように見え、堪らなくなったグレイス。
ゆっくりと足を向けると、嘲笑うかの様にくるりと踵を返した——。
そして、そのまま学舎へ向かって歩き始める。
「――ッ」
やがてサラが校舎へ入る直前、彼女はふと振り返った。
「……」
そして――。
ほんの僅かに口角を上げ、グレイスは思わず足を止めた。
だが、サラは何事もなかったかのように、教室の中へ消えていく。
「…………」
グレイスは、その場に立ち尽くしてしまう——。
(知っている……あの女は知っている……!知っていて、わざとやっているんだ!)
ただ、自分を弄んでいるだけなのか、何一つ分からない。
何とも言えない仄暗い感覚だけが、胸の中を掻き回していた——。
※※※※※※
【放課後】
「ああもう、既にいないじゃないか」
グレイスは今日一日、何も手につかなかった。
放課後になり、Fクラス付近までやって来たグレイスは、サラと接触しようとする。
しかし――。
既に姿を消していた。
「おい、サラはどこに行った」
「知りませんよ。授業が終わったら席を立って、そのままいなくなりました」
学友に聞いても、足取りは掴めない。
彼女は寮生活だ。まだ戻っていないのなら、学園内のどこかにいるはずだ――。
「くっそ……だが、会ってどうする――」
ヒリヒリとした喉の渇きを覚えながら、グレイスは学舎の中を探し回る。
そして――。
ドクン!
「いた!」
心臓が大きく跳ねる。
職員室近くの廊下。人混みの向こうに、見慣れた赤い髪が見えた——。
グレイスは、無言ですぐさまその背中を追いかけた。
「……え?」
だが――。
角を曲がると、そこには誰もいなかった。
サラの姿は、忽然と消えていた。
「……」
グレイスは呆然と立ち尽くす。
それはまるで――自分から逃げているのか、それとも、最初から弄んでいるのか。
その答えすらわからず、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった——。
コメント
1件
おお、第15話読んだわ!サラの用意周到さが光る回だったね。グレイスが侵入するのを最初から見越して、書き置き一つで完全に心理的に追い詰めるところがめっちゃ気持ちいい。翌日の登校シーンで、サラがただ見つめるだけでグレイスが動揺してる対比がたまらん。「知っている…!」って追い詰められてるグレイスの焦りがじわじわ伝わってきて、次どうなるか気になりすぎる🔥