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それでも運命と呼ばずに

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それでも運命と呼ばずに

11 - 第11章:運命の外側で、名を呼ぶ

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2026年01月12日

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白い世界が、崩れ始めていた。


それは崩壊というより、

**「定義を失っていく」**という現象に近かった。


地平線を埋めていた無数の記録板が、

一枚、また一枚と

文字を失い、色を失い、

やがて“意味”そのものを落としていく。


管理機構《オルド・ファトゥム》の円環は、

不規則に脈打ち、

もはや完全な形を保てていない。


「……システム矛盾、拡大」


「世界線安定率、急落」


「原因――

自由意志の重複選択」


声は、

もはや無数ではなかった。


削ぎ落とされ、

掠れ、

恐怖に近いノイズを帯びている。


ノアは、

ルミの前に立ったまま、

彼女を背に庇っていた。


「……来るぞ」


彼自身も、

何が来るのかは分からない。


ただ――

**“戻れない”**ことだけは、

はっきりしていた。


ルミは、

ノアの背に手を当てる。


「ねえ……」


「私、怖い」


その声は、

子どものように正直だった。


ノアは、

一瞬だけ目を伏せ、

それから低く答える。


「……俺もだ」


「でも」


「君が、ここにいる」


「それだけで……

前に進める」


ルミの指が、

わずかに強く握られる。


「……一緒に、落ちるってこと?」


ノアは、

振り返らなかった。


「落ちるんじゃない」


「行くんだ」


「運命が、

触れられない場所へ」


その瞬間――

円環が、

完全に裂けた。


白い光が弾け、

代わりに現れたのは、

底知れぬ“影”。


深淵。


だが、

恐怖より先に、

ノアは“既視感”を覚えた。


(……ああ)


(ここか)


運命喰らいの声が、

影の奥から響く。


(ようやく、

ここまで来たな)


姿は見えない。


だが、

確かに“見られている”。


(選択を重ね、

観測を裏切り、

管理を壊した)


(――人間)


(いや)


(もはや、

どちらでもないか)


ノアは、

剣を構えた。


「お前が……

運命喰らいか」


低い笑い。


(そう呼ばれていた時代もある)


(私は、

“失敗作”だ)


(運命を食らい、

世界から排除された存在)


(だが……

君たちのおかげで)


影が、

ゆっくりと形を持ち始める。


無数の“断片”が集まり、

人のようで、

人ではない輪郭を作る。


(管理機構が壊れた)


(代替核も、

成立しなかった)


(つまり――)


(世界は、

次の秩序を必要としている)


ルミが、

小さく息を呑む。


「……ノア」


「この人……

世界を――」


ノアは、

静かに頷いた。


「喰うつもりだ」


影が、

楽しげに応える。


(理解が早い)


(さあ、ノア・アークレイン)


(最後の選択だ)


(私と融合し、

新たな“運命”になれ)


(そうすれば、

彼女も守れる)


(世界も、

救われる)


ノアの胸に、

重い沈黙が落ちる。


あまりにも――

合理的な提案。


ルミを守れる。

世界も壊れない。


だが。


ノアは、

ゆっくりと首を振った。


「……それは」


「“選ばされる”選択だ」


影が、

ぴたりと動きを止める。


「俺はもう、

それを拒んだ」


「運命でも、

秩序でもない」


「――俺は」


ノアは、

ルミの方を振り返る。


彼女は、

不安と決意が混ざった瞳で、

彼を見ていた。


「彼女と、

一緒に在ることを選ぶ」


「それだけだ」


ルミの目から、

涙が溢れる。


「……ノア……」


影が、

低く唸る。


(愚かだ)


(だが――)


(だからこそ、

興味深い)


影が、

一歩、退いた。


(ならば、

証明しろ)


(運命なき世界で)


(それでも、

互いを呼び続けられるか)


深淵が、

口を開く。


引力が、

二人を引きずり込む。


ルミが、

叫ぶ。


「ノア!!」


ノアは、

彼女の手を掴み、

強く引き寄せた。


「離すな!!」


二人の身体が、

影に呑まれる。


光も、

音も、

時間も失われ――


ただ、

互いの存在だけが残る。


闇の中。


ノアは、

必死に声を出した。


「ルミ!!

聞こえるか!!」


返事は、

遅れて届いた。


「……聞こえる……」


「でも……

あなたが……

遠い……」


ノアは、

歯を食いしばる。


「呼べ!!」


「名前を呼べ!!」


「俺も、

呼び続ける!!」


闇が、

二人を引き離そうとする。


それでも。


「ノア!!」


「ルミ!!」


声が、

重なる。


何度も。

何度も。


運命も、

管理もない世界で。


それでも――

名を呼ぶという行為だけが、

二人を繋ぎ止める。


遠くで、

影が呟いた。


(……なるほど)


(これが、

“Fate”の残滓か)


闇が、

裂け始める。


世界が、

まだ形を持つかどうかは、

分からない。


だが。


二つの声は、

確かに――

同じ方向を向いていた。




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