白猫は俺の顔を見るなり、ニャーと鳴いて近づいてきて、足元で頬を摺り寄せてじゃれはじめてしまった。
うーん。
あ、古葉さんの猫屋でか?!
この猫の所在は猫屋だと知ると、また猫屋へ戻らなければいけない。今度は猫を連れ、俺は猫屋へ元来た道を歩いて行った。
ただのガキの遣いだと思ったら、色々あったな……。
ニャー……。
猫屋へ戻ると、店内では、古葉さんが神妙な顔をしてショーケースを覗いていた。古葉さんの後ろから声を掛けると、いきなり驚きの声があがった。
「わっ! わーー! って、火端か……。驚かすなよ……。あれ? その猫! その猫!」
「うん。ああ、この猫。いつの間にかついて来たんだよ」
「お前……一番。厄介な猫を……」
「へ?」
「その猫はなあ、飼い主によく似た奴を見つけると、どこまでも着いていってしまうんだ。この間なんかなあ……」
「俺、買うよ。金はこの旅が終わったらでいいかな?」
「うえ! ……よし! 売った!」
俺は白猫を買ってから、民宿へ戻ることにした。古葉さんは、快く白猫を後払いで売ってくれた。俺の実家は茨城県にあるんだ。実家ならいくらか金があるんだ。さて、この白猫の名前は……シロでいいな。決まりだな。
シロを連れて、民宿へ戻ると、今度は玄関先にしかめっ面のおばさんが……。
これじゃあ、今日中に衆合地獄に行けないので、俺はそそくさとおばさんの脇を通って、二階の音星の部屋へと向かった。
「お帰りなさい火端さん。その猫は?」
「ああ、シロっていうんだ。猫屋でさっき買ったんだよ」
アイスを食べ終わった音星は、巫女服の姿で浄玻璃の手鏡に顔を写していた。
「それでは、いざ衆合地獄へ行きましょうか」
「ああ。って、ここで?」
「ええ。お後がよろしいようで……」
音星の手鏡がこちらに向いて、いきなり光が俺の顔に照射された。
俺は目を瞑りしばらくそのままでいた。ゴ―……スー……ゴ―……スーっという何かを激しく摩る大きな音と共に、カラっと乾いた空気が俺の顔を襲った。
目を開けて辺りを見回した。
目の前には、首から上が馬の巨大な男が、鼻息を荒くしていた。俺の後ろの方を見ると、両手を広げて走り回った。その後に首から上が牛の男が走っていく。あれが、衆合地獄に存在する恐ろしい牛頭と馬頭だろう。音星が隣に寄り添うと。早速、この衆合地獄での妹探しが始まった。
至る所に、灰色の石でできた山々と刀葉林と呼ばれる林がある広い大地だった。牛頭と馬頭に追われ、石打で潰される人型の魂。山に挟まれ酷く圧迫されている人型の魂などもあった。
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