コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◻︎三木と結城
バスの席は決められてなかったので、流れで三木の隣に座った。
「では、これから桐山自然公園へ向かいます。1時間ほどですので、それまで順番に簡単な自己紹介をしていきたいと思います。マイクを回しますので、その場でお名前とそれから話せる範囲で自己紹介をお願いします」
ガイドさんが立つ位置で、係員の女性が説明を始めた。
「すいませーん、年齢とか職業も言うんですか?」
「いいえ、言っても言わなくてもいいですよ。お名前も、呼ばれたいニックネームなどがあればそれでもいいです。身元確認は、事務局で済ませてますので。試しに私からいきますか。
私は永友彩です。年齢は30にもう少し。アヤと呼んでください。今日は係員ですが、いい方がいらっしゃいましたらガッツリいかせてもらいます」
「あはは、それって職権濫用じゃん!アヤさん」
笑いが起こった。なごやかな雰囲気になって、それぞれが簡単に自己紹介をしていった。でも、着席したままなので顔も何も見えないのだけど。
マイクがまわってきた、私の番だ。
「森下茜です。来てみてちょっと、失敗したなと思っちゃいました。みなさんとてもお若いので。でも、よろしくお願いします」
ぱちぱちとまばらな拍手。隣の三木へとマイクをまわす。
「はい、えーと、僕はもしかするとここで一番年上かな?三木優といいます。よろしくお願いします」
ぱちぱちぱち…。
だんだんとマイクが後ろへと回っていった。
「えーっと、俺は結城宏哉です。今日は絶対プロポーズをするつもりで来ました。頑張ります!」
おおぉっ!というどよめきと、大きな拍手が湧いた。
_____結城って、結城君?!
私は思わず声のする方を見た。頭ひとつ出ているその男性は確かに結城だった。目が合った瞬間、ウィンクしてきた。
私はスマホで、結城にメッセージを送った。
“なんで結城君が参加してるの?”
“結婚したいからです”
“まだ焦らなくていいと思うけど?”
“だって焦りますよ”
“ふーん、でも、知り合いだと思われるとお互いに邪魔をしてしまうから、他人のフリしててね”
そこで、スマホをしまった。
_____そっか。結城君も結婚したかったんだ
「あっ!」
小さな声を上げた三木の手から、ペットボトルが落ちた。とっさに私が足で止めたけど、もろに飲み口を蹴ってしまった。
「あちゃ、もうこれ、飲めませんね」
「そんな、もったいない。ちゃんと洗って飲みますよ」
その後も、三木はおしぼりを落としたり、歩きながら靴が脱げたりした。その度に近くにいた若い子は、あからさまに眉をひそめていたけど、私にはなんだかほっとけなくてずっと一緒に行動した。