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初撮影から数週間後。紫陽花は少しずつ仕事を増やしていた。
とはいえ、まだ新人だ。
大勢のスタッフがいる現場は苦手だった。
スタイリスト。
ヘアメイク。
編集者。
ディレクター。
たくさんの人の視線が集まるだけで胸が苦しくなる。
「緊張してる?」
今日の担当カメラマンが笑いながら聞いた。
「してません」
反射的に答える。
「嘘だね」かあか
どこか玲奈に似た返しだった。
紫陽花は思わず苦笑する。
撮影が始まる。
案の定うまくいかなかった。
肩に力が入る。
表情も固い。
視線も泳ぐ。
スタッフたちが困ったような顔をしているのが分かる。
その時だった。
無意識に首元へ手が伸びる。
黒いチョーカー。
玲奈にもらったもの。
指先で触れる。
ひんやりとした感触。
不思議と呼吸が整っていく。
大丈夫。
失敗してもいい。
私がちゃんと撮るから。
あの日の言葉が蘇る。
紫陽花は小さく息を吐いた。
そして顔を上げる。
カシャ。
シャッターが鳴る。
カシャ。
もう一度。
「今の!」
担当カメラマンが声を上げた。
「その顔!」
紫陽花は驚く。
何かした覚えはない。
ただ少しだけ落ち着いただけだ。
撮影が終わり、モニターを見せられる。
そこに映っていたのは知らない自分だった。
柔らかな表情。
自然な視線。
どこか自信を持ったような姿。
「え……」
思わず声が漏れる。
「いい顔してたよ」
担当カメラマンが笑う。
「この瞬間、一気に変わった」
紫陽花は画面から目が離せなかった。
綺麗だった。
自分で言うのはおかしい。
けれど、本当にそう思った。
「これが……私?」
初めて玲奈に写真を見せられた日のことを思い出す。
あの日と同じ気持ちだった。
知らなかった。
こんな顔ができるなんて。
こんな自分がいるなんて。
担当カメラマンは首を傾げる。
「何かお守りでも持ってる?」
紫陽花は無意識にチョーカーへ触れた。
「……かもしれません」
そう答えながら。
胸の奥で玲奈の笑顔を思い出していた。
コメント
1件
うわ、第2話もう読んじゃったよ……! 紫陽花ちゃんの成長がじわじわ来るなあ。チョーカー触る仕草だけで「玲奈が背中押してくれてる」感じが伝わってきて、なんかじんわりしたわ。自分でも知らなかった表情が出てくる瞬間、すごく好き。次の撮影シーンも楽しみにしてる🔥