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複雑な思いを抱えながら、守は自宅に帰り、日常へと戻ろうとした。洗面台の前に立ち

歯を磨く守の脳裏には、天城のキスが何度もよみがえっていた。


「天城くん、なんであんなことを…もしかして俺のこと…?」


ふと鏡に目をやると、そこには中年の、太っていて、冴えない顔をした自分自身が映っていた。

現実に引き戻され、守は思わず声を上げた。


「そんなわけないだろう!!俺みたいな汗くさいおっさん、誰が好きになる?

しかも、俺は紗良ちゃんのことが大好きなはずじゃないか…大好きなはずなのに…」


しかし、下半身はその思いとは裏腹に反応してしまっていた。

守は、自分の感情と体のギャップに苛立ちを覚え、思わず「くそぉ!!」と叫んでしまった。


眠れそうもない。その感情を振り払うかのように、

守は久しぶりにオンラインゲーム「地球防衛軍」にログインした。

何か別のことを考え、気を紛らわせたかったのだ。


ログイン画面が表示され、懐かしいキャラクターが現れる。守は小さくつぶやいた。

「さすがに初期ギルドにもう『シンシアさん』はいないよな…」


守のキャラクター「フク」は、しばらくギルドを離れていた。

仕方なく一人で冒険に出かけようとしたその時、「フクさん?」と誰かに声をかけられた。


その名前に振り返ると、そこには見覚えのあるキャラクター「シンシア」が立っていた。

守は驚きと嬉しさが一気にこみ上げ、「シンシアさん!」と声を上げて彼女に抱きついた。


シンシアも笑顔を浮かべながら、「久しぶりですね」と、フクにハグを返した。


フクは感動しながら、「もうとっくにこのギルドからいなくなったかと思いました」


シンシアは優しく微笑みながら言った。

「はい、でもまたフクさんと会いたくて、たまにこのギルドに来ているんですよ」


その言葉にフクは胸が熱くなった。


シンシアが立派な武器とコスチュームを身にまとい、

以前よりも強く成長していることに気づく。


「オレがいない間も、頑張ってたんですね」と、フクは感心したように呟いた。


シンシアは笑いながら、「ええ、マリアさんとルナさんに毎日しごかれてますからね!」と冗談交じりに答えた。


フクは少し申し訳なさそうに、

「あの2人に…そういえば、パトロールすると言ってそのままにしてましたね、すみません」と謝った。


シンシアは柔らかく、「仕方ないですよ。現実世界のほうが大変ですから」と優しく受け入れた。


「ありがとう、シンシアさん…」フクは心から感謝した。


シンシアは少し照れくさそうに、「さぁ、一緒にモンスター退治に行きましょう!」と提案した。


フクは一瞬ためらった。「でも、レベルの差があるし、迷惑かけるんじゃ…」


シンシアは軽く笑って、「なに言ってるんですか、フクさん!

あなたのレベル上げを手伝うために決まってるでしょ!」と言い放ち、ギルドの外へと駆け出した。


フクも慌ててその後を追った。彼女と一緒に行動することで、

少しずつ心の重さが軽くなっていくのを感じた。


二人で力を合わせ、次々とモンスターを倒し、ゲームの世界での友情が再び芽生えていった。

現実の悩みを一時忘れ、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


その夜、フクはシンシアと共に過ごした時間の中で、心の中のもやもやが少しずつ晴れていくのを感じていた。



「ゲームの裏側と現実の影」


モンスター退治もひと段落し、守のキャラクター「フク」とシンシアは、美しい景色が広がるフィールドで休憩を取っていた。静かな風が心地よく、二人は少しの間、言葉を交わさずに空を見上げていた。


「今日はマリアさんとルナさんはいないんですか?」と、フクがシンシアに尋ねた。


シンシアは頷き、「ええ、今日はチームで巨大モンスターを倒しに第7セクターまで行ってますよ」と答えた。


「巨大モンスターか…さすがだなぁ。あの二人なら楽勝だろうけど、やっぱりすごいな」


シンシアは微笑んで言った。「実はマリアさん、妊娠してるんですよ」


フクは驚いて「なに!?」と声を上げた。


「ええ、相手は同じチームのリーダーらしいです」とシンシアはあっさりと告げた。


このゲームの中では、アバターを一度選ぶと変更はできない。

新しいアバターを手に入れるには「出産」というシステムがあり、

子供として育てなければならない。そして、男性アバターは自分のチームを作り、

そのチーム内の女性アバターたちから子供を産んでもらい、新しいキャラクターを増やしていく。

中には、一人の男性アバターに何人もの女性がつくこともあり、強大なチームを形成していることも少なくなかった。


「そんなシステムがあったとは…」フクは呆然としながら、

このゲームの中では、単なる戦闘や冒険だけでなく

こうした「育成」の要素まで組み込まれていることに驚きを隠せなかった。


「じゃあ、あの男たちが襲ってきたのは、自分の子孫を残すためだった?」

フクは疑問を抱きながら、シンシアに問いかけた。


シンシアは小さく首を振り、「いえ、あいつらはただ、

その行為自体を楽しんでいるだけのようです。無理やり襲われたとしても、

妊娠する確率は低いんですよ」と静かに答えた。


「仲間を襲って、何が楽しいんだ?」フクは納得がいかない様子で首をかしげた。


シンシアは遠くを見つめながら、「このゲームは、ただ痛めつけて殺すこともできる。

現実ではありえないことができる場所だから、

そういうところに引き込まれていく人もいるんでしょうね。

私にも正直、理解できませんが」と答えた。


フクはシンシアの言葉を思い返しながら、あの時のことを思い出した。

下半身を露わにした男たちの姿。そのリアルさが脳裏に焼き付いていた。



「フクさんも、あいつらの“アレ”を見たでしょ?」シンシアが、

少し戸惑いながら尋ねた。


フクは重々しく「はぁ」と頷いた。


「あの時は、アバターがどれだけ殴られても現実の私たちには痛みはない

でも…心は、壊れていくような気がして、とても苦しかったんです」シンシアは声を少し震わせながら続けた。


フクは拳を握りしめた。「ボクも同じだ。あの恐怖は、まだ消えていない。

ゲームだとわかっていても、体が覚えてしまっているようで…」


シンシアはふと静かに言った。「このゲーム、アバターは完璧に人間の構造を模して造られています

それも影響してるのかもしれません。痛みこそ感じないけれど、催眠にかけられたような

感覚に陥ることもある。現実と仮想の区別がつかなくなる瞬間があって…だから、このゲームは不思議なんです」


「中毒性が高いってこと?」フクは心配そうにシンシアを見た。


「さぁ、それはどうでしょう。でも、わたしたちのように、

しっかり現実世界での生活も大事にしている人間には、ただの楽しいゲームですよ。

バランスさえ取れていれば、大丈夫です」とシンシアは明るい声で答えた。


「そうですよね!」フクは彼女の前向きな姿勢に安心し、笑顔を返した。


「さあ、もうひと暴れしに行きましょうか!」シンシアは軽やかに立ち上がり、フィールドの奥へ視線を向けた。


「もちろん!」フクも立ち上がり、彼女とともに再び戦場へ向かって歩き出した。

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