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「僕は昔から花薬に興味があってね」
ハインリヒはずっと以前から花薬について調べていたと話す。調べている内に仲介屋の存在を知ったそうだ。
「実は以前に一度だけ花薬を手に入れた事があるんだよ」
闇市場で出回っていた物をかなりの高値で購入したと話す。ただ詳しい状況や金額までは教えてくれなかった。するとニクラスが補足で「孫ちゃん聞いたらきっと失神するで」と笑っていたが、ティアナには全く想像もつかなかった。
「でも、ニクラスさんから買った物ではないのに、どうしてそれが本物だといえるんですか」
それこそティアナが誘拐された時の様に偽花薬の可能性がある。闇市場が何なのかティアナには分からないが、ニクラスとの取り引き以外で正規品が出回るなど有り得ない。
「まあそうだね。僕はそれ以前にも闇市場で幾度も花薬の偽物を手に入れているからね。君が疑うのも無理はない」
「花薬の偽物ってそんなにあるんですか」
あの時ティアナは初めて偽花薬の存在を知ったが、まさかずっと以前からあったなど驚きだ。
「勿論。あんな金儲けの道具の様な物が目を付けられない訳がないからね。ゴーベル伯爵の時はただ単に水面下のものが偶然露わになったに過ぎない。因みに何故僕が本物だと判断したかだけど、枯れた花に薬を垂らして調べたんだ。素晴らしい事に一瞬にして見事な花を咲かせたよ。まるで魔法の様にね」
ここまで冷静に淡々と話していたハインリヒは急に興奮した様に話し出した。ティアナは彼の変化に戸惑うがニクラスは肩をすくめ呆れ気味に見ている。
「ただ面白い事に、鑑識に調べさせたが特別な成分は何も検出されなかったんだ。しかも全く同じ成分で作って見たが何の効果もない液体が出来たに過ぎなかった。何故だか教えて貰えないかな?」
「……何故私に聞かれるんですか」
「だって君が花薬の作り手なんだろう? ティアナ・アルナルディ」
隣に座っているニクラスを睨むが「俺は何も話してないで」と首を振る。
「言っただろう、ずっと以前から調べていたと。君や君の祖母ロミルダ・フレミーの事は誘拐事件より前から怪しいと目を付けていたんだ。だが何分確証がなかったからね。下手に動いて花薬そのものを抹消されでもしたら元も子もない。だが今日ようやく確証を得る事が出来た」
「え……」
「君が彼と面識がある時点で自白したも同然だ」
(なるほど、確かに……)
ハインリヒの言葉に思わず納得してしまった。
ニクラスがいた事に驚いて普通に彼と接してしまったが、本来ならニクラスとは他人のフリをするべきだった。ティアナはため息を吐き自分の機転のなさに項垂れた。
(お祖母様、約束を破ってしまってごめんなさい……)
心の中でロミルダに謝罪をしてから諦めて口を開いた。
「どの様に作り、何を使用したか教えて頂けますか」
ティアナは素直に関心した。作り方の工程は多少前後したり抜けていたりとするが、原材料は全て一致している。
「正直言いますと私は花薬を作れません。花薬はずっと亡き祖母のロミルダが作っていたんです。私自身何度も挑戦しましたが、失敗ばかりで結局作る事は叶いませんでした。なので私にも原因は分かり兼ねます。ハインリヒ殿下のご期待に沿う事が出来ず申し訳ございません」
きっと彼は真実を知って落胆し幻滅した事だろうと思ったが、ハインリヒを見ると何故かニコニコと笑っていた。
(もしかしてショックの余りおかしくなってしまったのかしら……)
失礼な事を考える一方で、不甲斐ない気持ちでいっぱいになる。
「実は彼を拾ったのはある人に会いに行く途中でね」
急に話が飛び目を丸くした。ニクラスを拾った経緯は確かに気にはなっていたが、余りにも取り留めがなく困惑し眉根を寄せる。
「君をその人物に会わせたい」
更に話は思わぬ方向に転がっていく。ニクラスの話は一体何処にいてしまったのだろう……。ティアナは訝しげな目を向けた。
「えっと……」
取り敢えず今思う事は一つだ。断りたい。だがきっと自分に拒否権などはないのだろう。返答に困っているとハインリヒは更に衝撃的な発言をした。
「おっと、僕とした事が順番を間違えてしまった、失敬。ティアナ嬢、僕と婚約しよう」
困惑を通り越して、思考が停止した。