「こちらこそ、よろしく頼むよ。それと、もうひとつ君に頼みたいことがあるんだが……君は、誰か車の運転の出来る人を知らないだろうか?」
ふいにそんな話が切り出されて、
「……車の運転、ですか?」
どうしてそんなことをと、やや困惑しながら問い返した。
「ああ、急で申し訳ないが、君の知り合いでも友人でも身元がわかっていれば問題はないから、誰か車の運転が出来る人を紹介してもらえないか?」
言葉の端々に、だいぶ切羽詰まっているかのような雰囲気が感じられて、
「免許でしたら、私も持っていますが……」
と、口に出した。
「そうか。それなら、私の運転手もしてもらえないだろうか?」
唐突にそんな提案をされて、
「えっ、運転手を!?」
驚きのあまり大きな声が出て、慌てて自分の口を両手で押さえた。
「長く専属だった運転手が、急に故郷へ帰ることになって辞めてしまったんで、困っているんだ。悪いが、お願いをできないだろうか?」
「私みたいな者に、そんな大役を任されてもいいんでしょうか? もっと素性などがはっきりとしている方を、出来れば選ばれた方が……」
「君も、素性などは充分にはっきりとしていると、私は思うが」
そう言って、確かな信頼を寄せた眼差しをじっと私に向けた。
「……私の運転手は、嫌だろうか?」
一瞬、『私のことが、嫌だろうか?』と、愛の告白でもされたかのように勝手に脳内変換されて、顔からボッと火が出そうにもなった。
「嫌ではないのですが……」
わけもなく赤らんでくる顔をなんとか取り繕いながら、ぼそぼそと口にする。
「私が、君にやってほしいんだ。頼むよ」
と、頭が下げられて、
「そんな、頭を下げられたりなんてしないでください。私のような若輩者ではなく、やはりもっとベテランの方に頼まれた方がよろしいかと……」
恐縮し切って話すと、
「……若輩?」
と、不思議そうに首が傾げられた。
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