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🌹はなみせ🍏
大森さんの言葉に背中を押され、私は慌てて班のみんなのところへ駆け戻った。
「みんな、ごめん! 急用ができちゃって……午後の班別行動、私ここで抜けるね。あとはみんなで楽しんできて!」
一気にまくしたてると、友達はみんな目を丸くして固まった。それもそのはず、修学旅行の最終日にいきなり「抜ける」なんて、普通はあり得ない。
「えっ、ちょっと待ってらん! 急用って何? てか、あそこに立ってる人……誰? らんの知り合い?」
「えっ、めっちゃスタイルいいしオーラ凄くない? 芸能人? 誰なの?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、心臓が口から飛び出しそうになる。
ここで「Mrs. GREEN APPLEの大森さんだよ」なんて言ったら、原宿のど真ん中で大パニックが起きてしまう。何より、気さくに誘ってくださった大森さんに迷惑をかけるわけにはいかない。
「あ、あのね……親戚! そう、親戚の知り合い! ちょっと急ぎの用事で呼び出されちゃって。本当にごめん、学校にはちゃんと連絡してあるから!」
半ば強引に話を切り上げ、食い下がるみんなを振り切るようにして走り出した。
少し離れた街灯のそばで、大森さんは周囲に馴染むように立ちながら、こちらを静かに見守ってくれていた。
「お待たせしました……っ! すみません、お待たせしてしまって」
呼吸を整えて隣に戻ると、大森さんは歩き出しながら、マスク越しでもわかる優しい声で訊ねてきた。
「大丈夫だよ。……で、なんて答えたの? 班の子たちに質問責めにされてたみたいだけど」
「あ……。えっと、『知り合いです』って言っちゃいました……。本当のこと言ったら大変なことになると思ったので、咄嗟に……。勝手にお知り合いなんて言ってしまって、本当にすみません!」
憧れの人を「知り合い」呼ばわりしてしまった申し訳なさで、私は思わず足を止めて深く頭を下げた。けれど、隣から聞こえてきたのは、怒った声ではなく、弾むような軽い笑い声だった。
「ふふ、いいよ。間違ってないしね。……そっか、知り合いか」
顔を上げると、大森さんの瞳が少しだけ細められて、どこか嬉しそうに輝いている気がした。
その表情に、私の緊張は少しだけ溶けて、これから向かう「プロの現場」への期待で胸がいっぱいになった。
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