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第85話:予知が映さない影(恒一)
恒一は、足音を消して歩いていた。
夏の夕方。
住宅街の影が、長く伸びる時間。
(……来ない)
あの感覚が。
白雪澪の“予知”。
今までなら――
彼女が危険に近づくたび、
必ず“何か”が起きていた。
避けられる。
止められる。
誰かが間に入る。
でも最近は、違う。
(映ってない)
恒一は、確信していた。
自分の行動は、
彼女の未来に“出てこない”。
予知は、
見える未来しか映さない。
なら――
見えない場所で動けばいい。
「……進化、か」
小さく笑う。
澪の力は、確かに特別だ。
でも、万能じゃない。
まだ――
“知らない形”がある。
恒一は、
ポケットの中のメモを指でなぞる。
書かれているのは、
時間でも、場所でもない。
――条件。
・一人ではない
・直接触れない
・感情を動かさない
・選択肢を与えない
(未来は、選ばせなきゃ映らない)
彼女の予知は、
「澪自身が関わる未来」だけを拾っている。
なら。
第三者。
遠回り。
感情の外側。
(……そこなら)
恒一は立ち止まり、
遠くの空を見上げた。
雲が流れていく。
(気づくだろうな)
でもそれは、
今じゃない。
今の澪の予知は、
まだ“守るための力”。
壊すための未来までは、
映らない。
「次は……もっと深く」
誰にも聞こえない声で、
そう呟いた。
その影は、
澪の未来にも、
誰の予知にも――
まだ、映っていなかった。