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雨が、静かに降っていた。
森の中の廃教会。
崩れかけた屋根の隙間から、冷たい雨粒が落ちてくる。
ノアは、長椅子に座っていた。
膝の上には、濡れたマント。
その端を、無意識に握りしめている。
――また、夢を見た。
カイが笑っていた夢。
「……やめてよ……」
ノアは、誰にも聞こえない声で呟く。
夢の中のカイは、いつも優しい。
だから、目が覚めたあとが、余計につらい。
そのとき――
「……起きてたか」
低い声。
レイヴンだった。
彼は、入口に立っている。
肩も髪も、雨で濡れていた。
「……見張り、交代」
「……うん」
ノアは立ち上がろうとして、ふらつく。
レイヴンが、咄嗟に腕を掴んだ。
「……大丈夫か」
「……平気」
でも、ノアの声は弱かった。
⸻
焚き火の前。
レイヴンは、濡れたマントを絞っている。
「……最近、無茶しすぎだ」
「……関係ない」
「関係ある」
レイヴンは、珍しく強めに言った。
「……死にたいみたいな戦い方するな」
ノアの手が、止まる。
「……私が死んだら、困る?」
少しだけ、挑発みたいな言い方。
レイヴンは、目を伏せた。
「……困るに決まってるだろ」
間。
焚き火の音だけが響く。
⸻
翌日。
山道で、魔物に襲われる。
いつもなら冷静なノアが、前に出すぎる。
「ノア、下がれ!」
レイヴンの叫びも聞かず、
ノアは突っ込む。
ズンッ――
毒の刃が、ノアの脇腹をかすめた。
「……っ!」
視界が、揺れる。
魔物の一撃が、迫る――
「ノアァ!!」
レイヴンが、ノアを突き飛ばす。
代わりに、肩を深く斬られる。
血が、地面に落ちた。
「……レイヴン……!」
ノアの魔力が、暴走する。
黒い霧みたいな敵を、一瞬で粉砕。
⸻
戦闘後。
ノアは、震える手で回復魔法をかけていた。
「……なんで……庇ったの……」
「……仲間だからだろ」
「……それだけ?」
レイヴンは、少し笑う。
「……それ以上言わせるな」
ノアの手が、止まる。
「……私のせいで……」
「違う」
レイヴンは、ノアの手首を掴む。
「……お前が死ぬ方が、嫌だった」
その声は、低くて、震えていた。
⸻
夜。
アイリスが眠ったあと。
ノアとレイヴンは、焚き火の前にいた。
「……ねえ」
「ん?」
「……私、誰かと一緒にいる資格ないよね」
レイヴンは、即答しなかった。
「……カイの代わりに、誰か好きになるとか……」
「……それ、裏切りだよね」
レイヴンは、拳を握りしめる。
「……違う」
「……でも私は、あの人のこと……」
「分かってる」
レイヴンは、静かに言う。
「……それでも、俺はお前が好きだ」
ノアの目が、見開かれる。
「……ごめん」
即答だった。
「……好きになれない……」
レイヴンは、少しだけ笑った。
「……知ってた」
「……でもさ」
ノアを見る。
「……それでも、そばにはいる」
ノアの目から、ぽろっと涙が落ちる。
「……なんで……そんな……」
レイヴンは、何も言わず、
ノアの頭に、そっと手を置いた。
「……泣いていい」
ノアは、声を殺して泣いた。
レイヴンの胸に、顔を埋めて。
⸻
夜明け。
ノアは、目を覚ます。
毛布が、かけられている。
レイヴンは、少し離れたところで、眠っていた。
ノアは、胸を押さえる。
「……私は、まだ前に進めない。
でも……この人のこと、失うのも、怖い。」
ノアは、小さく呟く。
「……レイヴン……」
その名前を呼ぶ声が、
ほんの少しだけ、震えていた。