バーナードは優雅にティーカップを持ち上げ、香りを楽しむようにひと口飲んでから、ゆっくりと話し始めた。
「シオンは、以前高級クラブで働く前から、サリーというメス猫と友達でした。
二匹は特に仲が良く、夜な夜なクラブに繰り出して遊び回っていたそうです。」
ポテトが顔を上げ、疑問を口にした。「二匹はなぜ高級クラブを辞めたんですか?」
バーナードはため息をつくと、ティーカップをテーブルに置いた。
「…3年前ある出来事で、彼女たちはクラブをやめざるを得なくなったのですよ。」
ワトリーは眉をひそめ、じっとバーナードの顔を見つめた。「出来事?」
バーナードは静かに頷き、続けた。
「ええ、シオンが交際していたオスが亡くなったんです。どうも、ドラッグの過剰摂取が原因だとか」
バーナードは再びティーカップに手を伸ばし、穏やかに紅茶を飲みながら話を続けた。
「その彼が亡くなったとき、どうやらサリーとシオンも現場にいたそうです。ですが、
彼女たちは彼を置いて逃げたとか。そして、その交際相手というのは、地元の不良グループのリーダーでしてね。
その事を機に、グループがサリーとシオンを追いかけるようになったのですよ。」
「その恨みでシオンを…」ポテトが、思わず呟くように口を開いた。
バーナードは眉一つ動かさず、冷ややかに視線をポテトに向けた。
「さあ、どうでしょうか。ですが、噂では店のオーナーがそのグループと話し合い、
もう彼女たちには近づかないよう手を打ったと聞いています。
ただ、その代わりにサリーとシオンは店を去らざるを得なくなったようです。」
ワトリーは鋭い目つきでバーナードに問いかけた。「その店のオーナーが…?」
「ヴィクター・クローリーという方です。」
その名を聞くなり、ワトリーは目を見開き、思わず声を上げた。「ヴィクター!」
「ヴィクター!」ポテトもつられて驚いたが、内心では頭を傾げた。(誰だっけ、ヴィクターって…?)
バーナードは静かに笑みを浮かべ、
「当時の出来事について詳しく知りたいのであれば、ヴィクターに直接聞くのが良いでしょう。」とだけ言った。
そして、冷ややかな視線でワトリーたちを見据える。
「とにかく、その羽の意味はシオンだけが知ることです。もし誰かがそれを知っているとすれば、
シオンと親しい関係にあった者でしょう。」
ワトリーは一瞬、思案顔になった。「羽のことを知ってるのは・・・サリーなのだ」
ポテトもそれに続き、低く唸るように言った。「あるいは、その亡くなった交際相手のグループかも
恨みがあったなら、シオンは逆恨みで殺されたという線も考えられますよ。」
静かな室内にドアが開く音が響き、カオリがメイドに伴われて戻ってきた。
カオリは特に変わった様子もなく、ワトリーは安堵の表情を浮かべた。
メイドがバーナードに耳打ちすると、彼は静かにうなずき、そしてゆっくりと口を開いた。
「さて、私が話せることはこれで全てです。」
ポテトが礼を述べ、ワトリーも「ありがとうなのだ」と礼儀正しく頭を下げる。
ワトリーたちが玄関を後にしようとしたその時、不意にバーナードがカオリを呼び止めた。
「カオリさん」と柔らかい口調で言いながら、バーナードは彼女にアタッシュケースを差し出した。
「またサーカス団に戻られたんですね、どうかこれを団長にお渡しください。」
カオリは無言でそれを受け取り、ワトリーとポテトに続いてバーナード家を後にした。
外に出ると、ポテトがワトリーに尋ねた。「ワトリー、これからどうする?」
ワトリーは一瞬の迷いもなく答えた。
「シオンの交際相手が属していたグループの居場所をヴィクターに聞きにいくのだ。」
「その不良グループがシオンを殺したのかな?」
ワトリーの表情は硬い。「だとしたら、サリーも危ないのだ。」
ポテトはジョセフに連絡を取ることにした。
「もしもし、先輩ですか?バーナード家でのことを報告します。」
ジョセフは電話口で声を低めて返した。
「…3年前の事件か。こっちでも調べてみよう。サリーの件はアレクに連絡しておく。」
ジョセフは電話口で力強く言った
「羽の件だが、イザベラが弁当の袋に入れたようだ
だがストーカーの件は知らないと言っていた」
ポテトの耳がピクッと動き、驚いた表情をしながら
「イザベラが!? じゃあ犯猫はイザベラなんですか?」
ジョセフはため息をつき
「いや、それは違う。犯行時、イザベラはメンバーのメイクをしていた。」
ポテトは肩を落としたものの、すぐに顔を上げた。
「そうだったんですか…。」
「でも、イザベラとシオンのこと、もう調べていたなんてさすが先輩です!」
ジョセフは自信ありげに鼻を鳴らす。
「まぁな。」
ジョセフは電話口で少し間を置き、言いにくそうに口を開いた。
「それと…ルーカスがいなくなった。」
受話器の向こうから驚いた声が返ってくる。
「え!?いなくなったって…どういうことですか?」
ジョセフはため息をつきながら答えた。
「探したけど、見つからないんだ。しかも身元も全部デタラメだった。
誰もルーカスなんて猫を知らない。」
「そんな…!」ポテトの声が少し焦っている。
「先輩、それ相当ヤバいですよ!下手したら犯猫どころか、
ほぼ間違いなく犯猫じゃないですか!」
ジョセフは苦い顔で受話器を握りしめた。
「わかってる。でもこっちでも引き続きルーカスを探す。
他に手がかりがあるかもしれないしな。お前はシオンと関係のある猫たちを洗ってくれ。」
「了解です、全力で調べます!」とポテトは力強く答える
ポテトは心中で(めずらしく仕事してる…)と少し驚いた。
ジョセフが尋ねる。「それで今、お前たちはどこにいるんだ?」
ポテトは少し緊張しながら答えた。「はい、以前シオンが働いていた高級クラブのオーナーのところです。
ヴィクター・クローリーという方ですね。」
電話口から一瞬の沈黙が流れた後、ジョセフの驚愕した声が響いた。
「な、何?!ヴィクターだと!」
「はい」
「ポテト、すぐにそこから離れるんだ!絶対に関わるな!」
ポテトは状況が飲み込めず、困惑したまま返答した。「は、はぁ…」
ジョセフの声は一層緊張を帯びていた。「あいつはギャングのボスだぞ!
表向きは経営者だが、奴の周りには常に危険がつきまとう。気をつけろ、近づかない方がいい」
ポテトははっとして目を見開く「そ、それが、もう目の前にいるんです」
視線を上げると、既に目の前にヴィクターが座っている。
ジョセフ「!!」
ポテト「先輩どうしましょう」
「ツーツー」
ポテト「切れた!?」
以前、ミミちゃん失踪事件の際、ヴィクターの情報提供と引き換えに、
フェリックスとワトリーは彼の依頼を受けることにした。
依頼の内容は、警察官ジョセフが関与する宝石の闇取引についての調査だった。
その後、ジョセフがどうなったのかは不明だが、ジョセフにとってヴィクターは決して
関わりたくない存在となってしまった。