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お結び様、またまたリクエストありがとです、!
中太、中也の嫉妬、ファイッ!
ヨコハマの夜は、湿った潮風と共に更けていく。 ポートマフィアの息がかかった会員制のバー。薄暗い照明の下、琥珀色の液体がグラスの中で揺れている。中原中也は、カウンターの端で一人、苦い煙草を燻らせていた。
視線の先には、任務の「餌」として潜入している太宰治がいる。 今日の太宰は、いつもの砂色のコートを脱ぎ捨て、上質なスリーピースのスーツを着こなしていた。死を纏うような退廃的な色気と、育ちの良さを感じさせる優雅な仕草。彼は今、標的である他組織の幹部に、とろけるような甘い微笑を振りまいていた。
「……チッ」
中也の指先が、グラスの縁を強く弾く。 それが任務であることは百も承知だ。太宰の狡猾な頭脳が、男の油断を誘い、懐に入り込み、組織の機密を暴こうとしている。中也の役割は、その「仕上げ」の瞬間に重力で全てを粉砕すること。それまでは、ただの「観客」でいなければならない。
だが、標的の男の手が、太宰の肩に馴れ馴れしく回された瞬間、中也の中の何かが音を立てて軋んだ。 男の下卑た視線が、太宰の首筋をなぞる。太宰はそれを拒むどころか、小首を傾げて男の耳元で何かを囁き、愉しげに笑った。
(……あのクソ鯖、……あんなツラ、俺にだって見せやしねぇくせに)
中也の周囲で、微かに赤黒い光が明滅する。 無意識に漏れ出た重力が、カウンターの木材にピキリと小さな亀裂を入れた。 彼は知っている。太宰のあの表情も、隙のある瞳も、すべては計算し尽くされた偽物だ。けれど、その偽物にさえ、自分以外の男が触れているという事実に、内臓を素手で掴み出されるような不快感がこみ上げてくる。
「……中也、顔が怖いよ。任務に支障が出るじゃないか」
不意に、無線機から太宰の低い、けれど艶のある声が届いた。 彼女……いや、彼は男に抱かれながら、死角で耳元の小型マイクに囁いているのだ。
「うるせぇ。……さっさと終わらせろ。その汚ねぇ手、へし折りたくて仕方がねぇんだよ」
「おやおや、それは重力使い様の『独占欲』かな? 可愛いねぇ。でも、もう少しだけ我慢しておくれ。この男、意外とガードが固くてね……ふふ、もっと近くで、私を欲しがらせないと」
太宰はわざとらしく声を弾ませ、男の腕にその細い指を這わせた。 中也の堪忍袋の緒が、限界まで引き絞られる。 嫉妬などという女々しい感情は、自分には似合わないと思っていた。けれど、太宰という劇薬は、中也の理性をいとも容易く焼き切り、ただの「欲に狂った獣」へと引き摺り下ろす。
やがて、標的の男が太宰を連れて席を立ち、奥の個室へと向かおうとした。 「さあ、美しい君。続きは二人きりで……」
男の手が太宰の腰を強引に引き寄せた、その瞬間。 バーの床が、凄まじい衝撃と共に陥没した。
「――そこまでだ、クソ野郎」
弾丸のような速さで踏み込んだ中也が、男の腕を掴み、そのまま壁へと叩きつける。 物理法則を無視した重圧が男を襲い、悲鳴を上げる暇もなくその意識を刈り取った。
「あーあ。もう少しで核心が聞けたのに。中也は本当に、堪え性がないんだから」
太宰は乱れたネクタイを整えながら、呆れたように溜息をついた。けれど、その瞳は微かに笑っている。中也がどれほど怒り、どれほど自分に執着しているかを、愉しんでいるのだ。
中也は返事もせず、太宰の胸倉を乱暴に掴むと、彼を壁際に押し込んだ。 「……おい、太宰。次、あんなツラ他の奴に見せやがったら……マジで、その包帯の下まで、俺の指の跡で埋め尽くしてやるからな」
至近距離で睨みつける中也の瞳は、嫉妬に焼かれた柘榴石(ガーネット)のように赤く光っていた。 太宰はその殺気に怯えるどころか、悦びに満ちた表情で中也の手首を掴み返す。
「……怖いねぇ。でも、いいよ。君の重力で潰されるなら、それはそれで本望だ」
「……黙れ。帰るぞ」
中也は太宰の腕を引いて、強引にバーの出口へと向かう。 夜のヨコハマ。硝煙の匂いと、行き場のない独占欲。 男同士の「相棒」という名の歪な関係は、この猛烈な嫉妬という燃料を得て、どこまでも深く、暗い夜へと加速していく。
「中也。……手が震えてるよ?」
「……うるせぇっつってんだろ、クソ鯖!!」
怒声と共に放たれた重力が、夜の路地裏を震わせた。
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コメント
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リクエスト書いてくださりありがとうございます! なんか、良すぎてもう最初だけでニヤケが止まりませんでした!