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「――な、何よこれっ!?」
イザベラの大声が響いた。
扉の先にあった筈の部屋は、ほぼ全壊に近い半壊……。
崩れた床に倒れている、皇帝ヴィルヘルムに――多分、預言者ヨーゼフであったであろう人型の焦げ跡。
謁見の間にやって来た、イザベラとサミュエル、ハインリヒは、その惨状に呆然と立ち尽くしていた。
――遡ること数分前。
突然、城を揺るがす轟音が響いた。
沙織とシュヴァリエを送り出した三人は、急いで外へ出る。そこで、空に現れた青龍を見たのだ。
咆哮と共に、身を捩って暴れる青龍。
そうかと思えば、フッと姿を消し……空は何事も無かったように静まり返った。
そして、壁が崩れて煙が上がっていた場所へ、慌ててやって来たのだ。
部屋の中に佇んでいた、沙織とシュヴァリエの姿を見つけると、イザベラは駆け寄ってくる。
「サオリ! 龍の顔の上に、その白いドレス見つけて焦ったわよっ!!」
「あはは……心配かけて、ごめんね」
「本当、無事で良かった!」
イザベラはギュッと沙織を抱きしめた。
「皇太子殿下、あの青龍は――」
ハインリヒは、青龍がシュヴァリエであるとわかってはいたが、確認のため状況を尋ねてくる。
「あの青龍は、私自身です。悪魔と契約したヨーゼフと、皇帝陛下によって、罠に嵌められました。ですが――もう二度と、あの力は暴走させません」
「ヨーゼフは、やはり悪魔と……」
塵一つ残らなかった染みのような焦げ跡が、全てを物語っている。問題は、未だ意識を失っている皇帝ヴィルヘルムをどうするかだった。
「皇帝は、ただ意識を失っているだけです。青龍に捕まった状態で、癒しはかけておきましたから」
チラッと、沙織は皇帝を見た。
(起きたら、絶対面倒な事になりそうだわ……)
そもそも、シュヴァリエがどうして青龍になってしまったのかを、沙織は闇に落とされて見ていなかった。
ただ――あのシュヴァリエの喪失感。ヨーゼフ達が、シュヴァリエに何かをした事だけは理解できた。
「それよりも、今はっ! 帝国軍が城外へ集められています!」
サミュエルが掴んできた情報によると――。
青龍が覚醒したら、皇帝の指揮で青龍と共に、ベネディクト国へ攻め入る準備が進められいたそうだ。
(なんで……青龍を、意のままに操れると思ったのだろう?)
皇帝が目覚めたら、確かめなければならない。
「ねえ、シュヴァリエ。また、青龍になれる?」
「はい、行きましょう」
言いたい事がわかったシュヴァリエは……もう一度、青龍の姿になる。
沙織を背に乗せると、天井の無くなった謁見の間から、空へと飛び出した。
「わぁお!! カッコ良いわっ!」と、イザベラは興奮する。
「最初の預言は、本当だったのだな……」
「そうですね。龍王と光の乙女は――救いの神かもしれません」
ハインリヒとサミュエルは、神託の真意を理解した。
◇◇◇
「「「ワーーーーッ!!!」」」
城の外に集まった何万もの兵士達は、空に現れた青龍に歓喜の雄叫びを上げていた。
帝国軍の頭上を旋回した青龍は、突如動きを止める。
そして、金色の瞳は帝国軍を睨み、大きな咆哮を上げた。
『――グオォォ―――ッ!!!』
ビリビリと空気が震え、一瞬で静寂が広がった。
兵士達の視線は、青龍に釘付けになる。
その青龍の額の上には、白いドレスを靡かせた黒髪の女が立っていた。
『皆の者、お聞きなさい。わたくしは、光の乙女。
悪しき存在は、この龍王が倒しました。
このグリュンデル帝国は、平和を手に入れたのです。
グリュンデルの民よ、武器を置きなさい!
我々と共に、平和の道へ進みましょう!!
皆に祝福の光を!』
空からキラキラとした光が降り注ぐ。
「「「ワァァァーーーっ!!」」」
と、またしても歓声が上がる。
そして、青龍と光の乙女は空を舞い見えなくなった。
「……こんな感じで良かったかしら?」
青龍の額の上に乗ったまま、沙織はシュヴァリエに話しかけた。
『はい、素晴らしかったと……。どうやって、声を響かせたのですか? それと、あの光は?』
「ああ、声は拡声器イメージして、空気を振動させたの。あの光は、ただの広範囲の癒しを大量に撒いただけよ」
『…………なるほど』
シュヴァリエは、沙織の底無しの魔力量に……疑問を持つこと自体が無駄なのだと理解した。
◇◇◇
謁見の間に戻ると――。
沙織は青龍から飛び降りた。シュヴァリエも元の姿に戻りながら着地する。
ハインリヒの隣には、意識が戻った皇帝ヴィルヘルムが立っていた。
ヴィルヘルムは、青龍から人の姿になったシュヴァリエと、空から舞い降りた光の乙女に、神々しいものを感じたのか……跪き頭を垂れた。
「光の乙女、龍王様、私は大変な過ちを犯しました。どうか、私めに罰をお与え下さい」
突然、謝罪するヴィルヘルムに、沙織とシュヴァリエは戸惑った。思わず、ハインリヒを見る。
「皇帝陛下には、全てをお話し致しました。どうやら、ヨーゼフの黒魔術により、操られていた様です。ヨーゼフは、光の乙女の遺体を餌に、青龍にベネディクト国を襲わせる計画をしていたそうです」
(何その……杜撰で悪趣味な計画。あの悪魔も、ヨーゼフも……やっぱり馬鹿だったのね)
ハインリヒの言葉に、ヴィルヘルムは首を横に振る。
「確かに……。ヨーゼフを、預言者と認めてからの記憶はとても曖昧です。ですが、エリザベスを生き返らせたいが為に……愚行を重ねて来ました。それは、赦されざる罪です」
シュヴァリエは、黙ってヴィルヘルムに近付くと、膝をついて話しかけた。
「――父上。もし、罰をと仰るのでしたら、私の願いを叶えてはいただけないでしょうか」
それから、シュヴァリエは自分の考えを語った。