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3
日曜日の朝。
学生寮の鏡の前で、ひなは何度も全身を見つめていた。
白い姫カットの髪。
淡い色のワンピース。
そして、足元にはお気に入りの厚底シューズ。
身長147センチの小さな体を、
ほんの少しだけ大きく見せてくれる大切な靴。
「……よしっ」
今日はDクラスのみんなで、けやきモールへ遊びに行く約束の日。
少し緊張しながらも、
ひなの胸は期待でいっぱいだった。
集合場所には、
桔梗ちゃん、平田くん、須藤くん、池くん、山内くん
そして少し遅れて 綾小路くんの姿もあった。
「ひなちゃん、その靴すっごく可愛い!」
桔梗ちゃんが目を輝かせる。
「えへへ……ちょっとだけ背が高く見えるかなって」
「十分可愛いよ!」
その言葉に、ひなの頬がほんのり赤くなる。
ボウリング場では、
須藤くんが大声で盛り上げ、
池くんと山内くんはひなの隣を巡って小競り合いを始めた。
「天白ちゃん、俺が投げ方教えるよ!」
「いやいや、俺の方が優しく教えられるって!」
突然の勢いに、ひなは少し戸惑う。
そんな様子を見ていた平田くんが穏やかに笑った。
「二人とも、甘白さんを困らせちゃだめだよ」
その言葉に、ひなはほっと胸をなで下ろす。
男性に苦手意識のある自分でも、
平田くんのような柔らかな人となら安心して話せる。
ゲームの合間、
ひながドリンクを買いに一人で席を離れると、
後ろから見知らぬ大学生風の男性に声をかけられた。
「君、すごく可愛いね。モデルとかやってるの?」
突然の言葉に、胸がぎゅっと縮こまる。
視線が集まる。
呼吸が浅くなる。
中学時代の記憶が、一瞬よみがえった。
「……あの、私……」
言葉が出てこない。
そのとき。
「その子に何か用か」
静かな声が、間に割って入った。
振り向くと、
綾小路くんがひなの隣に立っていた。
表情は変わらない。
だが、その視線には有無を言わせない冷たさが宿っている。
男性は気まずそうに笑い、
「ごめんごめん」と言って去っていった。
「大丈夫か」
綾小路くんの声は、すぐにいつもの穏やかさへ戻っていた。
ひなは小さく頷く。
「……うん。でも、ちょっとびっくりしちゃって」
「無理をしなくていい」
彼はそう言って、
さりげなくひなの手からドリンクを受け取った。
「みんなのところへ戻ろう」
その自然な気遣いに、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
帰り道。
桔梗ちゃんたちが少し先を歩き、
ひなと綾小路くんは自然と二人きりになった。
「その靴、似合っている」
不意にそう言われ、ひなは目を丸くする。
「ほんと?」
「ああ。背伸びしようとするところも、お前らしい」
少し照れながら笑うと、
綾小路くんはひなの歩幅に合わせて静かに歩いてくれる。
「お前はそのままで十分だ」
その一言が、
厚底よりもずっと大きな自信をくれた。
休日の賑やかな笑い声。
クラスメイトとの温かな時間。
そして、隣でそっと支えてくれる人。
少しだけ背伸びした一日は、
ひなの心に優しい勇気を残してくれた。
コメント
1件
わあ、第28話読み終わりました…!今回はひなちゃんの「背伸び」の気持ちがすごく丁寧に描かれていて、冒頭の厚底シューズへの思い入れにすぐ惹き込まれました。ボウリング場でのナンパシーン、綾小路くんが静かに間に入ってくれるところは本当に胸が熱くなりましたね。「お前はそのままで十分だ」という言葉が、あの厚底よりもずっと大きな支えになるって感覚、すごくわかります。日常の優しさがじんわり沁みる、素敵なエピソードでした!