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ひどい二日酔いで顔色は最悪、さらに瞼を腫らして出勤したものだから山本くんはぎょっとした様子だった。けれど、一番声をかけてほしい人は何も言ってくれない。気づいてほしい察してほしいと思うことがもうバカ女じみているから、僕も無言でデスクについた。
以前「下品だからやめるナリ」と言われてから、めっきり行かなくなったゲイバーやクラブに昨夜、久しぶりに顔を出した。誰でもいいからそばにいてくれという気持ちが僕にそうさせた。その場にいれば誰かが声をかけてくれるのを、自分の見た目がいいのを、僕にあこがれている人間が一人や二人じゃないのを、ちゃんと知っている。しかし寂しさは見知らぬ他人に肩を抱かれた瞬間、強烈な嫌悪感へと変わり、走って逃げ出してしまった。寂しさに身を任せることは、自分に対する裏切りである。だが僕にあの人のことは裏切る権利すらない。だって、愛されていないのだから。
昨日の出来事を思い出すと吐き気がする。
「好きです」
執務室にいたからさんに僕は言った。
「いきなりそんな、困るナリ……なんで当職ナリか」
「わかりません、でも、好きなんです」
「落ち着いて考え直すナリよ」
「これ以上何を考え直せっていうんです。僕は今まであなたのことについて何回も何回も考えてきました、それこそ一日中、あなたの想像が及ばないほどに!」
大きく息を吐くと、からさんが僕に怯えているのが分かった。そんな目で、僕を見ないでくれ。次に会ったときこそ、次に会ったときこそ、と思い続けてきた僕の言葉は殆ど吐瀉物と変わらず、いたずらに思い人を困らせただけだ。
「すみません、大声を出したりして……でも好きなんです」
「すごく嬉しいナリが、当職は山岡くんにそういう気持ちはないナリ……それにその話はここでしたくないナリ。その、隣の部屋に山本くんもいるナリよ。聞こえるナリ」
あいつに聞かれたからなんだっていうんだ! さらに声を荒げたくなったが、からさんを怖がらせるのは本意ではない。僕は項垂れ「ごめんなさい」と「好きです」を繰り返し、部屋を後にした。ラウンジでコーヒーを飲むため外に出たが、ぎらついた廊下の長さが僕の絶望を増長させた。苛立ったまま一日を過ごし、夕方、裏の公園で一足先に退勤していた山本くんを見た。ビールを片手に、ベンチに座っている。
「何してるの?」
「夕日を見てます」
「なんで?」
「悲しいときって日が沈むのを見たくなるものだから」
「キャラじゃないね。なんの受け売り」
「僕のことはほっといてください」
彼の言うとおり放っておくことにして、僕は夜の街でめちゃくちゃに酔いつぶれた。愛されても愛さない僕のたったひとり愛した人が、僕の思い通りにならないのは、苦しい。