ごきげんよう、シャーリィです。あれから二年の月日が流れました。十二歳です。中等部クラスです。多少は背も伸びましたよ。お胸は平原ですが。ふぁっく。
シェルドハーフェンは相変わらず物騒ですが、幸い私の周りは平穏なものでした。
さて、資金調達のために始めた農業ですが予想以上の利益を叩き出しています。卸しているターラン商会のマーサさん曰く、帝都貴族からの評判が良く高値で取引されているとか。約束通りマーサさんは売り上げの半分を私に回してくれました。商売は全て丸投げなので、半分でも多いくらいです。お陰で十二歳にしてお金持ちです。ぐれいと。
が、商売が拡大していくと当然数を揃えなければいけません。ルミは毎日来てくれるわけではありませんし、私一人では不可能。ならば、けちをするつもりはありません。人を雇うのみです。
私はマーサさんの商会経由で、農業経験者を雇い入れました。私にはまだ伝もないし、信用できるか分かりませんから。もちろんマーサさんもこの農園の秘密は知っていますから、信用できる人材を派遣してくれました。シスター曰く、このシェルドハーフェンでは信用できる=弱味を握っているという図式が成り立ちます。
聞けば、皆さんターラン商会に借金があり、私の農園で働けばチャラにするって条件みたいです。正確には、本来払うべき給与を返済に回すとか。私は実質的に出費ゼロです。
流石にそれでは酷なので、衣食住はこちらで用意することになりました。もちろん休日や労働時間もしっかりと定めます。働きにはしっかりと報いなければ、天国に居るお父様を悲しませてしまいますからね。
マーサさん経由で材木ギルドから木材を購入、教会と贔屓にしている大工ギルドに依頼して農園の近くに二階建ての簡易宿泊施設を建てました。衣服に関しては、寄付されたものが有り余っていたのでそれを使います。食事は形が悪いなどで売れなかった野菜類を中心に提供。もちろんお肉も出しますよ。毎月の売り上げが金貨十数枚レベルなので、そこまで気になる出費にはなりません。
寝泊まりするところがあって食事も美味しく、過酷な労働を強いられず借金もチャラになる。こんな好条件を蹴れる人はそう居ないでしょう。信賞必罰は組織運営の要。私を裏切った場合、つまり脱走や農産物を横領した場合借金は十倍、しかも債権をターラン商会からマフィアへ売り渡すオマケ付き。うん、よっぽど頭の中が幸せな人以外は裏切れないはず。
まあ、二年間で二人出ましたけどね。その後は知りません。興味はありますが、怖いので。東方では知らぬが仏と言うみたいです。
この二年間で一番大きな変化は、孤児院のユリウス院長が亡くなったことでしょうか。心臓の病だったとか。哀しむルミを見ていると、胸が張り裂けそうになりました。うん、感情があって良かった。悲しみを分かち合える友の存在に不謹慎ではありますが有り難みを感じたものです。
さて、そんな春の日。私はいつものようにシェルドハーフェンへ向かって街道を歩いています。最近は一人での外出を許可されたんです。二年間粘り強く訴え続けた成果です。シスターが根負けしたとも言いますが、結果良ければすべてよし。ぶい。
そんな道中、街路樹に寄り掛かって座っている男性を見つけたのです。
燃えるような赤い髪を肩口まで伸ばし、精巧な顔付きはイケメンと呼ばれる類いのもの。ただ、右目に大きな傷跡がありますが。わいるど。
服装は、真っ黒なロングコートに真っ黒なシャツ、真っ黒な長ズボンに真っ黒なグローブ、真っ黒なブーツと黒一色です。暑くないのかな。そして気になるのは、脚から流れる真っ赤な血でした。怪我をしているみたいです。それも、決して軽くはない。
「お嬢ちゃん、どうした?別に怪我人くらい珍しくもないだろう?気にするな」
観察していると、男性が声をかけてきました。私を怖がらせないよう、優しい声で。
「これでも教会に身を置いていますからね、怪我をしている人を放っては置けません」
「優しい小さなシスターさんだ。けど、放っておきな。面倒に巻き込まれちまうぞ?」
優しい人です。私の事を気遣って遠ざけようとしています。それで引き下がる私ではありません。どうにも興味を持ってしまったみたいですから。
「シスター曰く、私は面倒事を呼び寄せるらしいので。遠慮なく関わらせて貰いますね」
今日は教会の薬草園で採れた薬草をターラン商会へ売り込むためにシェルドハーフェンへ向かっていました。つまり、幸いというべきか手元には薬草がたくさんあります。シスターに怒られるでしょうが、興味深いこの人を助けられるなら安いものです。私は手当てをするべく、脚に触れます。ズボンに斬れた跡がありますから、斬られたのかな?
「あっ、おいっっ!」
先ずはナイフでズボンを破いて傷口を確認します。相変わらず良く斬れる。右足を見てみると全体的に大きな切り傷がありました。深いです。血がたくさん出ています。医学書によると。血がたくさん出たら人は死ぬみたいなので、危なかったのかもしれません。
「それは君のっ!ぐっ!」
素早く鎮痛効果のある薬草と止血剤代わりになる薬草を煎じて塗り込み、持っていた包帯で傷口を覆います。手慣れてる?普段からシスターの訓練で怪我が絶えませんから自然と応急処置は手慣れていきました。
「これでよし。気分はどうですか?」
「塗り込まれた時は死ぬ程痛かったけど、今は少し楽になったかな。助かったよ、ありがとう小さなシスターさん」
「応急措置をしただけですから、無理は禁物。荷車を呼びますので、もし良ければ教会まで運びますよ」
「そこまで世話になるわけにはいかないよ。それに、御返しできるものがない。」
「これは私の好奇心を満たすための行動なので、見返りは求めません。むしろ、最後までお世話させていただきます。このままでは歩くのも辛いのでは?」
「……分かった、お世話になるよ。何が御返しできるか考えないとな。ベルモンドだ。君は?小さなシスターさん」
「シャーリィと申します。よろしくお願いします、ベルモンドさん」
私はまた拾い物をしました。今度は人間ですが、悔いはありません。荷車を農園の方に運んでいただき、ベルモンドさんを乗せて教会へと戻るのでした。
もちろん売り物を台無しにした罰として、シスターに拳骨されたのは言うまでもありません。ちょっと優しかったです。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!