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「ええ、勿論ですわ。竜殺しをさせようというのですもの。褒章を与えないのは沽券に関わりますわ」
「……そうかい。そりゃ安心だ」
正直、安心できる要素など「払いは悪くなさそうだ」という一点くらいしかない。
それ以外は厄ネタの詰め合わせだとすらオウカは思っている。
嗚呼、ハッキリ言ってしまえば正気じゃない。
何が「ドラゴンはアスガルが倒しますもの」だ、とオウカは思う。
ドラゴンは理外のバケモノだ。騎士団をブレスのひと吹きで全滅させたのはたとえ話でもなんでもない。
人間を鉄の防具ごと蒸発させ、大地を煮え滾らせる奴なのだ。
王族案件でなければ、とっくにこの魔石列車から飛び出して遠くの国まで逃げている。
そんな相手をどうにか出来る自信が多少なりともあるということは、その答えは1つしかない。
(……オーラユーザーか。確かにそれならドラゴンにも通用するかもしれねえが)
武具や自分に不可思議な力を纏わせる人類側のバケモノ。
オウカも見たのは1度だけだが、1人いるだけで戦いの結末が引っくり返るとすら言われる連中だ。
チラリとアスガルを見れば、オウカを睨み返してくる。どうにも好かれてはいないようだ。
「それで返事は? この話、受けてくださるのよね?」
「ああ。つーか、欲しい報酬は決まってるんだが」
「あら? 聞きますわよ」
「カタナだ。現物かもしくは入手に繋がる確実な情報が欲しい」
「ふうん? よろしくてよ」
下手な情報屋より確率は高いかもしれないし……そうではないかもしれない。
王宮というのは権力関連では万能に近いが、カタナのようなただの武具にまで詳しいわけではないからだ。勿論、権力でどうにか出来る範囲ならどうにでもなる。オウカの期待はその辺にある。
「そちらの貴方は?」
「え、あ、お金がいいです!」
あまりにも分かりやすいアンナの希望を聞いてイリーナ姫が爆笑していたが……アスガルが咳払いをすると、今までのは冗談だったとでもいうかのように元の表情に戻って。
「ではこれで契約成立ですわね。短い間ですがよろしくお願いしますわ?」
イリーナ姫が指を鳴らすと、やってきた鉄道職員が襲撃者たちの死体を列車の外へと放り投げ、掃除をして去っていくが……なるほど、必要最低限以上の備えはしていたらしいとオウカは肝が冷えてしまう。
先程の襲撃も、わざと「実行を見逃した」可能性すらある……あそこで手を貸さなかった場合、どうなったか、あまり考えたくはない。
ともかく、そんなイリーナ姫たちと共に乗った魔石列車は迷宮都市テンランスの手前にある街、イグネットへと辿り着いていた。
列車から降りるなり何処かへと走っていく鉄道職員は、後ろの車両の状況でも伝えに行くのだろうか……1人たりとて降りてこない他の車両を見てアンナが首を傾げていたが、当然理由がある。
契約を結んだあと「目撃者を消し」ていた魔石列車強盗たちをアスガルが綺麗に片付けたからだ。
たぶん、凶悪犯の犯行にイリーナ姫も巻き込まれて……みたいな筋書きが書かれていたのだろうとは思うけども。
(ああ、嫌だ嫌だ。権力関連ってのはこんな話ばっかりだ)
アンナとしてもそう思うが、イリーナ姫は気にした様子もない。
アスガルと何かを話していたかと思うと、そのまま笑顔でオウカたちへと振り返る。
「此処で一休みしてもいいんですけど……こういうのは早ければ早いほどいいですもの。馬車を雇って先に進みましょうか!」
「へーい」
「はい、分かりました!」
ここで反対意見など出す意味も理由もないので、オウカもアンナもそう答えて。
しかし、アンナはこっそりとオウカに耳打ちしてくる。
「なんかさー……たぶん襲撃あるよね?」
「おー、あるだろうな。それをどうにかするのはアタシたちの仕事だぞ?」
「え? そうなの?」
「何聞いてたんだお前は。露払いが仕事だろうがよ」
「……そうだけど。暗殺者って露かなあ」
「こんな稼業してりゃ人間、いつかは武器か牙の露と消えるわな」
「そんな話じゃないんだけどぉ……」
まあ、アンナの予感は正しい。
だって、襲撃がないはずがないのだ。
イグネットで雇った馬車が走り出して半日もたたないうちに、追いかけてくる騎馬集団が現れたのだから。
「あー、やっぱり出た……」
「お前は姫を守っとけ。ああいうのはアタシの仕事だ」
アスガルがいればたとえ御者が裏切ろうと、どうとでもなるだろうけども。
停止する馬車から降りると、オウカはシミターに手をかけ首をこきりと鳴らす。
騎馬の数は5、6……両手の指の数は軽く超えるだろうか。
「ああ、なるほどな。テンランスじゃあ、こういうのが出ねえといいんだが」
妙に装備の良い連中を見ながら、オウカは本当に面倒そうな表情でシミターを引き抜いていた。
「止まれやボケ共。アタシはその高そうな馬斬るのも躊躇わねえぞ」
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