もう、ごめんなさい。俺はそれしか言えない。
「ぇ」
困惑してる表情。戸惑っている。
「俺、正常に話せそうにないんで、冷静になるついでに三人に電話してきます」
俺はそう言って、無理やりその部屋を出た。今の俺にはあの人に合わせる顔がないから。
「プルルルル」
俺は電話をする。あの人が出会わなければよかったと言っていたあの人たちに。電話したらすぐにこちらに来るみたいだ。俺は扉によしかかって目を瞑った。俺に、あんなことを言う権利なんてないのに。
『セラ夫』
俺が尊敬する先輩が、あの人の名前を呼ぶ。その声にあの人は笑顔で反応していく。そんなただの日常で当たり障りもない会話が俺はただただ好きだった。先輩と言っても俺が勝手に呼んでるだけなんだけど、先輩は口癖でこういう。
『私たちがこうやって生きてられるのは奇跡なんですよ』
生と死が紙一重の世界で生き残ってきたあの人たち。もちろん、俺も例外ではなかった。けれど、両親は俺に愛情を与えてくれて、しっかりと教育を受けさせてもらった。だから、俺はそこまでだった。人を殺さないと生きていけない。そんな生活を送っているわけではなかった。
季節が巡り、あの人の笑顔も多種多様に変化していって、生徒会のメンバーとも笑い合って。あぁこれが幸せなんだと心の底からそう思えた。春は爽やかで、夏は眩しく、秋は緩やかに、冬は顔を染めて。笑うあの人の姿が俺は好きだった。幸せになれてよかった、と。冷たい人生を送っていた、あの人が、笑っていられるならいいんだ、と。この世の全てが明るく見えた日々。
この日々が続きますように。ただ、そう願っていた。でも、そんな願い簡単に叶うはずもなく。子供ながら、暗殺業や戦闘業を営んでいた俺らだったとしても、俺らは確かに、子供で未熟だった。大人の世界に縛られているあの人を、子供が助け出す。そんなおとぎ話みたいなストーリー。俺らは確かに実現しようとした。けれど、無理だった。
卒業式に、間に合わなかった。
卒業式を迎えれば、あの人は本当に大人になってしまう。大人として、大人の世界で一生を暮らしてしまう。それだけは嫌だったのに。できなかった。あと、あと一歩だったのに!!間に合わなかった。俺らは、あの人に合わせる顔がない。でも、謝罪だけしたい。
『ごめんなさい、助けられなくてごめんなさい。俺らだけ幸せになってごめんなさい』
それだけ言いたかった。その謝罪だけをして、大人になった俺らが、あの人を救って、終わりにしたかった。一人ただ、苦しんでいるあの人と一緒に幸せに。なんて思えないしなりたくない。あの人は優しいから、一緒にいたいって言いそうだけど。あの頃のあの人なら。でも、俺は無理だ。
「うっ、うぁ、、」
涙をポロポロと落とす。涙は頬をつたり、俺の掌へと落ちる。何か滴る感触が嫌いだ。あの卒業式の日を思い出してしまうから。桜が散って、綺麗だと思うと同時に、後ろにはあの人がいて。
『みんn__』
みんな、待ってよ。そう言いたかったのか、みんなと言いかけた瞬間俺らは校門の先へと走っていってしまった。あの人から逃げるように。最低だろう。人として最低じゃないか。それでも、そうすることしか俺らの頭にはなかった。大人になって、あの人を救い出そう。そんな漫画の物語を作り上げていた。でも、大人になったあの人に近づくことは、できなかった。2年間、俺らはずっと陰で大人の束縛を少し緩めることしかできなかった。全ての力を尽くしても、何もできない俺らはまた、絶望する。
(大人になっても、俺らはあの人を救うことができないのか)
ただ、無力な俺らを呪うことしかできなくって。ただ、俺らの無力さを叫ぶことしかできなくて。ただただ、俺らがまだ子供だと思い知らされるしかできなくて。そんな俺らが俺らは嫌いだ。
それでも、あの言葉だけは許せなかった。あの人の笑顔は今でも俺の夢に出る。あの人の笑顔は、先輩たちに出会ったから生まれたものなんでしょう、、?あの人の期待を裏切った俺が言えることじゃない。でも、あの言葉だけはダメっすよ。ダメっすよっ!!
NEXT 12月13日
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