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体育倉庫から出たあと、俺と涼ちゃんと若井の
三人は揃って保健室に顔を出した。
俺の泣きはらした顔を見て先生に心配されたけど、
若井が「こいつ、ちょっと転んでさ。オーバーに泣いてただけです」
って軽口で誤魔化してくれた。
ほんとは違うのに。
でもそのおかげで、少し呼吸が楽になった。
ただそのあと、先生に呼ばれた若井が
「職員室行ってくる」って立ち去ってしまった。
教室に残ったのは俺と涼ちゃんだけ。
空気が、急に重たくなる。
「……」
俺は机に突っ伏して、誤魔化すように寝たフリをした。
だけど、涼ちゃんは俺のそばに腰かけてきて、小さく笑った。
「元貴、泣き顔も悪くないよ」
「はぁ!? なんだよそれ」
勢いで顔を上げると、涼ちゃんは目を細めて、
まるでからかうように俺を見ていた。
でもその目は本気の優しさを含んでいて、俺の胸は変にざわつく。
「……俺さ、ずっと思ってたんだ」
涼ちゃんはふいに真面目な顔になった。
俺は息を呑む。
「僕、本当は……若井よりも、
君に惹かれてたんだ」
時間が止まったみたいだった。
頭の中で言葉がこだまする。
惹かれてた? 俺に? 涼ちゃんが?
「……っ」
言葉が出ない俺に、涼ちゃんは困ったように笑う。
「安心して。無理に答えなくていいんだ。
僕はね、元貴がどっちを選んでも、
ちゃんと笑っていたいだけだから」
大人みたいな言葉。
でもその裏に隠れてる切なさは、俺にも伝わった。
優しいだけじゃなくて、本当に俺を想ってるから出る言葉だ。
胸の奥がドクドクとうるさく鳴りはじめる。
若井のことが好きだと思ってたはずなのに
……涼ちゃんの言葉が、やけに心を揺らす。
「藤澤さ……いや、涼ちゃん……」
そういえば無意識に呼び方まで変わっていた。
涼ちゃんは少し目を見開き、ふっと笑って俺の頭を撫でる。
「やっと気づいた?」
その瞬間、ドアの向こうから若井の足音が聞こえてきた。
慌てて距離を取る俺と涼ちゃん。
だけど胸の鼓動はまだ速いままだった。