テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
梓から電話か掛かってきた時は、正直ものすごく驚いた。
急いで梓の家へ行くと、そこは大パニックの中だった。
「吉良くんと付き合う事になっ、なったの」
梓は焦点の合わない目でそう言った。
そこから、詳細を聞いた。そのことに、うーん……チャラいな……という印象。だけど、遊びで梓に手を出すほど苦労していないだろう。梓は遊ぶ相手ではない。
――吉良くんのデートの前に、何度か梓に頼まれ待ち合わせギリギリまで付き添った。吉良くんが来る少し前に、私はその場を離れる。
梓に気づいた吉良くんが微笑む。数秒、優しい顔で梓を見つめた後に、梓に近づく。
梓が違う所を見ている時も、心ここにあらずと俯いている時も、彼は優しく梓を見ていた。
大丈夫。あれは、恋してる目だよ梓。
ホッとしたのと、良かったなぁと心底思う気持ち。少しの、寂しさ。それに……、ほんの少しの虚しさが加わる。
でも、この淡い虚しさは胸にしまっておく。私は、梓の友達だから。梓が好きだから。梓が幸せなら、それで良かった。
――結局、梓と吉良くんは直ぐにだめになった。梓が吉良くんを信じ切れず不安に負けたから。
焦がれて焦がれて思いつめた梓は自分で恋をだめにしてしまった。精神的におかしくなるくらい落ち込んでまるで人がかわってしまった様だった。不安定な梓にずっと寄り添ったけど、大学卒業まで梓が元気になることはなかった。
そして、私を含む大学の友達を見ると吉良くんを想い出すからと少しづつ梓とは疎遠になっていった。それでも私は心配で、時々連絡をすると梓から返事はあった。
――大学を卒業して、就職した会社。
単純な私は、また“社会人”という響きに、やられていた。
スーツ姿は何割増しにか格好良く見えたし、右も左も分からない学生上がりの新卒にとって物すごく大人に見えた。デートでお食事だってスマートに奢ってくれたし、休日のスーツとは違う私服姿に……ときめいた。
「好きだよ」
そう言った彼に疑うことなく、ハマっていった。元々、押しに弱い性格も災いしたのだろう。文句より先に涙が出てくる情けない性格も。
──結婚するらしい。そう聞いた。同姓同名の人が、社内にいるのかと思った。それくらい疑っていなかった。同姓同名の人は……いなかった。
ひょっとして、私……プロポーズされてたのかな?誰かが貰ったその知らない女性の名前と彼の名前が書かれた結婚式の招待状を見るまでそう思う程にバカだった。そこからは、どん底。悲惨だった。“大人”そう思ってた人は、人格が変わったかのように私にしてきた。
「彼女とは別れる」
いつか聞いたようなセリフ。招待状を出しておいて、何を言っているのか。
「恋愛と結婚は違う」
「彼女に恋愛感情はない」
「愛しているのは、湊だけ」
昼ドラの世界に入ったのかと思った。
最後に
「結婚しても、関係を続けたい」
そう言った。それが本音だろう。そして、本当は彼女が本命なのだろう。
会社も変な辞め方になったけど、そうするしかなかった。逃げるように辞めた。新入社員が嫌になって辞めただけだと思われているだろう。
引っ越しもした。路線も別の会社に就職した。そこでも、既婚者とか、彼女持ちとかばかりに気を寄せられた。
きっと、私が2番目顔なのかそんな風に見えるのか。
前もって『俺、彼女いるけどいいよね?』なんて、前置きする男もいた。
“好き”
“付き合って”
“愛してる”
“いつか結婚しよう”
“君だけ”
男性はこんな言葉を簡単に言えるのだ。下心。……それを為すための手段として。
私の何が悪いのか分からない。簡単な女だからだろうか。断れないことを悟られるのだろうか。そんな男ばかりをきっと私が引き寄せている。
結局、私が悪いのだ。
そして、その次の会社もそんな原因で辞めた。押しに弱い、断れない性格。でも、傷つく人がいる限り受け入れるわけにはいかない。
結局、逃げるしかなかった。
その男はともかく、そんな男にもお相手はいたわけで……何も知らない彼女に辛い思いをさせたかもしれない。そう思うと、いたたまれなかった。
誰かを傷つけない恋は私には出来ないんだろうか。誰に会っても疑心暗鬼になってしまう。その度に落ち込んだ。
私が、もっと……相手をしっかり見ていれば。そう、思った。
次は……まあ、次があるなら……しっかり相手を見ようと思う。そうすればきっと誰も傷つけずに済むはずだから。
コメント
1件
うわあ……胸がぎゅっとなる話でしたね。梓のために自分の気持ちを押し込めて「良かった」と思おうとする主人公の視点が、もう辛くて。それなのに後々引き寄せてしまう“既婚者とか彼女持ち”の連鎖が、読んでて本当に切なかったです。 「私の何が悪いのか分からない」「結局、私が悪いのだ」っていう自己否定の言葉がぐさりと刺さりました。押しに弱くて断れないから逃げるしかなかった……って描写、すごく生々しくて、でも決して主人公を責める気にはなれませんでした。 次こそしっかり相手を見ようと決意するところで終わったのが、淡い希望みたいで良かったです。続き、読ませてください。