「今から、歌ってもいい?」
─あの子の歌は、
眠れなかった夜を切り裂いて、手を差し伸べてくれた。
勇敢で、優しいその姿はまるで─
─怪獣みたい。…そう思ったんだ。
その出来事から、だいたい2ヶ月前くらいの、
俺と”弟”の話。
『─まだ未成年なのに会社を設立するとは。なんか特殊な教育法とかあったんですか?』
『特に何もやってませんよ。でも、行動を実行するのって、多少リスクがあっても大事だと思うんです。私がビジネスを始めようと決めたときは─』
「…こんなん聞いても、俺のメンタルズタボロにされるだけだな」
別に、俺が変に嫉妬を拗らせてるわけじゃない。ま、そうかもしれないんだけど。だって、スタートが違う奴らの話聞いてたって、同じ土俵に立てるとは思えないじゃない。
俺はただ、現実を見てるだけ。地に足つけて、努力重ねて。自分の立ち位置弁えて生きてるだけ。だから、変に前向きに生きようと足掻いても仕方ないの。
友達のアドバイスとかも、聞いてるだけ無駄だと思ってる。だって自己流で何とかなるもの。必死で努力してる俺の心情なんて、きっと誰にも分からないの。みんな馬鹿だから。モブなんだから。
─とか言ってるけど、クラスで猫被って良い奴ぶってる俺が一番の馬鹿で、いちばんの脇役になりかねないクズなんだってのは分かりきってる。
でも、こうでもしないとすぐに泣いてしまう。すぐに使えない足手纏いになるから、止められないんだ。
「…あー怖い怖い…w」
自分の心ん中こわーい。こういうぐちゃぐちゃの被害妄想は、そう思うことにしてる。どーせ中学一年生がこんなこと思ったって、「痛い」の2文字で片付けられるだけだもんね。
そんなこんなで話変わるけど、気分転換にアルバムを見ることにした。
小さい頃のアルバムを手に取り、写真を1枚ずつ見てはめくる。この動作が、俺は結構好きだ。
「あ」
(…この子、誰だっけ…)
─綺麗な白い髪の、四白眼の子。そばかすをのせた鼻先はつんと立っていて、幼いながら顔立ちが綺麗だ。嬉しそうにマイクを握り歌う姿が、フィルムに収まっている。
「……おかあさーん」
「どしたの?アルバムなんて見て……」
「この子、誰?」
指さした先を見て、お母さんは気まずい表情を浮かべた。でもすぐにいつもの顔に戻り、柔らかい口調で話し始める。
「この子ねぇ…ヒビキくんって言う子なのよね、確か」
「ヒビキ?」
「可愛い顔よね。…最近顔見てないけど」
「親戚なの?…もしかして藤鳴さん家?」
「うん…」
そういえば、長いこと顔を見てない親戚がいる。─それが藤鳴さん家。
真面目に10年は顔見てない。今どうなってるんだろう…
「…なんかちょっと、心配…かも」
「……そうなのね」
困った様子で笑みを浮かべるお母さん。なんだろ、なんか隠し事してる?みたいな、そんな感じの顔だった。
「…寝らんないし、結局ベランダに入り浸ってる…」
どうも寝れない。明日面倒臭いし、なんと言っても藤鳴さん家が気になる。絶ッ対なんかあったよ。
─夜の風は気持ちがいい。頬を撫でて過ぎ去る風は興奮して寝られない身体を冷やしてくれる。
ここから見えるありふれた夜景が、俺がミジンコみたいな存在っていうのを分からせてくれるし、ベランダはなんか好きだ。
「…う、さぶっ」
秋の夜にノースリーブはきつい。寒い…最近冷えるようになってきた。
…今日はもう、寝てもいいかな。
「今日大変そうだったな」
「疲れたよほんと…」
「ふふ、お疲れ」
「数学難しい…暗記したくない……まーーた暗記の量増える…」
「がんばれ」
くすくすと女性のような声で笑うクラスメイトの峯岸 コウは、変なことも言わないしうるさくないから信頼している。
家が近いのでこうやって一緒に帰ったり、忙しくない日は家で勉強会をしたりとか色んなことしている仲だ。
「じゃあ頑張ります…」
「健闘を祈ってるよ」
おどけて敬礼をして見せるコウは、顔が赤くなっている。
左耳にひとつ、血が滲んだ絆創膏が貼られていた。でも、もう指摘する時間と余裕はない。
え?何故かって?よくぞ聞いてくれたね。
「…はっ、?」
「………?」
ぼさぼさで整っていない白髪に、つんと立った鼻にはそばかす。光の入らない小さめの黒目は、困惑した様子でこちらを見ている。
─何より痣だらけ。露出面積少ないのに、5個ぐらい大きな痣がある。
「…ええ…?」
「反応薄っ」
「…ぇええ…?」
「え、なに?」
「……えーーーー…???」
「人の事まじまじ見て何考えてんの?」
こいつ、見たことある。もしや─
「─藤鳴ヒビキ、くん。だよね?」
「いや、なんで知ってんの?」
「アルバムの話してて、君の話が出てきて…!本物だっ…!」
思わず、肩を掴んでこちらに引き寄せようとしてしまった。これがいけなかったのかもしれない。
「…嫌、!!」
ぱしっと手を叩かれ、手に痛みが走る。
ヒビキはふるふると震えながら、床に座り込んでしまった。
「ぁ…っ」
こちらを見つめる彼の目は怯えきっていて、右目には青痣がある。
びくびくしていて、さっきの辛辣な態度と比べると同一人物とは思えない。
「─君…ここに、逃げてきたの?」
(…この痣の意味、分かっちゃった…かも)
To be continued
なんかこっちできちゃったので先にあげときます
さあ、どうなるのでしょうか…(怪しい笑みもどき)
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