まだ薄暗い夜明け、少し朝日がさすカーテンを見て、衝動に駆られた。
逃げたい。全部から。
多くは言わないけど、今まで薄々思っていた。
逃げたい。人の視線が怖い。
今日なら、逃げれるかもしれない。
誰の目も気にしないでいい世界への期待が高まる。
隣にいるあなたは今日も可愛い笑顔で寝てる。
キャラクターデザインとは違うさらさらの黒い髪。
天然なのに、鋭い。そんなあなた。
君と、社の仲間だけがこの世界の心残り。
でも逃げてしまえば、全部終わりだから。
楽しかったことが終わるのはもちろん嫌だけど、
もう嫌だ、と思ってしまう存在の方が大きかった。
アンチコメント、とか。
同性と付き合ってる自分達への周りの視線とか。
疲れちゃったの。でもあなたは鋭いから、いつだって
「なんかあったやろ?無理せんときや、」って
いつもとは違った微笑みで言ってくれてたね。
でも、毎回毎回強がっちゃった。大丈夫じゃないくせに、大丈夫って。
全部自分が悪い。だから、もういいや。
ペた。
ベッドから降りて、床に足をつける。
ひんやりとしていて少し体が震えた。
あなたの横から離れると、一気に空気が冷たくなる。
本当は寂しがり。誰にも言ったことのない一面がこんな時だけ出てくる。
なのに上手く甘えられないなんてもうどうしようもないね。
不器用って困っちゃう。
体が無意識にあなたを求めて。
少しだけ布団に戻って、抱きしめた。
かすかに聞こえる寝息が、貴方が生きていることを証明してくれる。
目が薄らと開いたのを、自分の目が捉えた。
「、ん、今何時……」
見つかったら止められてしまう。
カーテンの間から覗く朝日に向かって小走りした。
「どした、ん……?」
まだ寝ぼけてる時の声。
今だけは、あなたのいつものような勘の鋭さもないでしょ。
「せっかく早く目覚めたしちょっと景色、というか空見ようかなって」
「んー……」
こんな時、嘘をつくのが得意な自分が嫌になる。
上手く嘘がつけちゃって、気づいて貰えない。
いつもの貴方なら、きっと気づいてくれるのに。
窓を開けて、裸足のままベランダにでる。
地面が冷たい。けどそんなこと今更どうでもよかった。
「……、……っ」
窓の外、もう貴方は見ていない。
そう思って安心した自分がいる。
勝手に感情が溢れ出ていく。
もう終わりにするんでしょ?ねぇ、
もう辛い日々は嫌なんでしょ?
この世界から逃げたいんでしょう?
なんで、泣いてるの……?
自分でも全然わからなかった。
分かったのは、後ろから少し急いでるようなあなたの足音が聞こえるってことだけ。
勢いよく窓を開ける音がして、
「おんりー、!」
まだ少し眠たそうな顔がこちらを見る。貴方の綺麗な黒い瞳と目が合った。
涙、拭っとけば良かったな。
なんて思いながら、無理やり微笑み返す。
「……、ふ、ふっ」
上手く笑えない。
眉毛がさがって、目から感情がこぼれて。
微笑むように口を閉じることも出来なかった。
強く唇を噛んだ。
けどこぼれたものはもう戻ってこなくて、唇が痛いだけ。
「……なんで笑うの?」
あなたの悲しそうなその声を、久しぶりに聞いた。
心が揺らいだ。
離れたくない、そう思った。
「……、……っ、」
声が出ない。何も言えなかった。
ずっと隠してきた自分の辛さ苦しさを今更誰かに、なんて不可能だった。
「あなたには分からない。」そう思ったけど、この言葉はあなたにはぶつけない。
きっと傷つけてしまうから。
声として出せなかった感情が、全て雫としてこぼれる。
淡い黄色のパーカーにいくつもの小さなシミができた。
「…………おんりー、」
「……!!!」
貴方の手が自分の背中に回っていた。
暖かくて自分より少し大きな手が、……嬉しかった。
「ゆっくりでええからさ、聞かせて、?」
「……」
少しの沈黙が流れる。
全部、もう貴方までをも諦めてしまった自分には、響かない言葉だった。
やっと声が出たと思えば、
「ううん、なんにもないよ。大丈夫、ありがとう」
全てが嘘のこんな文章だけ。
もう話すことすら辛かった。
じっと見つめてくるあなたが言ったのは、
「……嘘つき」
びっくりした。もう一緒にいてだいぶ経つのに、初めて言われた言葉だった。
全部バレてたんだ。
じゃあなんでもっと早くそう言ってくれなかったのって思った自分が嫌い。
散々言ってくれてたよね。
「もう嘘つかんといてよ……、っ……」
なんで泣いてるの、なんていえなかった。
自分のことをこんなに思ってくれているんだ、そう思えた。
そんな貴方には、自分の綺麗で素敵な偽物の面だけしか知らせずに終わらせたいの。
きっと嫌われちゃうから、ね。
「……もう全部終わりにするから、笑」
「……笑わないで!!!」
突然の大声に体が跳ねる。
こんな声を上げれるのも、初めて知った。
「辛いんでしょ?、なんで隠すの?」
「……」
「そんなに話したくない?怖い?」
「もっと自分を大切にして!」
「………………そんなに俺と居たくなかった?」
その言葉が心の奥深くまで突き刺さった。
あなたのその真剣な瞳も、初めて。
咄嗟に首を横に振った。
そうじゃないの、勘違いしないで、お願い、違うの。
けど口が上手く動かなくて、声が出ない。
「話してよ、頼ってよ。」
「いつも頑張ってるの、知ってるよ?」
「影で努力してるのだって知ってるし、そんなおんりーが好きなの。」
「……!!!」
そんなふうに思ってくれてたんだ。
「だから……」
「おらふくん、」
声が震える。
「ありがとう、自分も、大好きだ、よ。」
おらふくんのその気持ち、もっと早くに知れたら良かった。
教えて欲しかった。聞こうとすればよかった。
「……ごめん、ね。」
「……おんりー?ねぇ!!」
朝風で冷えた柵に足をかける。
最後は笑顔で。僕が学生の頃から決めてたの。
こんな早く実行することになるなんて、予想外だったけど。
「ずっと大好きだよ。たくさんの楽しいこと、ありがとう」
「おんりー!まだいっぱい…」
「色んなこと、ごめんね。おらふくんと居れて幸せだった。」
「待って!まだいっぱいおんりーとっ……!!」
「ばいばい、大好きだよ。」
最後に振り返った時、おらふくんの瞳孔がひゅっと縮んだのが見えた。
今日、あなたの知らなかった一面を沢山知った。最後なのにね。
柵を乗り越えて、地面に近づいていく。
空気を切って、落ちていく。
いつもは絶対「またね」って言うようにしてるのに、今回は「ばいばい」だったこと。
おらふくんなら気づいてるかな。
最後に笑顔で終われて良かった。
もう心残りはない。ないよ。もう何も無いから。
この涙だって、きっと気のせい。
みんな、大好きだったよ______________________
コメント
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途中涙が出すぎて文章が読めませんでした。今もずっと涙が止まりません 苦しいけど好きっていうか、ことばにできないくらい感動しました。
初コメ失礼します。 めっちゃ泣きました( ⚈̥̥̥̥̥́⌢⚈̥̥̥̥̥̀) オラフくん視点でも感動したけど、オンリー視点で大号泣しました