テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
30
74
桃 姫@フォロバ
48
第2話:策士の甘い罠と、船長の許されざる独占欲
甲板での騒ぎから数日。
航海士室の大きな机には、幾重にも重なる海図や羅針盤が散らばっていた。
波の揺れに合わせてゆったりと揺れるランプの光の中、航海士のフェニは優雅に紅茶を嗜んでいた。
コンコン、と控えめなノックの音が部屋に響く。
フェニ:「はい、どうぞ」
扉がそっと開き、顔を出したのはシオンだった。両手には、焼きたてのクッキーが載った小さな皿を大事そうに抱えている。
シオン:「フェニさん! 料理長さんから『フェニさんにおやつを届けてきて』って頼まれたんです。お仕事、お邪魔じゃないですか……?」
フェニ:「おや、シオンくん。ふふ、全然お邪魔じゃないですよ。むしろ、君が来てくれてとっても嬉しいな」
フェニはいつものように狐のような目を細め、親しみやすい笑顔を浮かべた。
シオンはパッと表情を輝かせると、トコトコと部屋に入ってきて机の上に皿を置いた。
シオン:「フェニさん、いつも難しそうなお勉強(航海術)をしていてすごいです! 僕、何かお手伝いできることはありますか?」
フェニ:「そうだねぇ……じゃあ、ちょっと喉が渇いちゃったから、僕の隣に座って一緒にお茶を飲んでくれるかな?」
フェニが自分の隣の椅子を引くと、シオンは「はーい!」と無防備にその椅子にちょこんと腰掛けた。
シオン(心声):(フェニさんは優しくて、いつもニコニコしていて、本当にお兄ちゃんみたいだなぁ)
シオンは一切の警戒心を持たずに、フェニとの距離をゼロにして微笑んでいる。
だが、フェニの目の奥でゆらりと黒い欲望が揺らめいていることに、シオンはまったく気づいていなかった。
フェニ(心声):(本当に無防備だな……。船長が『手出し無用』と言っていなければ、今すぐこの手で抱きすくめて、どこにも行けないようにしてしまいたいのに)
フェニは優しくシオンの頬に触れた。シオンは嫌がるどころか、気持ちよさそうに目を細めてフェニの手にすり寄ってくる。
シオン:「フェニさんの手、あったかいです」
フェニ:「……シオンくん。君は本当に罪な子ですね。そんな風に誰にでも甘えるんですか?」
シオン:「え? 誰にでもじゃないですよ。フェニさんや船長さんやガルドさん……僕の大好きな仲間たちだからです!」
「大好き」という言葉が、シオンの可憐な唇からあまりにも軽やかに飛び出す。
フェニ:「大好き、ですか……。ふふ、ずるいなぁ。そんなことを言われたら、僕、君を船長から奪いたくなっちゃいますよ?」
シオン:「えっ、僕を奪う……? フェニさんと船長さんは仲良しなのに、かくれんぼでもするんですか?」
シオンが首を傾げて本気で不思議そうにする姿に、フェニは思わず低く吹き出した。
フェニ:「かくれんぼ、ねぇ……。そうですね、君を僕だけの秘密の場所に隠してしまうかくれんぼ、かもしれません」
フェニは机に肘をつき、シオンの顔にぐっと顔を近づけた。吐息が触れ合うほどの距離。
シオンの胸がどきりと高鳴るが、それは恋心ではなく「お兄ちゃんに悪戯されているような緊張感」によるものだった。
フェニ:「ねぇ、シオンくん。ガルドに血をあげようとした時……君は自分の指を噛んだでしょう?痛かったんじゃないですか?」
シオン:「うーん、少し痛かったですけど、みんなが怪我をするよりずっといいです!」
フェニ:「そう。……でもね、僕は君が痛い思いをするのは嫌だな。傷つけるなんて、耐えられない」
フェニは甘い声でそう囁くと、シオンの手を優しく取り、その指先をそっと自分の唇に寄せた。
シオン:「フェニさん……?」
フェニ:「もしどうしても血が必要なら……僕には、君の唇から直接分け与えてくれませんか?」
シオン:「えっ? 唇から……? でも、唇を噛んだら喋りにくくなっちゃいますよ?」
シオンの見当違いすぎる返しに、フェニは一瞬呆気にとられたが、すぐに愛おしそうに目を細めた。
フェニ(心声):(ダメだ……本当にこの子には勝てない。計算も駆け引きも、この圧倒的な無自覚の前には全部吹き飛んでしまう)
フェニ:「ふふ、冗談ですよ。でも……覚えておいてくださいね。船長は君を『道具』や『戦利品』として縛り付けようとするかもしれない。でも僕は……君が欲しいんです。君の意志で、僕を選んでほしい」
フェニの真摯で熱い眼差しがシオンを射抜く。
シオンは「フェニさんは本当に僕の心配をしてくれてるんだ」と勘違いし、嬉しそうに頷いた。
シオン:「はい! 僕、フェニさんのこともずっと応援しますね!」
フェニ:「……応援、ですか。ハハ、一本取られたな」
フェニが苦笑いしながらシオンの髪を撫でた、その時だった。
バタン!と激しい音を立てて、航海士室の扉が開かれた。
レヴィ:「――何をしている、フェニ」
そこに立っていたのは、凶悪なまでの威圧感を纏った船長、レヴィだった。
その金色の瞳は怒りで煮えたぎっており、手すりを握る手には青筋が浮かんでいる。
シオン:「あ! 船長さん!」
レヴィ:「シオン、お前は下がりなさいと言ったはずだ。なぜこんなところにいる」
シオン:「料理長さんに頼まれて、フェニさんにおやつを持ってきたんです! フェニさんと楽しくお話ししてたんですよ!」
純粋なシオンの言葉が、火に油を注ぐ。
レヴィ:「……楽しくお話し、だと?」
レヴィは大股で歩み寄ると、シオンの腕を掴み、乱暴にならないギリギリの力加減で自分の背後へ引き寄せた。
レヴィ:「フェニ。お前、俺の言いつけを破るつもりか? このガキに手を出すなと言ったはずだ」
フェニ:「おや、船長。大袈裟ですねぇ。僕はただ、可愛いシオンくんとお茶をしていただけですよ? それとも……船長はご自分に自信がないのですか? シオンくんが僕になついてしまうのが怖くて」
フェニは挑発するようにフッと微笑んだ。部屋の中に、ピリピリとした一触即発の殺気が満ちる。
レヴィ:「ふん……減らず口を。このガキが誰の所有物か、忘れたわけではあるまいな」
フェニ:「所有物、ですか。そんな冷たい言葉で縛り付けようとするから、シオンくんが怖がってしまうんですよ。ねぇ、シオンくん?」
二人の男の視線が、同時にシオンへと注がれる。
バチバチと火花が散る暗闘の中、シオンはぽかんとした顔で二人を見比べ、そして嬉しそうに手を打ち鳴らした。
シオン:「船長さんも、フェニさんのおやつが食べたかったんですね! まだクッキー残ってますよ! みんなで仲良く食べましょう!」
レヴィ:「…………」
フェニ:「…………」
シオンのあまりにも明後日な仲裁に、殺気立っていた二人の男は思わず毒気を抜かれた。
レヴィは深くため息をつくと、シオンの首の後ろを猫のように摘み上げた。
レヴィ:「……帰るぞ、シオン。お前は今日から、俺の執務室で過ごせ。片時も俺の視界から離れるな」
シオン:「えっ? 船長さんの部屋にいられるんですか? わぁ、嬉しいです! 船長さんのお手伝い、いっぱいしますね!」
レヴィ:「……ったく、お前というガキは……」
レヴィは頭を抱えながらも、シオンを抱え上げるようにして部屋を出て行った。
残されたフェニは、ポツンと置かれたクッキーを一つつまみ、口に運ぶ。
フェニ:「……ふふ、執務室に囲い込みですか。ますます面白くなってきたじゃないですか。……シオンくん、僕が本気で君を奪いに行く日を、楽しみにしていてくださいね」
フェニの妖しい微笑みが、薄暗い部屋の中に静かに溶けていった。
コメント
1件
第2話読了〜!!めっちゃ面白かった😭💕 まずシオンの無自覚天然がヤバい…。「かくれんぼ?」の返しで全部かわしちゃうのカワイイにもほどがある!!🫠 フェニさんの「唇から血を分けて?」って甘くて危険な誘惑、めっちゃエモいやつじゃん!!でもシオンがマジでスルーしたの草。策士、天然には勝てない説あるな🤣 最後のレヴィ船長の独占欲バリバリの登場と「執務室で過ごせ」の囲い込み、最高すぎる…!乙女心的にはフェニ推しなんだけど、レヴィの不器用な執着も滾る🔥 次の話でフェニさんがどう動くのか気になりすぎる…早く続き見たいよ!!