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真衣香は心の中で答えてみたが、当の本人も何が“なるほど“なのか。さっぱりわからない。
なぜなら、どのようなものだったのかと聞かれて答えが欲しいのは真衣香の方だから。
そして、何より。
坪井の上司である高柳が、なぜ彼のプライベートな件にまで堂々と首を突っ込んでいるのか。
「個人的におもしろい男だと思って、見て楽しんでいるからですよ。俺が、個人的に」
「……え?」
「なぜこんなことを聞いてくるのかと、そんな顔をしていたので答えました」
また心の中を読まれていたのかと錯覚しそうになる。
真衣香は唇の端を何とか動かして不自然な笑顔を作った。
(どうしよう、もうすでに高柳部長が怖い)
「そ、そうなんですね」
とりあえずの相槌で会話を続ける真衣香に「実はですね」と穏やかな声が返ってきた。
「立花さんには全く興味はなかったのですが……あれがどうにも執着を見せるので。どのような女性かと期待していました」
高柳は、そこで一度言葉を区切って真衣香を見た。
そして弧を描く口元からは、似つかわしくない言葉を発しながら笑う。
「期待はずれでガッカリしています、とても」
「……は?」
これには、さすがの真衣香も感情をあらわにした。驚きと戸惑いから少し大きく、非難するような声が出てしまったのだ。
慌てて口元に手をやった。
そんな真衣香の様子を知ってか、それとも眼中になどないのか。
わからないが、変わらぬ様子で高柳は続ける。
「これだと本当に営業所へ飛ばしてしまえばよかったなと、思っています。君が近くにいると思うと気が散るのか、つまらないミスが続いて俺にまで害が及ぶ。正直大迷惑です」
「だ、大迷惑……ですか…………」
真衣香の声に、高柳は、それはそれは。深く大きく頷いた。
「二課には、まだまだ頼りない課長代理しかいないので。坪井の持っている仕事に問題があれば大抵、直接俺が尻拭いをしなくてはいけなくなります」
「え?な、何かあったんでしょうか」
「何かと言われると多々ありましたけど」と。高柳は笑顔のまま、声を少し低くしてテーブルの上で指を組んだ。
(ひょ、評価シート提出の時の面談みたい……)
仕事ではないと言われても。真衣香の脳裏には少し前に杉田と向かい合った、ボーナス前の面談時の様子がよみがえっていた。
が、もちろんそれを声にできるほど和やかな雰囲気ではなかったのだが。
「今月頭くらいから、並程度にしか使えなくなりました」
「並……」
それで例えるのだとすれば、真衣香など並以下だろうに。上司である杉田や八木に申し訳なさを感じつつ。坪井のことも同時、気になってしまう自分がいた。
「その頃に、何かありましたか」
「何か……、あったと言われればあったかもしれませんが。仕事には関係ないと思います」
「そうですか、それはなぜ?」
「……坪井くんにとっては、何かを左右されるほど大きな問題ではないと思うからです」
高柳は真衣香の答えを聞き、更に笑みを深めた。
一見穏やかな表情が、今の真衣香には何かを見透かされていくようで。
恐ろしさが、身体中を這っていく。ぞわぞわと皮膚が悲鳴を上げた。
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