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「お花祭り?」「うん。隣街であるんだって、ちょっとしたイベントもあるらしーよ」
ゴミ捨てを終え、戻ってきたゴンが言った。
「なんか質素なお祭りって感じだな…」
キルアは素直に感想を述べる。
「さっき回覧板に書いてあったんだ。メインはお花と街の宣伝らしいんだけど、イベントで優勝したらリゾートチケットがもらえるんだって!」
「いや、回覧板に隣町のイベントはかかねーだろ」
「とにかく、みんなでどうかなーって思って」
なんだか引っかかるものは感じるが、祭り自体は健全なものなようだし、多分隣町の町長かなんかが宣伝の手を伸ばし、回覧板を乗っ取ったんだろう、とも思う。第一、今どき回覧板をじっくり見るやつなんかいないだろーし。
「まぁ、いんじゃねーの?クラピカとレオリオにも声かけてみろよ」
「うん!そうするよ!」
リビングに集まった面々にお祭りのことを話し、明日、みんなで行くことになった。お花祭りは隣町にある、そこそこの広さの公園で行われ、そこにある花畑を宣伝するために開かれるかしい。まぁ、要するに観光物資の1つである。実際の花畑やイベントについては行ってみないとわからないが、退屈しのぎにはなるはずだ。
次の日、4人はバスに乗り込み、隣町へと降り立った。街並みは大して変わらないが、イベントのためか少し賑わいがある気がする。
「お祭りはこの近くのはずなんだけど…」
ゴンが先行し、公園のそばまでやってきた。
「おっ、あれじゃねーか?」
レオリオが奥にある黄色い旗を見つけた。
「あ!きっとあそこだね!」
4人で旗を目指し、丘を越えた。
「わぁあっ!」
そこには色とりどりの花が咲いた、綺麗な花畑が広がっていた。
「すっげー!思ったよりきれーじゃん」
「これだけ色んな種類があるとは…ずいぶんと力を入れて世話をしたのだな…」
「こりゃー、大々的に宣伝したくもなるだろうな」
ぱしゃっ!
4人のすぐそばでささやかな機械音が響いた。
「おかーさーん!これはー?」
少年が両手にカメラを抱え、母親のもとへと駆けていく。
「あら。いい写真ね。かわいいお花だわ」
「えへへっ、でしょー?」
よくみてみると、お花畑の中やその周りにはカメラを持ち、花の写真を撮る人々が沢山いた。
「なんだぁー?みんなして。ネットでバズってるとかか?」
「いや、これは…」
そう言ってクラピカがそばにある看板を指し示す。
“お花祭りイベント〜綺麗に咲くお花の写真を撮ろう!〜”
「どうやらイベントとは、花の写真を撮るもののようだ」
「なんだ〜、早食い競争とかじゃなかったかー」
「食い意地はってんじゃないの」
「受付はあっちのテントみたいだよ!せっかくだし行ってみよーよ」
受付のテントに着くと、参加証とカメラを渡された。カメラには青い紐が付けられており、首から掛けられるようになっている。
「1人に1台カメラを支給とは…ずいぶんと太っ腹だな」
「それだけ力いれてるってことなんだろーな、どんだけ観光物資少ないんだよ…」
「おい、キルア、声落とせー」
受付を済ませると、係の人がやってきて、説明をしてくれた。
「このイベントでは、この公園内で咲く花の写真を撮ってもらいます。参加者の中で、1番綺麗に写真を写せた方が優勝です」
テントの裏側には、参考となる写真のパネルがいくつか飾ってあった。そこには花をアップで写したり、先ほどの丘から花畑全体を写したものもあった。
「あ、ちなみに、撮った写真は1人3枚だけ現像してお持ち帰りいただけます。ぜひ、たくさん写真を撮って、思い出を持ち帰ってくださいね!」
説明が終わり、4人はたくさんの色彩に溢れた花畑へ繰り出した。
「さぁて、どこからとったもんかねー?」
花畑は公園全体に広がっており、とても全てを周れる気がしなかった。
「まぁ、とりあえずこの辺の撮ればいんじゃね?」
ぱしゃぱしゃとキルアがしゃがみ込み、連写をする。
「もうー!キルアー。そんなに適当に撮ったらダメだよー」
「やっぱし、撮るならでっかいヒマワリとかどーだ?あっちに咲いてるぜ」
「おっさんわかってねーなー。こういうのはそういう主役級の花よりも、質素で可憐ですーみたいな花を撮ったやつが優勝するんだぜ?」
「そんなこともないと思うが…」
しゃがみ込み、シャッターを押しながらクラピカが意見を言う。カメラの画面にはピントのズレた花の写真があった。
「難しい…」
「うん…むずかしいね…」
どうやらゴンの写真もピントがズレている。
「わかったわかった、カメラの使い方からだな…」
「いや、カメラくらい使えるだろ。なんでズレるんだよ」
30分ほどでカメラの使い方講座が終わり、ようやく少し移動することにした。移動した先には、発色の強い花々が咲いていた。
「わあっ!きれいな花だねー!」
ぱしゃぱしゃと、早速ゴンが花を撮っていく。どう撮ればよりいい写真になるかと、その真剣な横顔を眩しく見つめながらキルアも最高の1枚を撮るべく、花畑を散策していた。
「ん?」
ふと、視界の中に違和感を覚え、疑問の声を上げる。
「どうした?」
近くで花を撮影していたクラピカが近寄り、キルアの視線の先を覗き込む。
「え?いや、きれいだなー、と、思って」
そこには色にあふれた中で、一輪だけ咲いている白いダリアがあった。
「あぁ、本当だ。綺麗だな」
ぱしゃっ!
2つのシャッター音が重なった。
「…これ。見つけたこと、あいつらには内緒な?」
「あぁ。そうしよう」
花畑の中ではその甘い匂いに誘われて、さまざまな虫たちも集まっていた。
「うおっ!」
レオリオの撮っていた花の葉に、何匹かイモムシがついており、思わずギョッとした。
「レオリオー?どうしたのー?」
「いやー、まぁ、普通はいるよなー」
そんな時、2人の目の前を2羽の白いちょうちょがひらひらと舞っていった。
「こいつらもあぁやって空を飛んでくんだろうな」
「そうだね…。この子達も撮っておこうよ!」
「おうよ!」
このイモムシたちも、これから大きく成長していくのだろう。そして羽を伸ばして大きな空へ羽ばたいていくのだーー
またしばらくそこで過ごし、次の花畑へと移動した。時間的には、おそらくここで最後になるだろうと、みんなでひたすらに花に向けてシャッターをきった。最後の花畑は小ぶりな花が多く、あまり人気もなく、4人で歩き回った。
「おい、ゴン。みろよ〜この写真!」
「あー!キルアいいなー!それ、オレも撮る!」
「おいおい。オレのパクりかよー?」
「うー」
先程からキルアが写真を自慢してくる。自分はカメラに慣れ始めたばかりで、なかなか納得のできる写真が撮れていないから、からかってきたのだろう。しかし、キルアの表情はとても楽しそうで、幸せそうで、なぜか、もやもやとした気持ちよりも、こちらもちょっかいをかけてやろうという気持ちになった。
「キルアのカメラ、もしかしていいやつなんじゃない?」
「え?何言ってんだよ。支給されたのはみんな一緒のだろ?」
「ちょっと、みせてよ」
「なっ、オイ!やめろよ!」
「キルアのケチー!」
「おーい。お前らー!カメラ壊すなよー!」
2人が写真をそっちのけでじゃれあい始めてしまった。放っておくとアクロバティックなものになりそうだが、本人たちは楽しそうなので、ある程度は許容することにして、花に向き合い、夢中でシャッターをきる。
「ふふっ」
すると、近くで笑う声が聞こえた。
「おっ、なんだ?クラピカ。いい写真が撮れたのか?」
「うん?あぁ。とてもいい写真が撮れた」
そう言いながらクラピカは手の中のカメラを両手で掲げ、その画面を見つめながら目を細めて笑った。
「どれどれ、どんなもんか見せてみろよ」
こんなに嬉しそうに笑うなんて珍しい。一体、どんな写真が撮れたのか、その手の中の画面を、笑みを浮かべながら覗き込んだ。
「…って、これ…」
その画面の中に写っていたのは、先ほどじゃれ合いながら駆けていたゴンとキルアの写真だった。
「お前…これ、花の写真じゃねーぞ?」
「何を言う。きちんと花畑も写っているではないか。それに、この大会は花をどれだけ綺麗に撮れているかであって、花以外を写していけないわけではない。」
「お前なぁ…」
この大会はあくまで主役は花なのではないかと思って文句を言おうとしたが、手の中の画面を嬉しそうに眺めているクラピカを見ていると、そんなことはどうでもいいのではないかと思えてくる。その姿は年相応で、あまりにも幼く見えた。珍しい。こんな姿は滅多に見ない。そこで、レオリオはハッとした。手にそれを構える。
ぱしゃっ!
控えめなシャッター音が響く。
「えっ?」
「花以外を撮っちゃならねぇー訳じゃないんだろ?」
画面に目を落とす。そこには、花畑の中でしゃがみ込み、両手に大事そうにカメラを持ち、幼く笑うクラピカの横顔があった。
うん。確かに。これはいい写真だ。
目の前の人物はむっとした顔をむけているが、知らぬふりをした。
「ねぇー!レオリオ!クラピカ!聞いてよー。キルアが…って、2人ともどうしたの?」
「ん?あぁ、丁度、いい写真が撮れたんだぜ?見るか?」
「…っ!見なくていい!」
「えぇーなんだよー。なんの写真ー?」
キルアがニヤついた様子でカメラをひったくろうとしてくる。
「おいおい!危ねぇだろうが!」
「なんだよ、見せてくれるんじゃないのかよー」
「あ、キルア」
「えっ?」
ぱしゃっ!
「ちょうちょう!ほら!見て!」
そういってゴンがカメラの画面を見せてくる。そこには楽しそうに笑うキルアのふわふわとした髪に、青いちょうちょがひらひらと降り立っているのが写っていた。
「おー!いい写真じゃねぇか!よかったなー、キルアー」
そう言ってレオリオが、がしがしとキルアの頭を撫でる。
「なっ!やめろよ!おっさん!」
乱雑に撫でられながらもキルアは照れていた。ゴンもまるでいたずらが成功したかのように、それをみながら、にかっと笑っていた。
ぱしゃっ!
「ん?」
3人の目の前に、カメラを構えたクラピカがいた。
「うん。いい写真が撮れた」
満足そうに笑う。
「えー!なにそれー。オレも撮る!クラピカ、何かポーズしてよ!」
「えっ?ポ、ポーズ?」
「おい。ゴン。それだとまるきり趣旨が変わっちまうぜ」
「まぁ、いいじゃん。せっかくだしみんなでなんかとろーぜ」
4人で花畑に座り込み、みんなで写るように肩を寄せ合う。画面は小さく、全体を写すことは難しいが、なんとか撮ることができそうだ。
「じゃあ、撮るよ!はい!ちーず!」
ぱしゃっ!
夕方になり、大会では優勝者の発表が行われていた。今大会、優勝したのは10歳くらいの少年だった。彼の撮った写真は、大きなヒマワリと、その下にいる、麦わら帽子を被った少女を写したものだった。彼女は少年の妹だと、一緒に表彰を受けている姿を見てわかった。
「あーあ。残念だったなー」
「でも、楽しかったね!」
優勝のチケットはもらえなかったが、彼らの手の中には、現像された写真たちがあった。そこに写る彼らは笑顔で、とても楽しそうだ。
「結局、あれから1枚も花を撮っていないではないか…」
「最初に屁理屈つけてきたのはおめーだろーが」
「現像したのも自分たちの写真ばっかりなのも、なんかばからしーな…」
「えー!?オレはいいと思うんだけどなー」
「まぁ、この写真は、オレも結構いいと思う。」
「お!キルアはそれかー。オレはこっちだな!」
キルアとレオリオはお互いに気に入りの写真についてを話し始めた。その後ろ姿は文句を言っていたとは思えないほど楽しそうで、今日、ここにみんなでこれて、良かったと思う。
「なんだかんだ、みんな楽しめたみたいだね!」
「そうだな」
そう話し合いながら、4人で帰路についた。
残った写真も、目にした光景も、楽しかった思い出も、大切に胸に抱きながら、同じ道を歩いた。