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蓮くんの優しさ、、エグいですね💙
玄関の扉が閉まったあと、部屋には静寂だけが残った。
時計の秒針がやけに大きく聞こえる。まるで、瑠姫の胸の中を空洞にしていく音みたいだった。
瑠姫はソファに座り込んだまま、動けなかった。
瑠「……俺、何やってんだろ。」
目を閉じると、拓実の震えた声が耳に戻ってくる。
拓「俺の“好き”なんかよりも、るっくんの世界のほうが広いんやなって——」
その言葉が、胸の奥をじわじわと締めつけた。どうしようもなく痛い。
瑠姫は膝を抱えて俯いた。
指先が震えていた。心臓の鼓動すら、苦しかった。
スマホが震えないかな、と何度も画面を見た。
だけど通知はひとつも来ない。
瑠「……拓実。」
喉の奥がつまる。
会いたい。手を伸ばしたい。
あの温度を、今すぐ確かめたい。
でも、今追いかけたら
拓実の傷に触れてしまう気がした。だから動けなかった。
部屋は暗い。
電気をつける気力もない。ソファにもたれたまま、瑠姫は腕で目を覆った。
瑠「……拓実は、俺がいない方が楽だったのかな。」
言葉にした瞬間、胸が裂けるように痛んだ。
そのとき——
スマホが小さく震えた。
画面には 「蓮くん」 の名前。
瑠姫は飛びつくように電話に出た。
瑠「蓮くん!?拓実そこにいるの!?」
蓮「いや、違う。……ごめん。でも、なんか拓実、泣きながら駅の近く歩いてた」
瑠「……っ」
蓮「追いかける?」
瑠姫は息を吸う。震えた呼吸。喉が痛い。
瑠「……追いかけない。」
蓮「え?」
瑠「今追いかけたら、拓実はもっと苦しい。あいつ……俺を好きすぎてるから。」
声がかすれていた。
蓮「……じゃあ、どうするん?」
瑠「待つ。帰ってくるまで。どれだけ時間かかっても。」
それが
瑠姫が拓実にできる、唯一の愛し方だった。
蓮「……わかった。」
電話が切れる。
外は深い夜。窓の外に車の音はひとつもない。瑠姫は玄関の前に座っていた。
理由なんてない。
ここにいたら、拓実が帰ってきたとき気づけるから。
膝を抱えたまま、かすかに震えながら呟く。
瑠「拓実……俺は、どこにも行かないよ。」
声は涙に飲まれてほとんど出なかった。
瑠「だから……帰ってきて……」
返事はない。けれど、玄関の前で過ごす夜は拓実への愛の重さそのものだった。
ふたりの痛みは、同じ場所で燃えていた。
END
つづく