夜は、ただ静かに更けていった。玄関の前で膝を抱えたまま、瑠姫は一睡もしなかった。
目は熱いのに、涙はもう出なかった。
泣きすぎて、全部枯れてしまったみたいだった。
外の空が少しずつ白んでいく。鳥の声が聞こえ始めた頃——
瑠姫はまだ、玄関にいた。少しだけ唇が震えた。
瑠「……帰って、こないか。」
言ってしまったら“本当にいない”みたいで胸の奥が崩れそうだった。
ゆっくり立ち上がる。足は重たくて、心はもっと重くて。
台所へ歩いて、蛇口をひねり、顔を洗う。冷たい水が頬を伝って落ちた。
それは涙じゃない、はずだった。鏡の中の自分は、ひどい顔をしていた。
目が赤い。
唇は噛みすぎて白くなってる。
瑠「……俺、最低だな。」
ひくく笑ってしまった。
ー登校時ー
スマホを手に取って、LINEを開く。“既読”はつかない。
瑠「……拓実。」
メッセージを打っては消して、打っては消して。最後に残ったのは、たった一文。
瑠「帰ってきて、じゃなくて。……”帰ってこれるなら”、、帰ってきてほしい。」
送信。既読はつかない。ただ時間が止まったままになってしまいそうで。
それが一番怖かった。
ー学校ー
教室のドアを開ける。周りがざわっとした気がした。瑠姫の表情が、普段と違いすぎたから。
クラスメイト「……白岩、顔色、やばくね?」
瑠「大丈夫。寝てないだけ。」
笑ってみたけど、うまく笑えなかった。席についた瞬間、机に肘をついて前髪を指で掻いた。
隣の席から声。
クラスメイト「川西、今日は……?」
瑠「来ない。」
短く答えた。声はいつも通りのはずなのに
教室の空気が少しひやりとした。
ー放課後ー
帰り道、瑠姫は空を見上げた。夕焼けはいつもと同じ色なのに
こんなにも冷たく見えるなんて思わなかった。
瑠「……拓実。」
名前を呼んだだけで、喉がつまった。ふと、電柱の影に
“もしも拓実がいたら”
なんて思ってしまう自分が嫌だった。家に帰るのが怖い。玄関を開けて、
中があのままだったらと思うと。でも帰るしかない。
足を動かした。
ー自宅ー
玄関を開ける。そこには、昨日のままの空気があった。
拓実の靴は、ない。瑠姫は、一度だけ喉の奥で息を震わせた。
瑠「……そっか。」
そのままスリッパも履かずに部屋の真ん中に座り込む。両手で顔を覆う。
今度は涙が出た。声は出ない。でも、呼吸が崩れていく。
瑠「拓実……どこ行ったの……?」
答えは返らない。だけど、愛してる。
それだけは消えない。
END
つづく。あと3話で完成します!
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