テラーノベル
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拘置所の冷たいコンクリート壁に囲まれ、美波は極限の精神状態にいた。
「私は悪くない。全部エリカと沙織が勝手にやったことよ……」
独り言のように繰り返す彼女の元に
看守が「差し入れだ」と一冊のノートを持ってきた。
それは、10年前の『交換日記』
表紙には泥がこびりつき、ページをめくれば
私をいかに効率的に壊すかの作戦会議が、彼女たちの無邪気な筆跡で克明に記されている。
最後のページには、血のような赤文字で一言。
『次は、真由美があなたの秘密を話してくれるって』
美波の悲鳴が、無機質な廊下に響き渡った。
◆◇◆◇
一方、その頃
5人の中で最も臆病で、常に美波の顔色を伺っていた「腰巾着」の真由美は、深夜の街を逃げ惑っていた。
『パンドラ』の魔の手から逃れるため、彼女が最後に縋ったのは、一軒の古びたアパート。
「先生……!助けて、先生!」
ドアを開けたのは、白髪の混じった、疲れ果てた男。
10年前、私たちの担任だった佐藤だ。
彼は、クラスでいじめが起きていることを知りながら
自分の保身のために「いじめなど存在しない」と隠蔽し、助けを求めた私の声を無視した張本人。
「真由美じゃないか。こんな時間にどうした」
「栞が、栞が復讐に来たの!愛華もエリカも沙織も、みんな終わったわ。次は私なの! 先生、あの時のこと、あなたが全部指示したって言って……!」
真由美は佐藤の足にしがみつき、なりふり構わず懇願する。
佐藤は冷めた目で彼女を見下ろし、小さく溜息をついた。
「真由美。……君は勘違いしている。私はあの日、君たちを守ったんじゃない。君たちの親の権力を守っただけだ。…今の君に、守る価値があると思うかね?」
「え……?」
真由美が顔を上げた瞬間、佐藤の背後の暗闇から、傘を差した私が音もなく現れた。
雨の滴が、廊下を濡らす。
真由美は絶叫しようとしたが、喉が引き攣って音にならない。
私は無言で、ホワイトボードを彼女の目の前に突き出した。
『先生はもう、1ヶ月前に私の“共犯者”になってるよ』
佐藤が力なく笑い、スマホを操作する。
画面には、佐藤が自身の過去の隠蔽工作を自白し
当時の真由美たちの残虐な行為を裏付ける「証言動画」が再生されていた。
「すまない、真由美。……私にはもう、守るべきキャリアも、守ってくれる親もいないんだ」
佐藤の告発は
すでにネットを通じて警察、そして世間へと拡散されていた。
真由美はガタガタと震え、後退りする。
「嫌、嫌あああ! 私はただ、美波さんに言われただけで…!私は悪くない、私は……っ!」
その背後の階段を、九条刑事がゆっくりと上がってきた。
「……悪いね、佐藤先生。証言、確かに受け取ったよ。真由美さん、君には10年前の傷害致死、および今回の証拠隠滅の疑いで署まで来てもらおうか」
「死……死んでない!栞は生きてるじゃない!」
「……精神を殺したのも、殺人と同じだよ」
九条が冷たく言い放ち、真由美に手錠をかける。
私は、崩れ落ちる真由美と、罪の重さに耐えかねて項垂れる佐藤を、ただ静かに見つめていた。
これで、4人。
残るは、あの日、私の喉に熱湯を注いだ「主犯」——
美波の、本当の処刑だけだ。
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深冬芽以