テラーノベル
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「お母様…?お母様が来てくれたの!?」
拘置所の冷たい廊下を、美波は縋り付くような足取りで進んでいた。
仲間は全員消えた。
フォロワーも、名声も、キャリアも。
今の彼女に残された唯一の希望は、自分を「完璧な娘」として育て
どんな時も味方でいてくれた母親の存在だけだった。
「お母様、私を助けて! 弁護士を、最高の人を雇って!全部エリカたちのせいにすれば……」
面会室の重い扉が開く。
だが、アクリル板の向こう側に座っていたのは、美波の記憶にある「上品で教育熱心な母親」ではなかった。
やつれ果て、うつろな目でこちらを見つめる女性。
それは、10年前
美波の母親に「娘のいじめを隠蔽しろ」と脅され、精神を病んで家庭を壊された、私の母親だった。
「……っ!!!」
美波は椅子から転げ落ちた。
九条刑事が、背後から冷酷に告げる。
「君の本当の母親なら、君が逮捕された瞬間に『自分のキャリアに傷がつく』と言って、すべての縁を切って海外へ高飛びしたよ。……ここにいるのは、君たちが10年前に壊した被害者の母親だ」
私の母は、震える手で一枚の写真を取り出した。
それは、喉を焼かれる前の、私が幸せそうに笑っていた頃の写真。
母の枯れ果てた声が、スピーカー越しに響く。
「……返して。私の娘の声を…人生を、返してよ……っ!」
美波は狂ったように叫び、アクリル板を叩いた。
「嫌!嘘よ! 私のお母様が私を見捨てるはずない!私は女王様なのよ!私は特別なのよ!!」
その様子を、私は監視カメラの映像を通じて、署の廊下で見つめていた。
手元のスマホが、激しく震える。
『パンドラ』の管理者から、血のような赤色で通知が届く。
【最終選択】
美波の社会的抹殺は完了しました。
最後に、彼女に『物理的な死』を与えますか?
YES:美波の独房に火災を発生させます。
NO:一生、法の檻の中で『声なき絶望』を味わわせます。
※制限時間:60秒
画面には、美波の独房のライブ映像が映し出されている。
ボタン一つで、彼女の人生に「終止符」を打てる。
10年前、彼女たちが私に突きつけた、死よりも辛い選択肢。
九条刑事が、廊下の角から現れた。
彼は私の手元にあるスマホをチラリと見て、足を止める。
「……栞さん。君なら、どっちを選ぶ?」
九条は止める風でもなく、ただ「確率」を確認するように問いかける。
「君が『YES』を押せば、僕は見なかったことにする。それが君の望む『完全犯罪』のゴールだろ?」
私の指が、画面の上で止まる。
頭の中を、10年間の屈辱が駆け巡る。
熱湯の熱さ、仲間の笑い声、捨てられた教科書。
そして、私を「ゴミ」と呼んだ美波の顔。
私は、九条の目をじっと見つめた。
そして、スマホの画面を彼の方へ向け、あるボタンをゆっくりとタップした。
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深冬芽以