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「ねぇ、君どうしたの?」
まだ義務教育も卒業していないような少女の声。顔を上げると、長袖長ズボンの暑そうな格好で少女が立っていた。今は、八月。真夏だ。今日だって最高気温は40℃近くにもなると、通りすがりにある電気屋の画面の中に囚われた女が言っていた。
「そっちこそ、そんなに暑そうな格好をしてどうした」
そう問うと少女は困ったように目を泳がせた。この仕草が意味することを僕は知っている。きっと、この少女も僕と同じなのだろう。近くのコンビニで買った薄いコートで僕が隠しているやうに。少しぶかぶかとした服の下には、あざがたくさんあるんだろう。今時、珍しい事ではない。
3年前のあの夜、世界が大きく変わってしまったんだ。
皆さんこんにちわぁ〜!オレ様だよー!今日はね!すごいニュースがあるんだ!
小さな画面から流れる男の声。対して面白くもないのに、暇つぶしに、と、いつの間にかみてしまう。
ジャンっ!これ見てー!すごくない?!オレビックリちゃったよww
そう言って画面の左側に映された画像にはこう書いていた。
「体罰を与えないと子供は学習しない」
続いて画面の中の男は言う。
ある大学の凄い人がね、研究をしたんだって。そしたら、体罰を行なっていた頃の子供と現代の子供の知能は、前者の方が高いとわかったんだ!凄いと思わないか?!間違ったことをした時に、暴力を振るうだけで子供が賢くなるんだ!それに!親の負担も減らせて、女性の自殺数を削減でk…
馬鹿馬鹿しい。そう思った。まさかこんなことが火種になって、体罰をする親が増えるとは思わなかったんだ。
そっからすぐに治安は悪化した。家庭内だけでなく、会社内などの組織でも体罰が行われるようになった。古びたマンションの一角にはまだ幼い子供が監禁され、ろくな食事も貰えず、悪臭の立ち込める部屋で泣き続けている。両親とも仕事をせず、ゴミ箱を漁る子供もいた。そしてそんな子供を踏みつける奴もいた。路上には薄いシートの上に子供が座っている。捨て子だらう。100メートルもないこの道だけで三人もいる。この時の僕は、自分がその一人になるなんで思っていなかった。