テラーノベル
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戸惑いを隠せず、そっぽを向こうとした萌音の頬を、翔の手がそっと引き寄せる。そしてそのまま唇を塞がれる。
一体どれくらいの時間キスをしていたのだろうか……。きっと数秒なのに、まるで時が止まったかのように動けなくなる。
唇が離れても呆然としたままの萌音を見ながら、翔はクスクスと笑い出した。その瞬間ハッと我に返った萌音は、両手で顔を覆って翔に背を向けた。
「なっ、なんでキスなんてするんですか⁈」
すると翔はワイングラスの載ったトレーをずらし、背後から萌音を抱きしめる。
「……それは萌音さんのことが好きだからです」
彼の腕の感触、体の熱、耳元で囁かれた愛の告白……萌音は呼吸を忘れ、まるで夢の中にいるかのようなふわふわとした気持ちになる。
しかしすぐに現実に引き戻される。夢じゃないにしても、翔さんが私を好きだなんて……そんなことあるわけがない……。
先ほど紗世と話した後だからこそ、今起きていることが尚更信じられなかった。
「か、からかわないでください……! どうしてそんな嘘をつくの……」
「嘘じゃない。《《ずっと》》萌音さんが好きだった」
「そんなこと……信じられません……。だって私たちは……カフェの店長とお客で……」
「それだけではないはずですよ。ねぇ、スイちゃん」
あの時の名前で呼ばれ、萌音は体から力が抜けていく。ようやくロミオを見つけた喜びと、そのロミオと店長が同一人物説だったという驚き。ただ自分が今日までの間にときめいたのは、たった一人の人物であったことに胸が熱くなる。
萌音の緊張が解けたのを感じた翔は、腕の力をそっと緩める。
「こっちを向いてください、萌音さん」
そう言われて、おずおずと翔の方へ向き直る。彼の瞳をじっと見つめると、自然と涙が溢れた。
「本当にロミオくんなの……?」
「えぇ、本物ですよ。あの数日間でいろいろな話をしましたよね。例えば……オリオン座の神話のこととか。覚えてますか?」
彼のは指先で萌音の涙を掬い取ると、今度は正面から彼女を抱きしめる。
「あの時はあなたを怖がらせないように、塀の上から話しかけるしか出来なかったけど、やっとあなたに触れることが出来た……」
彼の声はどこか感慨深そうな空気を纏っていた。優しく抱き止められ、彼の香りを吸い込むだけで、萌音は眩暈がして腰が抜けてしまう。
どうしよう……こんなこと言われたら抑えることなんて出来なくなる。
「……わ、私だってずっと触れたかったです……」
萌音は翔の胸に顔を埋めると、ボソボソと小さな声で話し始めた。
「初めて恋をしたのもキスをしたのもロミオくんで、でもニ度と会うことはないだろうって思っていたの。その後にときめいたのが店長だった……」
「えっ、私ですか?」
「そうです……でも……」
萌音は自分の気持ちを言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
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