テラーノベル
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#独占欲
俺、王子谷は最近、猛烈に荒れていた。
理由は明白だ。雨宮主任への失恋。そして、春川先輩の幸せいっぱいの結婚式。
街を歩けば、もうすぐバレンタインだと浮き足立つカップルたち。
(……あーあ。リア充爆発しろ、マジで)
二次会で浴びるほど飲んだ酒。連日のように仕事にかこつけて、得意先や業者の飲み会に顔を出し、ヤケ酒。
それでも営業成績だけは落とさない。それが俺のプライドであり、唯一の支えだった。
だが、そんな無理がたたったのか。健康診断の結果は、無情にも「要再検査」の四文字を突きつけてきた。
人事部からは連日、火急の案件かのようなタイトルでメールが届く。
【重要】健康診断・再検査の受診面談について(最終督促)
(……うぜぇ。若い俺が再検査なんて、どうせ数値の誤差だろ。仕事の邪魔)
俺は開封すらせず削除フォルダへ放り込み続けた。
無視を貫いていたら、ついに仕事用のスマホにまで着信が入るようになった。
「……あの! 健康管理室の小森です! 王子谷さんのメール……もしかして、どこかで迷子になっちゃいましたか?」
「あ、今、取り込み中なんで!」
俺は言い終わる前に通話を切った。なんなんだよ、この小森とかいう女。健康オタクの相手をしてる暇なんてない。
夕暮れ時。デスクに置いたスマホが震える。
得意先からの折り返しだと思った俺は、キーボードを叩きつつ、営業用の明るい声を作った。
「はい! お世話になっております、王子谷です!」
「あ! 王子谷さん! やっと、つながりましたね。お疲れ様ですっ!」
「…………。あ、俺、今から外出なんで」
「 今日は午後から会社にいらっしゃると伺いましたよ。部長さんにもバッチリ確認済みなんです。……嘘はダメですよっ?」
(な、なんなんだよこいつ……!)
おっとりした声色のまま、俺の嘘だけをふわりと包んで無効化してくる――そんな厄介さを持っていた。
「私、王子谷さんが来てくれるまで、ずっと待っていますね」
(……なんだ、この毒気を抜かれるような喋り方は……!)
「……17時。17時までには行くんで」
「はい! お待ちしていますっ!」
俺は悪態をつきながら、会社の最果てにある健康管理室へと向かった。
さっさと面談を終わらせて、キンキンに冷えたビールを胃袋に叩き込んでやる。
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