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※この話は誰かしらの目線から始まります。
はぁ。
白い彼は全く納得のできる話をしてくれない。ずっとニコニコと微笑んだまま、「転移が成功した」だの「君のことをずっと探していた」だのとずっとこう言い張っている。
「まぁ、えっと。とりあえずお名前は?」
「ええ?知らなかったの?」
知らないも何も、名乗られていないから分からないのは当然だと思う。顔立ちが誰かに似てるような気がするだけで心当たりなんて全くない。
「僕は、芥川龍之介。君の恋人の別の世界の姿だよ。」
僕(やつがれ)と言った彼は何一つ顔色を変えずに言った。にこにこと何処か危なさを感じるような笑顔のままで。
僕はこんなに、正直で笑っている彼が芥川なのか信じられなかった。
ずっと芥川には冷たくされてたから。まぁ、彼奴にも事情や性格とかもあるから仕方ないと思う。
「それで、あの、もう一度説明して貰えますか?」
分からないなりに少しだけでも理解しようと僕は聞いた。
「勿論。」と言う彼はこう話し始めた。
彼の世界は自分たちの今いる世界軸の派生で、自分たちが反転された世界なのだという。
『反転』つまり、色を対の色で表すように、黒を白で表すように、性格、人格、髪色、衣服などが全て反対になっている状態である。
だから自分は髪色が白が多めで毛先だけ黒くなっているでしょ。と彼は笑った。
そんな世界の彼等は、世界軸を越えてこの世界に存在することは、決してあってはならない事なのだと言う。
彼は、その世界の僕、つまり『黒い中島敦』と一緒に自分のオリジナルを見てみたいと話していて、共に研究をしていたという。
そして今日、その世界軸を越える事の可能な装置を開発したそうだ。
しかし、喜んだのも束の間だった。
何故なら、彼らの行動を不審に思った敵組織が家の周りを包囲していたのである。
そのため、テストチェックなどを全く行うことがなかったこの装置を起動させ、無理やりここに来たそうだ。
『2人で』
なんとか装置は誤作動を起こさずにここまでたどり着くことはできたが、黒い敦が見当たらなかった。ここに来るまでにシステムが分離し、黒敦と離れてしまったのだろう。
しかし、このままやられっぱなしなのも癪に障るので元の世界に万端な状態で戻り、復讐を果たすつもりなのだという。
そこで、取り敢えずこの世界についていちばん知っているであろうオリジナルに話を聞くことにした。
「それで僕がここに居るって訳。分かってくれた?」
少し無理矢理感が凄いが確かに理解することは出来た。そこである疑問が僕の頭の中に浮かんだ。
「じゃあ、どうすれば貴方は元の世界に帰れるんです?」
彼曰く、実は反転された世界の敦と芥川にはとても小型で最新機能の着いたチップを埋め込んでおいたらしい。
このチップには世界間を行き来するためのシステムを作動させる機能がプログラムされている。
しかし、それを作動させるためにはそのチップが2つ揃い合わせるしかないという。
そして、そのチップはそれぞれ1枚ずつ埋め込んであるため絶対的に会わなければならないということだ。
「それで、其の『黒い』僕は何処に居るんです?」
うーん。と白い芥川は考え込み、数秒の後
「あ、たぶんこっちの世界の僕のところにいるんじゃないかな。」
正直、本当か?と聞きたくなる一言だった。
「僕が君の近くに転送されたみたいに敦もこっちのオリジナルのところに転送されたんだと思うんだ。」
一理ある話だった。確かにこの芥川は僕の近くにふと現れた。何も無いような路地からすうっと出てきたのだ。
まるで天人五衰の道化師ニコライの異能のように。
「成程。じゃあ、僕は芥川を呼んで居てるはずの『黒い敦』を連れてきてもらえばいいんですね。」
「ありがとう。こんな僕の話を信じてくれて。」
「いえいえ、それで、此処だと人も多いですし、場所を移しましょう。」
申し訳なさそうに眉尻を下げた白い芥川にそう告げて、僕はとりあえず芥川に連絡を入れることにした。
芥川、今から僕の家に向かってくれない?
至急、芥川に話がある人がいてさ、これから僕の家で待つつもりなんだ。
あと、そっちに『中島敦』って名乗る人がいたら一緒に連れてきて欲しい。
頼んだよ。
これでよし。
僕は芥川にそう連絡し、自分の家へ向かった。