テラーノベル
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「東谷さん、橘さんって独身なの知ってましたか!」
隣の席の沢田さんが前のめりで言って来たので慌てて諫めた。
「うん、知ってたけど、あまり大きな声では……ね? 」
沢田さんは慌てて口を押えるとキョロキョロして誰も聞いていないとわかるとホッとして声を落として私に聞いてきた。
「誰にも言いませんから正直に言って下さい。橘さんと付き合ってたり……」
慌てて首を横に振ると沢田さんは心底ほっとした顔をしたことで察した。この子、橘さんが好きなんだ――と。必死な様子にもう少し安心させてあげたくなった。
「私ね、もうすぐ結婚するの。相手は会社とは関係ない人だから」
沢田さんの顔がパッと明るくなった。
「本当ですか! おめでとうございます! 」
「うん。まだ会社に行ってないから秘密ね」
そう言うと沢田さんはこくこく頷いた。
「東谷さん、橘さんとしょっちゅうご飯言ってるからてっきり……」
「橘さんがこっちにいた頃、私の教育係してくださっていてね。付き合いは長いから。なかなか橘さん気楽に飲める人が私くらいしかいないんだと思うよ」
「そうなんですね、でも何となく橘さんって東谷さんの事好きなのかなって思ってたからホッとしました」
なかなかに鋭くて変な汗をかきそうだ。
「あはははは」
「じゃあ、恋人とかいるのか知ってますか? 離婚されてそんなに経ってないしこっち来てそんなにも経ってないし、いないなら今がチャンスですよね。あんな素敵な人がフリーなんて奇跡でしょ。正直みんな狙ってんじゃないかと焦ってしまって」
「あーどうだろうね」
「すみません、こんな話しちゃって。でも、私橘さん見てたらお仕事頑張ろうって思えて、ポジティブになれるのいい恋なんじゃないかなと思ってます。見守って……ください……」
途中で恥ずかしくなったのか真っ赤になって最後は消えるような声だった。
……可愛い。見ていて私の胸もうずうずする。
沢田さんは最初こそ遠まわしにアピールしていたが、当の橘さんが沢田さんを全く恋愛の対象と見ておらず、沢田さんが自分に好意を持っていることなどつゆほども考えなかったらしい。しびれを切らした沢田さんがはっきりと好意を伝え、更に開き直ったのか積極的に行動し始めたのだ。
うろたえている橘さんを見るのは何ともおかしくて、案外お似合いなんじゃないかなと最近は思っている。
「聞いてくださいよ、東谷さん。橘さんね、私にランチ誘われるのが嫌だからって最近お弁当作って持って来てるんですよ」
思わずぶふっと吹き出してしまった。何やってるのよ、あの人。
「そうなの? すごいね」
「だから私もお弁当作って来て……独身の男性なんて栄養バランス考えないだろうと色々考えてですね、無理やり橘さんのお弁当と交換したんです。どうなったと思います? 」
「え、どうなったの」
「あの人、しっかりとバランスを考え、毎日違うおかずを作り、彩りも綺麗に詰められて。私のお弁当よりよっぽど出来のいいものでした。写真映える、映える。しかも美味しい。あの人、めっちゃ料理出来たんです」
私はまた吹き出してしまった。
「でも毎回お弁当交換してるってことは橘さんも嫌がってないってことでしょう? いい感じなのでは」
「私がお弁当作って来たら申し訳ないしなーとでも思ったんでしょうね。でも交換したのは最初の2回だけ」
「あとは自分のを食べているってこと? 」
「いいえ、橘さんが……わ、私の分もお弁当を2つ作って来てくれて……」
「ぶふ、ぶふふふふ」
もう我慢できなかった。
「恥ずかし過ぎる。私はもう情けなくて。あああ、いたたまれない。しかも、あの人のお手製のお弁当で私の肌艶がよくなってしまって……」
「あはははは! 」
私はお腹を抱えて笑ってしまった。ああ、時間の問題だ。いいんじゃないですか、橘さん。たった一度の人生ですから。
……人生、何があるかわからないなぁ。
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瑠璃🍫✨💭ྀི
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結局私には、婚活は全く意味がなかった。そう思っていたけど、マチアプで唯一繋がっている田原さんに婚活が終わった報告がてらメッセージをやりとりしていると、ひょんなことから仁香に田原さんを紹介することとなった。するとあれよあれよという間に意気投合し、二人は今結婚を前提につき合っている。
婚活としては意味が無かったけど、私が婚活をしなければ二人は出会わなかったわけで……そう思うとなんだか不思議だ。
私が広睦くんと出会ったのも、沢田さんのごり押しに困っていた橘さんがまんざらでもない顔で朝からお弁当を作っているのも。
結婚するつもりのなかった私の元カレがデキ婚したことも、橘さんの元奥さんがすぐに再婚したことも、広睦くんの元カノ(奥さん)が結局広睦くんとそう年のかわらない若い男性と結婚したことも――不思議だ。
紆余曲折あった私と広睦くんだって、広睦くんの元カノからすると“元彼がまた随分年上と結婚した”と思われるだろうし。橘さんの元奥さんからすると“元旦那が一回りも年下の女の子と付き合ってる”んだってことになるし。
一方からしか見えないこともある。ほんと、人生ってわからないものだなぁ。
でも、みんな好きにしたらいいんだよ。結局好きにするんだよ。
――――その人のたった一度の人生だから。
コメント
1件
うわあエピローグめっちゃ良かった…!!😭💕 沢田さんの橘さんへの恋バナ、可愛すぎてにやにや止まらんかった〜!! お弁当交換作戦まさかの逆転劇で、自分で作ったのに相手に作ってもらう側になっちゃうの最高すぎる(笑) 「たった一度の人生」って言葉、めっちゃ沁みる…。 みんな好きに生きて、それぞれの幸せ見つけてて、読んでてすごく温かい気持ちになりました🌸 完結エピローグにぴったりな空気感、大好きです!!