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調査兵団本部の廊下は、いつも埃っぽかった。
その日も、窓から差し込む光の中で小さな塵が舞っている。
リヴァイは無言で雑巾を絞った。
地下街を出て間もない彼にとって、兵団の生活はまだ慣れないことばかりだった。
人間関係も、そのひとつ。
必要以上に話しかけてくる奴もいる。
た
妙に遠巻きに見る奴もいる。
どちらも面倒だった。
だから一人でいることが多い。
「……あ」
その時、廊下の向こうから声がした。
振り向くと、新兵服を着た少女が立っていた。
長めの柔らかそうな髪。
少し困ったような表情。
年齢は自分と同じくらいだろう。
「ごめんなさい。通りたいんだけど……」
リヴァイは黙って掃除道具をどかした。
少女はぱっと笑う。
「ありがとう」
それだけ言って通り過ぎる。
普通なら、それで終わりだった。
なのに。
なぜか、その笑顔が頭に残った。
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数日後。
食堂で昼食を取っていた時だった。
「隣、いい?」
聞き慣れた声。
顔を上げると、あの少女がいた。
「勝手にしろ」
ぶっきらぼうな返事。
だが少女――〇〇は気にしなかった。
「私は〇〇」
リヴァイは答えない。
「あなたはリヴァイだよね」
「知ってんなら聞くな」
「ふふ」
笑われた。
馬鹿にされたわけでもない。
ただ楽しそうに。俺を怖がらず。
それが妙に気に障る。
なのに、不快ではなかった。
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〇〇は不思議な奴だった。
誰にでも優しい。
だが八方美人というわけでもない。
嫌なことは嫌と言う。
怖いものは怖いと言う。
素直だった。
訓練中に転んで膝を擦りむけば、
「いたた……」
と泣きそうな顔をする。
それでも立ち上がる。
剣術訓練で負ければ、
「次は勝つ」
と悔しがる。
リヴァイは知らないうちに、そんな姿を目で追うようになっていた。
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#夢主
そら
255
みゅう

68
ある日の立体機動訓練。
〇〇は着地を失敗した。
体勢を崩し、そのまま落下しかける。
「っ!」
気付けばリヴァイは飛び出していた。
ワイヤーを射出。
〇〇の腕を掴む。
勢いで二人とも地面に転がった。
「大丈夫か」
低い声。
〇〇は目を丸くする。
「リヴァイ……」
「ぼーっとしてんじゃねぇ」
「ご、ごめん」
「謝る前に次から気を付けろ」
そう言って立ち去ろうとする。
すると背後から声がした。
「助けてくれてありがとう」
振り返らない。
振り返らなかったが。
耳だけが熱かった。
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それからだった。
〇〇が笑うと安心する。
怪我をすると気になる。
誰かと話していると、なぜか目が向く。
理解できなかった。
いや。
本当は分かっていた。
認めたくなかっただけだ。
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夜。
兵舎の屋根の上。
リヴァイは一人座っていた。
風が吹く。
星が見える。
その時。
「こんなところにいた」
聞き慣れた声。
〇〇だった。
「何してる」
「星を見に来たの」
勝手に隣へ座る。
沈黙。
だが嫌ではない。
むしろ落ち着く。
「リヴァイ」
「なんだ」
「最近、前より話してくれるね」
心臓が跳ねた。
くだらない一言なのに。
「気のせいだ」
「そうかな」
〇〇は笑う。
月明かりに照らされた横顔。
その瞬間。
リヴァイは思った。
綺麗だ、と。
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その考えに自分で驚いた。
綺麗?
何を考えている。
地下街ではそんな感情は不要だった。
生きることだけで精一杯だった。
誰かを特別だと思う余裕などなかった。
なのに。
〇〇だけは違う。
会いたいと思う。
声が聞きたいと思う。
無事でいてほしいと思う。
それは仲間だからでは説明できない。
もっと個人的で。
もっと身勝手で。
もっと大切な感情だった。
⸻
「……〇〇」
珍しく自分から名前を呼んだ。
「なに?」
彼女が振り向く。
リヴァイは一瞬言葉を失った。
月明かりを受けた瞳があまりにも綺麗で。
胸が苦しい。
理由もなく。
ただ苦しい。
「……いや」
結局それしか言えなかった。
〇〇は不思議そうに首を傾げる。
「変なリヴァイ」
「うるせぇ」
そう返しながら。
リヴァイは自覚していた。
もう手遅れだと。
彼女が笑うだけで嬉しい。
名前を呼ばれるだけで胸が騒ぐ。
視界に入るだけで安心する。
地下街で生きてきた十五年の中で、一度も知らなかった感情。
それが何なのか。
もう分かっていた。
――好きだ。
けれど、その言葉だけはまだ口にできない。
ただ隣で吹く風のように。
〇〇の存在を感じながら。
リヴァイは静かに、その想いを胸の奥へしまい込んだ。
まだ誰にも知られない、初恋だった。
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